第一話 私がヒロインとして目覚めてから
見切り発車してみました。
「やっほ~生きてる~」
「がはッ」
とうとう私にもお迎えが来たみたい。
目の前には光り輝く金髪の優しそうな女性、口調は間延びしていて見た目と相まっておっとりとした印象を受ける。
「生きてる生きてる、よいしょっと」
パチリと指が鳴ると今迄の痛みが嘘のように引いて行く。それに驚き先ほど貫かれたお腹を見ると傷が塞がっていた。
「ッ」
驚いて声も出なかった。日本で生きていた時も今生も神様なんていないと思っていた。神様との繋がりだとか、レベルとかスキルがある世界だろうとそんなものは存在しないと。でも今目の前にいるこの人は……。
「ふふふ、こんにちは私はルーファアース、女神です」
「め、がみ?」
「そう女神、あなたの魂をこの世界に入れたのは私」
「……どうして」
「たまたま私が欲しい時にあなたが死んだから、後はこの世界の元になったゲームをやっていたから」
「……」
そうか、やっぱりここはあのゲームと同じ世界。でもそれならおかしい、なんで私が今こんな目に合っているのか、どうして。
「でもね面倒臭くなっちゃったの」
「えっ」
「貴方を学園に入れて逆ハーにしようか、悪役令嬢転生でヒロインを悪役にしようか考えてたら……面倒臭くなっちゃった」
てへっと舌をちょっこり出す女神、仕草が外見と合っていて可愛いと思うが正直頭がついて行かなかった。
「だから投げ出しちゃったの、悪役令嬢役の子には魂も入れてないのよ? 異世界から貰った魂は貴方だけ」
「……」
「だけど貴方が学園に行くのは絶対、ほら、事実は小説より奇なりって言葉があるじゃない? 私はそれにかけようかなって。ゲームや小説にアニメだって見てるぶんには面白いのよ? でもいざ作ろうと思うと調整が面倒くさくて」
は?
「でね、ふと気が付いてしまったの。ヒロイン転生でも悪役令嬢転生でもどちらにしろあぁ楽しかったわ~という未来では無くて、はぁ! やり切ってやったわこんちくしょう! っていう未来が見えたのね。別に私は頑張りたくて場を整えたわけじゃないの、だからや~めたってしたわけ」
「じゃあ、私は、一体」
「……まっそれをちょっとだけ悪いなぁと思って出てきたの、本来なら貴族の血が流れているって見つかるはずが無かった、でも私が見つかるように生まれながら設定して魂を入れた……その後投げ出した結果、貴女の今ね」
「わ、私は」
「安心してね、入れたっていっても元いた貴女を殺したわけじゃないの、ちょっと混ぜただけ」
「まぜ」
「でまぁそのせいで魔物に殺されそうになってたから、私の加護と面白そうなスキルをあげようかなぁと顕現したのね」
「おもしろ」
「だって私大変な事は嫌いだけど、楽しい事とか大好きだもの! じゃあはい~っとな、よしよしこれでよ~し、じゃね~」
言いたいことだけ言って去っていた女神。私が転生した理由で、私がこんなダンジョンに入らないといけない理由で、それで面白いスキルつけて去っていた自称女神。
混乱していて正直よく分からないけど、一つだけ言えることがある。
「ふざけんじゃねぇ女神ーーーーーーーーーでもありがとーーーーーーーーーー」
私の名前はカーラ・ルクレン、とある乙女ゲームのヒロインだ。
そしてもう一方の私は日本で23年間生きていたしがない女。大学は出たものの就活が連敗続きでやっとこさ入社した会社が即倒産。その後はバイトをするも長く続かず絶賛ニート中だった。幸いちょっとだけ貯金があったのでそれも可能だったんだよね。そして知らんけど死んだらしい。別に事故ったり自殺したわけじゃない、そんな記憶ないし。ネトゲやってイベント終わって寝たら死んでた。多分心臓麻痺的なやつだと思う、それか脳卒中。酒飲み過ぎたのが原因かもしれない。
取り合えずそんな感じで死んだ私がカーラ・ルクレンちゃんの記憶って言うか女神の言う通りなら魂と融合して目覚めたのが12の冬。
目覚めたときは驚いたけど結構嬉しかった。なにせ夢にまで見た異世界転生を果たしているんだから。
でも段々とこの世界の情報を知っていくうちに私は顔色を青くした。なぜなら知っている乙女ゲームの世界だったからだ。
正直友達に貸してもらってやっていただけでそこまで情報を覚えていない。一応全部やったけど特に裏ボス的なキャラがいるわけでもないゲームだった、値段も結構安い。ただボイスとスチルは結構凝ってて好きだったし、なんと一部アニメーションがあってそれがかなり綺麗なのでストーリーはあれでも良ゲーだと私は認定しているゲームだった。
そんな世界に異世界転生したわけだけど、別にその辺のモブならこんなにも考えなくて済んだ。私が死んだ魚のような目をした理由は私がヒロインに転生したからだ。
元気はつらつ純粋無垢なヒロインちゃん。だけど私はRPGが好きなちょっと酒好きな女。愛想なにそれ美味しいのしてた女。元気はつらつ? 無理、純真? 無理。更に言えば、まぁこれは懸念が無くなったけど、これって悪役令嬢逆ハーなんじゃない? って言う疑問がどうしても私の中にちらついた。
でもそれならそれで私はひっそり過ごしていればいいかと開きなおった。
此処まではよかった、そう此処までは。なにせこの世界には魔物もいるし、ゲーム的に割とテンプレだった冒険者ギルドもあるし、申し訳程度の戦闘要素でレベルとスキルもあったから、街娘辞めて冒険者としてやっていくのでもよかった。そう思ってた。
決定的な出来ごとはお父様って言うか、ルクレン子爵が私を見つけてから。子爵は私のお母様の元雇い主、所謂メイドとってやつ。それで子爵の本来の嫁さんは元々体が弱くてお亡くなり。子爵も嫁さん一筋だからたまに遊ぶくらいで側室とかは迎えなかった。
奥さんが病弱だったので子供がいない子爵、結婚は生涯奥さんだけと決めていた子爵は適当に手を付けたメイドを調査した。そして見つかったのが私。もうお前でいいやで連れてこられた子爵邸。子爵は奥さんが亡くなったショックで気力もなく実際に領の采配を握っているのは執事だった。そこまでならゲームとほぼ変わらない、でもここからが違った。多分女神的に調整を止めたんだと思う。
なんとこの執事、実はこの国の隣国である帝国の出で、実は今でも繋がっているのだ。
そんなところに現れた平民、何も知らないモルモット。
執事は思った、こいつを学園に寄越して内情の調査、もっといければ男を堕とさせて帝国の駒と出来ないだろうか、と。
領主は無能に成り下がった今、その考えを否定できる者は一人もいなかった。
かくして実行された時私は思った。これが現実かぁと。
やって来たのは一人の優しそうな男、実態は帝国の裏部隊の一人。お父様は執事のいう事は素直に信じたので、まだ貴族になれていないお嬢様を少しピクニックでもさせてあげてはどうでしょうという因果関係のよく分からない話で丸め込み私はいざ帝国へ。
待っていたのは修行……というには生ぬるい訓練。先ずは体力作りに貴族の作法訓練。更に投げナイフに各種薬の耐性と製薬方法に使い方まで。学園入学まで三年しかないためかなりハードスケージュールでお送りしていた。正直心がぶっ壊れそうだった。痛かったし惨めだったし、でも私が主人公たる光魔術はどうやっても発現しなかった。それさえできればこんなつらい修行はしなくて良かったのに……。
だから考え方を変えた。これはきっと私がチートですげーするために必要な事なんだって。この技術を生かしてちょっとだけお酒を盗み飲むための訓練なんだって。実際あまり幼い体に取り込むもんじゃないけど、週に一回微量を盗み飲む、それが私の楽しみだった。
そうしてやって来た14の冬、なう。
ある程度仕上がった私は一人でダンジョンに突っ込まれた。今のお前なら余裕とか言われて突っ込まれた。でも初めてのダンジョン、私はこのために訓練して来たんだとはっちゃけて、負けるはずのない戦闘で負けた。不意の一撃、普段なら相手の気配とか魔力とかを感じ取って避けられる物だった、でも私は浮かれていた。そして死にそうになった。
結果、女神様に助けられた。
私にこんな苦行をしいらせた女神様は憎かった……でもこんな素敵な転生をくれた女神様は拝みたかった。だから言ってやった。
「ふざけんじゃねぇ女神ーーーーーーーーーでもありがとーーーーーーーーーー」