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アビリティリングの秘密  作者: 9741
第1章 アビリティリング
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お食事中の方はすみません

「もう、限界……」  


 ダイヤの球体からそう聞こえた。  


 そして球から何かが、女の方に落下した。


「きゃあ!!」  


 髪を全て攻撃に使っていたせいなのか、彼女はそれを受け止めることができず、落下物は彼女の顔面に命中した。  

 落下物の正体は、ダイヤモンドの塊だった。  

 どうして、ダイヤが落ちてきたのかはこの時分からなかったけど、とにかく少々大きめのダイヤの塊が彼女の顔に命中したのだ。  


 あのダイヤの塊がどれほどの質量を持っているかは分からない。でも、ダイヤが持つ硬度と重力加速で、凄まじい衝撃を生み出したことだろう。  

 

 その証拠に、女性の意識が途絶えたらしい。  

 

 髪の拘束が解かれ、ダイヤマンが解放された。  

 そして人型のダイヤの塊が、女性の下に落下した。


「ぐげぇ!!」  


 女が、まるでカエルのような声を出してダイヤ人間に潰された。とても女性が発した声とは思えない。  

 女の上に男が覆いかぶさる形になった。  


 私はふと、男の口元に目が行った。まるで寝起き後の涎のように、少量のダイヤモンドが付着していた。  

 私はそれを見て、理解した。正直理解したくなかったけど、分かってしまった。女の顔面に直撃したダイヤの正体が。  


 結論から言うと、あのダイヤは男のゲロ……消化されかけた昼ご飯、嘔吐物だ。  


 回転に耐え切れなくなった男は、胃の中の物を吐き出してしまったのだろう。  

 その嘔吐物が男の能力によってダイヤモンドに変化し、女を襲ったのだ。他の観客は『何が起こったんだ?』とざわついている。  


 でも私は真相を教える気はない。観客には、私のように食事中の人もいる。そんな人達に、嘔吐物をダイヤに変えた、なんて言えるわけない。


『……』  


 十秒ほど待ってみたけど、男も女も動かない。二人とも気絶しているようだ。  


 よって、この勝負……。


「引き分け、かよ……」  


 観客の一人がそう呟いた。  


 その言葉に反応したのか、自動的なのかは分からないけど、異空間フィールドが収縮していった。  異空間が消滅すると、見慣れた光景が目の前に広がった。  


 二十個以上はある学習机と椅子。黒とは名ばかりの、深緑色の黒板。後ろの方にはロッカーがズラッと並べられている。  

 そう、ここは学校の教室。私、凩やつでが通っている高校の、私が所属しているクラスの教室。  さっき戦っていた男女は、苗字は知っているけど、下の名前は知らないクラスメイト。観客もクラスメイト。さきほどの死闘は、昼休憩時間に行われていたのだ。  


 でも、今までの戦いは、幻だ。  

 彼らは幻想の中で戦い、私達は幻想の中で観戦していただけ。  


 アビリティリング。  

 着用者を異空間へと誘い、能力者へと変貌させる魅惑の道具。数十年前からディノコーポレーション、通称DCによって開発された。  

 現在、このリングを手首につけた能力者によるバトルが熱狂的に流行っている。それこそ、男女を問わず、子供もお年寄りの間でもとても人気だ。  


 能力者と言っても、仮想世界だけの話。本当に能力者になるわけじゃない。アビリティリングは一時的に、着用者を異空間フィールドへと転送させる。着用者は、その空間内限定で能力者となり、バトルをする。能力者が気絶、もしくは死ねば自動的に、異空間フィールドは消滅し、人々は元の世界に戻ることができる。  


 死ぬと言っても本当に死ぬわけじゃない。全ては幻だ。分かりやすく言えば、アビリティリングによる戦いは、コンピューターゲームだ。ゲームでアバターが死亡しても、現実のプレイヤーは死なない。そういうことだ。  

 現に、さっき戦っていた男女、佐藤くんと鈴木さんはケロっとしていて、互いの健闘を讃えあっている。  


 そうこうしているうちに、休み時間が終わろうとしている。  

 たしか次は移動教室だっけ。  

 私は残りのお弁当を急いで食べ終わり、次の授業の準備をした。

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