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アビリティリングの秘密  作者: 9741
第1章 アビリティリング
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能力者バトル

『異空間フィールド展開! バトル開始!』  


 特別な空間が展開され、空間を包み込む。  

 今、この瞬間、この場所は別世界となった。能力者が戦うための闘技場となったのだ。  

 闘技場には二人の男女が向き合っている。お互いを強い眼差しで睨み合う。  


 私は友達と一緒に異空間の端の方で、お弁当を食べながら観戦することにする。  


 どこからともなく、ゴングが鳴り響く。試合開始の合図だ。


「はぁあああっ!」  


 先に仕掛けたのは男の方だった。  

 彼の気合の入った叫び声と共に、男の身体が変化した。  

 うすだいだい色の皮膚が、ガラスのように透き通った色に変わった。彼を照らす光が屈折し、身体がキラキラを輝いている。  

 身体の材質を変化される能力者のようだ。


「アチョー!!」  


 まるで香港映画に出てくる格闘家のように声を発しながら、近くに鎮座していた岩めがけて、煌めく拳を振り下ろす。  

 轟音と共に、岩が割れた。人一人くらいの大きさがあった岩が双子になった。  

 岩が割れたのにも関わらず、男の拳には傷一つついていない。キラキラなままだ。  


 これで私は分かった、この男の能力が。  

 男の能力はズバリ、身体をダイヤモンドに変質させる能力だ。  


 最近知ったのだけど、ダイヤモンドは一番硬い物質ではないらしい。上から数えて三番目の硬さだって。  

 それを知った時、なんだか裏切られた気分になった。  


 だけどダイヤモンドは、様々な分野で優れた工具として利用されていると聞いた。それだけダイヤモンドは凄いと言えるだろう。  

 ダイヤに変身できる、これはなかなかの強敵だ。その強敵に対して、女の方はどう戦うのか。  

 これは見ものだ。私は卵焼きを頬張りながらそう思った。  


 ダイヤモンド男が女に向かって突進をする。ドシドシと力強い足音を立てて突っ走るその姿はまさに猪突猛進、猪のようだった。  

 女はタイミングを見計らい、ギリギリのところで横に飛んで突進をかわす。  

 男は負けじと方向転換し、女に攻撃する。だが女もそれをよける。  

 突進し、かわされる。突進され、かわす。それらの繰り返しだった。


「おい! 逃げてばかりじゃ勝負にならないぞ! ちゃんと戦え!」  


 ダイヤモンドマンが痺れを切らしてそう叫んだ。私以外の観客もそれに同調し、女に向かってブーイングをする。


「あら、攻撃ならもうしているわよ?」

「は、何を言って――っ!?」  


 そこまで言って、彼の動きがおかしくなった。  

 さっきまで、騒がしいくらいにダイヤ人間は走り回っていたのに、今は動かない。まるで壊れたカラクリ人形のようだった。


「か、身体が……!」  


 ダイヤマンが苦虫を噛み潰したような顔になる。  

 どうやら女の能力で、男は身体の自由を奪われたらしい。  

 一体どんな能力なのだろう。そう思ったのは私だけはなかった。他の観客達も『なんだ?』『どうした?』と各々に呟いている。


「教えてあげるわ」  


 そう言うと、女は自身のショートの髪をなびかせた。  


 その瞬間だった。  


 フワッとなびいた髪が伸びたのだ。ショートヘアがロングヘアになった。いや、ロングを通り越して超ロングだ。そして髪はウネウネと動いている。  

 まるでホラー映画に出てくる、日ごとに髪が伸びる呪いの市松人形みたいで、ちょっと不気味だ。


「これがあたしの能力。髪を自由自在に操ることができるの」  


 彼女の言葉は本当だった。  

 髪は女の意思に反応して様々な形に変化した。  

 ツインテール、三つ編み、ドリルのような髪型、ソフトクリームのような形。宴会芸を見てるみたいでちょっと楽しかった。


「あなたがバカの一つ覚えみたいに突進している間に、髪を一本ずつ、アンタの身体に巻きつけていたのよ」  


 私は目を思いっきり細めて、男の身体を確認する。  

 微かだけど見えた。男に何か細い糸のようなものが巻きついていて、それが女性の頭と繋がっているのが。  

 単によけているだけだと思っていたけど、ちゃんと攻撃をしかけていたなんて。私はちょっと意表をつかれた。  


 でも……。


「へっ! たかが髪の毛だろ! 引きちぎってやるよ!」  


 男の言うとおりだ。いくら意表をついたとはいえ、所詮は髪の毛。そう長くは拘束できない。ちぎられたらそれまでだ。


「別に完全に動きを封じるために、こっそりと髪を巻きつけていたわけじゃないわ。ほんの少し、少しだけアンタを動けなくして隙を作り、髪の毛全て巻きつけるのが目的よ」  


 そう言うと女は、全ての髪を男の両腕両足にまきつけた。その髪の動きは、まるで大蛇のようだった。


「確かに髪一本の強度はとても弱い。でも知ってる? 髪の毛は一人に十万本生えるの。十万の髪の毛が合わされば、それは強固な縄となるのよ!」  


 女は髪を操り、男を遥か頭上に持ち上げた。  

 男は必死に脱出を試みるが、十万の髪がそれを許さない。


「くっ! ……だが、ここからどうする? 推理小説みたいに、髪で俺の首を絞めて窒息死させるか? 残念だったな! 今の身体は髪よりも強固なダイヤ! 圧迫することは不可能だ!」

「絞殺できないのなんて分かっているわよ。……でも、これならどうかしら?」  


 女は、男を髪ごと回転させる。男はまるでコマのように、空中で回る。その回転速度は徐々に上がっていく。


「ちょ、やめ……!」

「ダイヤで構成された身体を外部から攻撃しても無意味。でも、こうやって回転させれば、アンタの目を、脳を揺らして、内部から破壊することができるわ」  


 ダイヤマン改め、ダイヤコマの回転が更に激しくなる。


「わ、分かった。俺の負――」  


 男は負けを認めようとした。  


 だが、女性がそれを許さなかった。故意に回転スピードを上げて、男の声を掻き消した。


「ギブアップなんてさせないわ。このままアンタが死ぬまで、あたしは回転をやめるつもりはない」  


 彼女の冷徹ぶりに、私は身震いをした。私の近くにいた、彼女の友達らしき人物が「あの子、あんな性格だったんだ……怖ぁ」と呟いていた。  


 回転している男が、錯覚で球に見えてきた。それだけ、あの回転スピードが速いことがうかがえる。

 

 これは彼女の勝ちだな。  

 誰もがそう思った。  


 その時だった。

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