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異世界という名の死後の世界  作者: ヒコ
序章 始点と終点編
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第四幕 2つ目の消失


晴哉と加奈は暫く無言のまま、住宅街を歩いていた。

2人共あまり話す気が起きない。

しかし、そんな中加奈が重たい口を開く。


「晴哉、死なないでね」


「死なねーよ、約束する」


「...うん」


晴哉は加奈を安心させるためそう言い切るが、死神が自分を殺しに来ること自体は問題ではない。

問題は加奈も狙われているのではいかということだ。

あまり詳しくはないが、死神を見ると死期が近いと聞いたことがある。

そして、加奈はあの時死神を見てしまった。

根拠はないが、加奈も殺しにくるという可能性は十分にある。

もし、そうならば自分が加奈を守らなければいけない。


しかし、あれからもう5年は経つ。

それなのに死神は殺しに来るどころか、現れもしない。


「なんか...妙に静かだね?」


「ーーーあぁ、それにさっきから1人もすれ違ってない」


晴哉は辺りを見渡すが、加奈以外誰もいない。

いつもならこの時間帯は会社終わりの社会人や部活終わりの学生が通っているはずだ。

しかし、今日は人がいないどころか気配すら感じない。


「......」


何か嫌な予感がする。

晴哉はあれ以来、日常のほんの僅かな違和感でも無意識に警戒するようになった。


「晴哉...」


それは加奈も同じだった。

加奈は晴哉の袖を掴み、彼との距離を縮める。


そして、2人の予感は的中する。


突然2人の周辺の温度が急に下がり、薄暗い夜の中僅かに照らしていた街灯が全て消える。


「な、なに!?」


加奈は突然の変化に戸惑うが、晴哉は平然としていた。

いや、平然ではない。

どちらかというとこの感情は怒りだ。

ましてや、家族を殺されて平然でいられるはずがない。


「死神......っ!!」


すると、晴哉の背後の影からその者が姿を現し、鎌を横に大きく構える。


「あぶねぇ!」


その動作に晴哉はいち早く気づく。

彼はとっさに加奈の肩を置いて素早くしゃがみ、死神の攻撃を回避する。


「...思ったより冷静ですね」


「この程度で殺せると思ったか?」


晴哉は加奈を抱え、一旦死神との距離を置く。


「随分とのんびりしてたんだな、死神。俺はお前が来るのを待ってたっていうのによ」


「殺されるのを...待っていたと?」


「てめぇを殺すために待っていたんだよ」


「...面白いことを言いますね」


死神は影の中に入り、姿を消す。


「死を司るこの死神を殺すとは...」


「ーーーはっ...!」


前から聞こえていた死神の声が突然後ろへ変わる。

その変化に少し反応が遅れ、後ろを振り向くと死神は鎌を振り下ろす体勢に入っていた。

しかも、標的は加奈だった。


「させるかっ!」


晴哉は急いで加奈の前に立ち、振り下ろされた死神の鎌を素手で受け止める。

受け止めてわかったが、死神自身の身体能力は成人男性の平均より確実に低い。

思い返せば小学6年生の晴哉のパンチでさえよろけてしまうぐらいだ。


「なんで、こいつを狙う?」


「私の存在を知ったのです...生かす理由はありません」


予想通り、やはり死神は加奈を殺すつもりだ。


「なるほど、でも加奈は殺させねぇ」


二度も奪われてたまるか。

この5年間一度もその決意を切らしたことはない。


「あなたがどうしようが...私には関係ない。私は私のやるべきことを実行するだけ...」


「なら、俺は全力で邪魔するだけだ!」


晴哉の拳は勢いよく死神の顔面に迫り、その攻撃は避けれないと判断した死神は残った片手で受け止めようとするが、


ーーーーーーグキッ...!


鈍い音と同時に死神は後方へ飛ばされる。


「加奈、絶対に俺から離れるなよ」


「え、でも...?」


「こんなで殺れたら苦労しない」


「わ、わかった」


晴哉の言う通り死神は何事もなかったように立ち上がる。


「口だけではないですね..」


死神は鎌を振り上げ、その鎌から黒いオーラが滲み出る。さらに死神の周りから冷気が漂う。

あの時と全く同じ光景だ。


「晴哉...」


加奈は晴哉の袖を力強く掴む。

晴哉は袖から加奈が震えているのがわかった。

しかし、今の晴哉に恐怖という文字はない。


「何回でも言う。俺は死なねえし、加奈も死ねせねえ」


「それは無理な話です...」


死神は振り上げた鎌を勢いよく振り下げる。すると、そこから黒い斬撃が生まれ、その斬撃はまっすぐ晴哉たちに襲い掛かる。

しかもその斬撃は影を取り込み、迫るごとに大きくなっていく。


しかし、


「波ッーーー!!」


晴哉は左足を強く踏み込み、黒い斬撃に向けて拳を放つ。

すると、その拳から凄まじい拳圧が生まれ、黒い斬撃が一瞬にして相殺される。

また、黒い斬撃と拳圧が衝突したことにより、砂埃が舞い散る。


「まさか...あれを掻き消すとは...ですが

女は始末しました...」


「あ?何言ってるんだ?加奈なら後ろに...なっ!?」


後ろにいたはずの加奈がいない。

晴哉は嫌な予感がし、煙の向こうにいる死神の方を見る。

そして、煙が消えていくごとに見たくない光景が鮮明なものになっていく。


「加...奈...」


死神の目の前で加奈が倒れていた。


「あなた...死神を甘く見過ぎです...影さえあれば私のみならず他の生物の移動も可能なのですよ...」


注意はしていた。

何があっても加奈から意識を逸らさないよう注意していた。

だけど、拳を放つたった一瞬意識を逸らしてしまったのだ。

5年間の決意は僅か数秒で壊れた。

晴哉はその場に立ち尽くし、動かなくなった加奈をじっと見ていた。


「ははっ、なんだよ、なんだったんだよ俺の5年間は」


何のために強くなった?

何のために今まで耐えてきた?

それは死神を殺すためではなく、加奈を守るためだ。

家族がいない晴哉にとって加奈は唯一無二の存在。


「あなたもあとを追わせます...」


死神は次に晴哉の命を刈り取ろうとする。


ーーー元はと言えば全てあいつが原因だ。あいつさえいなければ...!


その時、晴哉に一つの感情が芽生える


ーーーーーー殺す


それは殺意だった。

しかも、その感情は次第に大きくなり、晴哉の心を蝕んでいく。

だんだん保てなくなる自我、それに呼応するように晴哉から黒いオーラが滲み出る。

それはまるで死神のようだった。


「やはり...宿っていましたか...」


「殺す」


死神と晴哉との距離は約十メートルーーーその間合いが一瞬で縮まる。

その速さは最早人間ではない。


「ーーーーーっ!?」


死神は急な速度上昇に反応が遅れ、躱す暇さえない。

そして、晴哉の拳が無防備な死神の顔面を捉える。


「ーーーーーぐはっ!!」


死神は体勢を立て直すことも出来ないまま、数十メートル飛ばさる。


「はぁ、はぁ...仕方ありませんね...」


晴哉の足元の影から黒い手が現れ、晴哉の体を包み込む。


「離せ...殺してやる...!」


晴哉は必死に解こうとする。

しかし、次々と現れる黒い手は次第に晴哉の身体を覆い被さっていく。


「長引けば面倒です...少し本来の目的と違いますが...趣旨は間違ってはいません...これで一旦私の役目は終わりです」


晴哉は遠くなる意識の中、倒れている加奈が目に入る。


ーーーーまた...守れなかった...もう俺に...生きる意味はない...ごめんな...加奈...


そして、黒い手が体全体を覆い尽くし、晴哉は意識を失ったーーー






序章 始点と終点編 ー完ー


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