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ヒロインがスパイ! ~~女神様にリサイクルスキル貰いました~~  作者: かのね
第一章 学園編という名のプロローグ
8/11

第八話 苦手な者に相対すると疲れるわ、お酒が足りない!



「なんなんだお前は、一体なんなんだ!」


 帝国と王国と前世世界の皆さまこんにちはもしくはこんばんは、皆のヒロインカーラちゃん(偽装)です。

 そして目の前でなんなん言ってるのはこの国の第二王子。夏季休暇に入る前日、私はこの第二王子に空き部屋へと連れてこられた。


 学期末テストは無かったのかって? あったけれども暇な時間に勉強していた私に死角は無く、ゲーム通り満点合格。そのことが気に入らなかったヘンリエッタの嫌がらせが加速したけれど。


 悪役令嬢ヘンリエッタの襲来もなんのその、第二王子は私を構いに度々やって来た。そしてヘンリエッタからは寮の部屋に動物の死骸を届けられるなどの嫌がらせ、更には寮の階段から突き落とされる始末、勿論無傷。だが流石に無傷だと頑張っているヘンリエッタに悪いのでリリアに包帯を巻いて貰ってたりこちらも偽装工作をしている。因みに私を突き落としたのは取り巻きの一人。


 そんな愉快な学園生活を送っているのは、帝国と目の前の第二王子のせいである。


「なんなんだってなんなんですか!」


 なんなん言われたのでなんなん返すと更にヒースの顔が険しくなる。


「俺は次期王だ! 皆俺に媚び諂い女は俺に構う、婚約者がいたところで貴族共から娘を第二夫人にと押し付けられる。そんな俺にどうしてお前は一向に靡かない!」

「勝手に押し付けないでください!」


 因みにこれも喧嘩イベントである。さんざん私を構っている王子に靡く事無いヒロインちゃん。選択肢で直ぐに靡くことも出来るけれども、そうすると第二夫人エンド。又の名をヘンリエッタ友情エンドとなる。最初は第二夫人になる事にも難色を示していたヘンリエッタだが、ヒロインの献身的な支えと強い意思を見て仲直りして二人で支えていきましょうというエンドになるのだ。


 勿論私はそんなの御免なので一切靡かない。

 そのせいなのか、ゲームならばもう少し早めに起こっていたイベント漸く起きたわけだ。


「この俺が――」

「確かに王子様だから沢山大変な事があったのかもしれない、それは私には分からないです。でもね、人の心はそんなに簡単に手に入るものじゃないの!」

「俺は次期王だ! それくらい簡単に手に入れないといけないんだ!」

「でも私はそう思わないし、現に私の想いは手に入っていないじゃないですかぁ!」

「ならどうすればいい、お前を手に入れるためには何をすればいい」

「……教えてください」

「あ?」

「第二王子じゃない、ヒースさんの事ちゃんと教えてください、それから手に入らない女じゃなくてカーラとして私を知ってください、それからです!」


 ふんすと腰に手を当てながら可愛く睨む、勿論本気で睨んでいる風に見せている。


「……フッ、ふは、あはははははははははは」

「な、なんですかいきなり」


 ヒースの爆笑が出たという事は、イベントはもうすぐ終わりである。


「今までそんな事を言ってきた奴は誰もいなかったぞ! 第二王子じゃない俺か、面白いな」

「わっ」


 ずんずんと距離を詰めて私の背中に手を回し自分の方へと引き寄せるヒース。反射で地面に叩きつけそうになったがぐっとこらえた。


「なら俺の事を知れ、そしてお前の事も俺に教えろ、話はそれからなんだろ?」


 ニヤリと笑った王子は、きっと普通のご令嬢様が見たら黄色い声を上げてしまうんだろうなぁと思いながらも一つ頷く。


「そうです! それと離してください!」


 ぐっと力を入れているように見せて押すと簡単に解けて二三歩うしろによろめく、ように見せる。


「明日からお前はどうするんだ」

「どうって、何がですか?」

「帰省するのか?」

「お父様は私の事なんてどうでも良さそうだから……帰らない予定です」

「ならどうするんだ」

「寮に泊まってます」

「……分かった」


 ヒースは思案顔でそのまま外へと出ていった。私は誰も見ていない事を確認してひっそりとため息を吐く。

 正直に言えば私はヒースが一番嫌いというか苦手なキャラだった。本来の俺様とは違うのかもしれないけれども、このゲームで私が感じたヒースの実像は大きな子供だという事だった。我が儘で気に入らないと拗ねる、子供そのものだ。

 

 現実になった今もあまり変わった所は無いけれども、ゲームよりも内情を知っているのでヒースには少しだけ同情もしている。

 第一王子は生まれながらに体が弱かったので必然的に注目を浴びたのは第二王子だ。彼の表の評価は文武両道、王としての器もある人物という事になっている。だけれども実際は大きな子供なわけだ。でもそれが作為的な物だとしたら? 


 推測の域を出ないし、実際次期王の反感を買うのが嫌で皆彼に甘かったのかもしれない。でももしそう言った人物しかいなかったら? いや、そういった人物しか近づけていないのだとしたら? 第二王子があのような性格になったのも頷けるし、それで得をする帝国の存在も知っている。

 

 例えば宰相がヒースの周りに言うことを聞く者しか集めなかったとしよう、帝国と繋がりながら宰相をやっているくらいだ、王を欺き騙すのも得意なのだろう。教育はしっかりとしないといけない、自分に一任してほしい等と言って周囲の人選を行い、王の前ではいい子にするように育て上げてしまえばいい。


 実際そうすれば第二王子が王になってから甘言しか受け入れない傀儡が出来上がった可能性もある、それに付け込んでへまをさせることも視野に入れていたのかもしれない。


 まぁ結局は推論で答えは出ないけれども、なるべくしてなった王国の爆弾を使わせてもらう身としてはやりやすくて有難いと思う。


 もう一つため息をついて私も寮に戻った。




 翌日、早くもヒースからお誘いが来た。場所は最初にアランと会った場所だ。そこで時間を見つけて私に会いに来たらしい。

 誘われた場所に行くと、いつものような焦燥感が見られないヒース。私も席について雑談が開始する。基本的にヒースが私に尋ねてそれを返す、その返答を聞いてヒースも自分に当て嵌めて会話する。

 例えば幼少期だ。私は親の手伝いをしながら料理を親から学んだり、街のみんなと遊んだことを告げた。ヒースはそのころにはもう為政者になるための勉強を受けていたらしい。




 夏休みは基本ヒースの誘いを受けるために寮に引きこもり、いつでも誘いを受け入れる体制を取った。ヒースは学園に居た時と同じ頻度で来るので、政務は大丈夫なのかと此方が心配してしまうほどだ。

今日も今日とてヒースと話している。平民の話をすると何処か羨まし気な表情になったとのでそこを突く。


「お前と話すまでは平民なんてどうでもいい存在だと思っていた」

「酷いです!」

「だが今は少し羨ましくもある。俺は生まれてから王になるためだけに育てられてきた、理由や強い意思なんてない、ただ周りの言う通り自分は偉く王になるのだと」

「……」

「だがこうしてお前と話しているとたまに分からなくなる、何故自分が王にならなければならないのか、平民には自由があるのに俺には何もない。ただ決められた道を進むだけ、それでいいのだろうかと」

「それは私には答えられないよ、でもヒースがしっかり考えて望んだことなら私は応援しますよ!」

「応援か、お前らしいな」

「でもヒースを応援してくれる方はいっぱいいるんじゃないんですか?」

「あぁヒースとしてではなく次期王として応援してくれる奴はいるな。今まではそれでなんとも思わなかったが、俺を次期王ではなくヒースとして見ている奴なんぞいなかった。お前に言われて、周囲と接して、父上でさえ。たとえ俺を褒める奴がいても、あいつらは自分の保身の為に俺を褒めているだけだ」

「でも婚約者様は……」

「ヘンリエッタか? あいつが最たる者だ。自分にふさわしいならそのくらい出来て当たり前、次期王なら当然、そんな事ばかりだ」

「……そんな事無いです! 出来て当たり前な事なんて無いです! ヒースが一生懸命頑張った成果です! ……私は昔の事は知りません、でも学園で毎回満点でしかも剣術も魔法も出来て、位の高い方が受ける帝王学のテストだっていつも満点じゃないですか、だから私はちゃんとヒースに頑張ったって言いたい! 当たり前なんかじゃない」

「貴族としては当たり前なことなんだろ……だが礼はいってやるよ」


 ふっと笑ったヒースは、私の目に溜まっていた涙を人差し指でぬぐう。


「最初はとんでもない女だと思ったが、お前は優しいな」

「ふぇ?」

「この俺が気になった女だけはある」

「なんですかそれぇ」


 泣き笑いのような顔をしながらヒースに微笑む。


「これからも俺のために近くに居ろ」

「へっ?」

「返事は」

「う、うん分かった」

「当たり前だな……今日は此処までか、また来るからちゃんと俺の事を待てよ」

「分かってますよ」


 ヒースはそれだけ言うとそそくさと帰ってしまった。私はその背中を見送りながらゆっくりと寮へと戻る。……ゆっくりと帰ったのはちょっとしたわけがある。いつもはヒースと共に返っていく護衛の視線が二つ、私に残っていた。ヒースが来た時から感じていたので、暗殺者ということではないと思うが、もしかしたら王が私の存在を察知して監視を派遣したのかもしれない。これは下手な事は出来ないな。


 寮に変えるとリリアが迎えてくれた。


「お疲れ様でした」

「えぇ本当に疲れたわ、でも実入りもそれなりにあった」


 今日の話に出てきた自分は王子としてか見られてない! という話は物語でも結構進んだ時に話されていた内容だ。そしてヒロインの肯定を受けて段々とヒロインに恋をしていくわけである。なのである意味今日がヒースにとってのターニングポイントとなるだろう。ただの言う事を聞かない女から、気になる女性になるわけだ。


「あ~リリア、いつもの」

「……一昨日飲まれたばかりですのでお出しできません」

「チッ」


 いつものとはお酒である。学園に来てからは飲んでいない、学園に入れる年齢になったからには合法的に飲むことが出来るが、お酒に酔ってへまをしても嫌なので飲むのを止めていたのだ。しかし夏季休暇に入ってヒースの相手をした後は疲れでどうしても飲みたくなるのだ。演技とはいえ自分のキャラとはかけ離れている人物を演じるというのは精神的にかなり疲労感を伴うのだ。

 ただリリアが飲み過ぎは体に悪いと言って管理するようになったので好きには飲めない。


「さて、あとはどうするかなぁ」


 













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