第九話 ギルの婚約者
肉球は猫派!!
今さらですが季節設定は夏です……なんか本編でかけそうにないのでここに。
異世界に来て二カ月、だいぶ特殊技能の扱いに慣れて来た。
より正確に言うと、自分の中にある魔力をしっかりと捉えられる様になったのだ。
使った後に来る疲労感によって、あとどれくらい残っているかや、どれくらい回復したかなど、感覚で解る。
(とはいっても魔法が使える訳でもないし、特殊技能は魔力が少なくて強い武器とかは造れないし……これじゃあんまり進歩してないよなぁ)
クロノの魔力があった頃は、もっとたくさんの物を造れた。
自分の魔力では一日三回、休憩をとって魔力を回復させれば最大五回が限界。
更に造る物の質によって回数も変化する訳で、進歩していない事に変わりはない。
(いやいや、あきらめちゃ駄目! 私はギルより強くなって自由になるんだ!)
クロノの所に帰って、榊原と東堂寺に追いつくのだ。
このマグニの城でのんびりとしている場合ではない。
(てっ、私が強くなる前に二人が魔王を倒して、元の世界に帰っちゃったらどうしよう!)
そうだ、なんたって二人は勇者なのだから、君子が刻印を消す前に魔王を倒して帰ってしまうかも知れない。
そんな事になったら置いてけぼりになってしまう、やはり一刻も早く強くならなければ。
(うう、町娘のユニットでエスターク倒しにいく気分だよぉ……)
君子が嘆いていると、ドアがノックされた。
「キーコ様、おはようございます」
アンネが、タオルと洗面器を持ってやって来た。
ポテチの一件以来、ギルベルトに近づいても良いと言う事になり、この四階に出入りが許された。
彼女は君子の世話係を仰せつかり、こうやって顔を洗う用意を持って来てくれる。
「おはようございます、アンネさん」
「キーコ様、またお一人でお着換えになったのですか! 私が手伝うといつも申し上げているではありませんか!」
「えっ……着替えぐらい一人で出来るし……」
手伝ってもらうなどまるで子供だ、アンネが来る前に制服に着替えているのだが、どうも貴族と言うものはお手伝いさんに着せて貰うのが普通らしい。
「あっあのアンネさん、私を様付けになんかしなくていいですよ……それに口調だってそんなかしこまらないで、前みたいに普通にして下さい……」
「何を言っておられるのですか、キーコ様は王子の大切な客人なのですから」
客人ではなくて拉致軟禁されているだけだ。
だがやはりこうかしこまられては居心地が悪い。
「……でも私貴族でも何でもないです、こうかしこまられるのは慣れてなくて、落ち着かないんです……だから普通に接して下さい」
「キーコ様……」
「せめて二人だけの時はやめましょう、様なんておこがましいし敬語もいらないです」
「…………キーコが言うなら、そうするわ」
アンネはそう言って笑ってくれた。
彼女の笑顔を見てだいぶ気が楽になった、凡人の自分にはこれくらいがちょうどいい。
「前から聞こうと思ってたんだけど、キーコって異邦人なのよね?」
「えっはい、そうです」
「この城に来る前はどこに居たの、この辺の村?」
「あっ、ハルドラに居ました」
「えっ……」
「友達とハルドラに来てしまって、ハルデで魔法の勉強をしていたら……ギルに逢って、それでこのお城に…………アンネさん?」
急に静かになってしまったアンネ、何かおかしな事を言ってしまっただろうか。
「ハルドラで……いじめられたりしなかった?」
「へっ、皆さんいい人でしたよ?」
ラナイはちょっと高圧的だったが、シャーグもクロノもパン屋のお兄さんもいい人だ。
「そう…………ほら、あの国って人間以外の種族居ないでしょ、異邦人がいたらどうなのかなぁって思ったの……」
「そう言えば、私人間以外の人達を見たのはこのお城に来てからでした……ヴェルハルガルドにはいろんな人達が居るんですね」
「そうよ、ベアッグさんは言わずと知れた獣人だし、ユウとランはドワーフだし、ヴィルムさんと王子は魔人だもんね」
「ユウくんとランちゃんってドワーフだったんですか!」
ドワーフと言えば、小人でおじさんでヒゲというイメージだったので気がつかなかった。
「そっ、ドワーフは普通手先が器用なんだけどね……あの二人は不器用で困っちゃうわ」
「そうなんですね……、魔人とか人間とかってどうやって見分けるんですか?」
ギルベルトは角があるから解るが、ヴィルムには角がなくて正直見分けがつかない。
「そうよね、魔人って色々居るのよ角がある種族も居れば、牙がある種族もいるし……あんまり外見にこだわらないのよねぇ」
「おおざっぱなんですねぇ……」
「でもよ~く見ると人間より耳が尖ってたり八重歯が長かったり、なにかしらの特徴があるわよ」
種族がきっぱりと別れていると思ったが、案外そうでもないらしい。
この辺はやはりゲームや漫画に比べて現実よりだ。
「キーコ入りますよ」
ノックをしてヴィルムが入って来た。
「あっヴィルムさん」
「ギルベルト様が待っています、早く支度をして下さい」
ちょうどいいタイミングだ。君子はヴィルムを穴があくほど見つめて特徴を探す。
しかし耳も八重歯も尖って居ない。
「……なんですか」
「今アンネさんに魔人と人間の見分け方を教わったので、ヴィルムさんの特徴を探しているんです」
「……貴方は変な所が気になるのですね」
ヴィルムは呆れた様にそう言うと、右手の手袋をはずして手を差し出して来た。
握手らしいがなぜこんなタイミングでやるのだろう、疑問だが握って見ると――。
「んっ、冷たい!」
「私は氷の魔人ですから、人間に比べると体温が低いんですよ」
手が冷たくて人間なら多分死んでいる体温だ。
なるほど眼に見える特徴だけと言う訳ではないらしい。
「色々な魔人が居るんですねぇ……、そう言えばアンネさんは何の種族なんですか?」
「えっ……私は……」
君子がわくわくしながらその答えを待っていると、ノック無しでドアが乱雑に開かれた。
「キーコぉぉ、おっせぇぞお前!」
「ぎっギル!」
待ちきれなくなったギルベルトがやって来て、君子の腕を掴むとそのまま抱きしめる。
彼の部屋に行くのが遅くなると、いつもこうやって拉致しにくるのだ。
「自分で歩く、やぁだ、降ろしてぇ~」
「キーコはおせぇからヤダ」
ギルベルトはそうきっぱりと言うと、暴れる君子を抱きしめて自室へと向かう。
もはや恒例となった光景を、アンネとヴィルムは黙って見ていた。
「……あはっ、王子は本当にキーコの事気に入って居るんですね」
「本当に、アレ以上の美人は腐るほどいるのですが……」
ヴィルムはそう言うと、どこか複雑そうな表情をしているアンネへと視線を移す。
「正直に言っても良かったのではありませんか……彼女は異邦人、こちらの事には疎いのですから」
「…………そう、なんですけどね」
アンネは少し困った様にうつむいてしまった。
「……そうなんですよね……」
「ふぁ~いつも通り美味しかったです」
朝食を食べ終えた君子は、幸せのため息をついた。
ベアッグは本当に料理が上手い、あの肉球と爪でどうやって作って居るのだろう。
「食後の紅茶は如何ですか?」
「はい、お願いします」
ヴェルハルガルドでは紅茶が基本らしく、尋ねてみたがコーヒーは希少で都に行かなければ入手出来ないそうだ。
(食材によってもある物と無い物があるんだよなぁ、ハルデにはマヨネーズが無かったけど、こっちにはあるし……まだ常識が分かんないなぁ)
「あとポテチな!」
ギルベルトはあれから毎日ポテチを食べていた。
ジャガイモが食べられる様になったのはいい事だが、毎日食べるのは健康面で問題がある。
「ギル、ポテチばっかり食べちゃ駄目だよぉ」
「うめぇんだからいいだろう」
ベアッグが試行錯誤してくれた様で、君子が造った物よりも分厚く食べ応えがありながら、ぱりっとした食感はそのまま、もう既製品クラスだ。
「まぁ確かに美味しいけど……ポテチの食べ過ぎは良くないんだよぉ」
「なんでだよ、野菜なんだろう」
ポテチを野菜として認めてはいけないはずだ。
少なくとも日本人の君子には認められない。
「それはそうなんだけど……ポテチは野菜だけど野菜じゃなくてぇ……」
「あ? わけわかんねぇな」
ギルベルトはそう言うと、ポテチを口一杯に入れて食べる。
朝からフルコースを食べて、更にポテチを食べるなど、前から思っていた彼は結構な大食漢だ。
「う~食べ過ぎは良くないんだってばぁ……」
「でもポテチは本当に美味しいわよ、ユウとランが盗み食いして大変なんだから」
「まぁベアッグさんのポテチは確かに美味しいけど……」
今度はもっと野菜らしい物をギルベルトに食べさせなければいけない。
アンネが淹れてくれる紅茶を待っていると、ノックをしてヴィルムが入って来た。
「ギルベルト様、食後で申し訳ありませんが、お客様でございます」
(お客……誰だろう)
ギルベルトの客と言うのはとても気になる。
興味があるので見つめているとヴィルムの後ろから誰かがやって来た。
まず見えたのは真っ黒な毛のたてがみ、長いひげに頭の上の丸っこい耳。
鋭い牙と爪に、お尻から生えている尻尾。
「ふぁっ!」
君子は眼を疑った、だってそれは――。
それは真っ黒なライオンだった。
真っ黒なライオンが中世の灰色の軍服を着て、二足歩行で立っていた。
身長はヴィルムよりも高く二メートルくらいある。
「ブルス・レーガン、只今帰還いたしました」
黒ライオンは、部屋へ入ると恭しくギルベルトの前にかしずく。
「ギルベルト様、このブルスますますの忠誠を御身に誓いますぞ」
そう言って頭を下げる黒ライオンのブルス。
その彼に向かって――君子が抱きついた。
「にゃんこぉぉぉぉぉぉ!」
もふっ、と鬣に顔をうずめる君子に、当人であるブルスも、アンネやヴィルム、そしてギルベルトも驚いていた。
「ぬこ! おっきいぬこだよぉ!」
「なっなんだこの小娘はぁ!」
ブルスは突然抱きついて鬣に顔をうずめるてくる君子に戸惑うが、彼女はそんな事無視してひたすら頬をすりよせてモフる。
「はっはなせ小娘、この俺を最凶の戦士ブルスと知っての無礼か!」
そう言って君子をその太い腕で払いのけ様とすると、ヴィルムが静かに口を開く。
「彼女はギルベルト様の所有物です、手荒な真似をして傷つけぬ様に」
「なっ……こっこんな小娘が!」
ブルスは自らの主、ギルベルトへと視線を移す。
「…………むっ」
明らかに機嫌が悪くなっていて、こちらを睨んでくる。
ヴィルムの忠告は嘘ではない、仕方がないので爪ではなく掌で君子を押す。
「ええい離れろ小娘め……このおっ!」
しかし彼の掌には掌球すなわち肉球がついて、それは猫好きには暴力などではなくご褒美であった――。
「にっ、にくきゅうう!」
「うおおっ!」
君子はブルスの腕をがっしりと掴むと、その大きな肉球へと顔をうずめた。
あのぷにぷにとした感触がたまらず、そのまま頬ずりをする。
「ぷにっぷにだよぉ! にくぎゅう、にぐぎゅうだよぉ、ぷにぷっにぷぷぷ!」
いつになく幸せそうな彼女を見て、ギルベルトは明らかにイライラしていた。
その対象は抱きついている君子へとなく、抱きつかれているブルスへと向けられている。
「このっ……このやろぉ……」
指を鳴らしてかなりお怒り気味のギルベルトを眼にして、ブルスは身ぶるいを起こす。
こうなったら少し脅して怖がらせてやろう。
「この小娘離れぬのならば、この爪でお前を引き裂くぞ!」
睨みつけ牙を見せ付けて怖い顔をする。
この程度の小娘ならば、これで泣きわめくに違いないそう思っていたのだが――。
「全然オッケーです、猫に引き裂かれて死ねるのなら本望です!」
むしろキラキラとした眼でこちらを見て来た、怖がるどころか喜んでいる様に見える。
「うへへっ、にゃんこぉ、にくきゅう……うへっうへへっ!」
ブルスの肉球に頬ずりをして、いつになく恍惚な笑みを浮かべる君子。
ギルベルトが抱っこしても撫でても頬ずりしても、あんな笑みを浮かべた事はなかった。
明らかに妬いて居るギルベルトは、額に血管を浮かべて、爆発寸前になっている。
「折角療養から帰って来たのにもうお帰りですか、残念です……墓参りくらいは行って差し上げますよ」
「ヴィっヴィルム! 貴様俺を勝手に殺すんじゃない!」
だがギルベルトはグラムを引き抜いて完全にやる気だ。
眼がマジだ、このままでは殺される、ブルスは死を覚悟した時――。
「うへへっ、ギルは凄いね、こんなおっきなにゃんこ飼ってるなんて!」
君子が笑顔でそう言う。
肉球を堪能した今の君子は、今までに無いくらい幸せそうで、その笑顔と言葉だけでギルベルトの怒りを鎮火するほどだった。
「……そっそうか?」
「凄いよ、黒くておっきいにゃんこなんてめちゃくちゃカッコイイよ!」
「カッコ……いい」
褒められて素直に嬉しそうなギルベルト。
だが彼は気がついて居ない、あくまでもブルス中心で君子がそう言った事を。
(今、初めてマグニの城に来て良かったと思えた……やっぱり犬より猫だよぉ……)
すっかりご満悦の君子。
そんな彼女に呆れながら、アンネが口を開く。
「あの~お客様ってブルスさんなんですか?」
「いいえ、彼はお客人と一緒にこちらに来ただけです、今からお連れいたしますよ」
ヴィルムはそう言うと、一旦廊下へ出て誰かを呼びに行った。
君子は嫌がるブルスの肉球を突っつきながら、その様子を見ている。
「こちらへどうぞ」
ヴィルムの先導でやって来たのは、二〇くらいの女性。
淡いパープルのフリルのドレス、胸元には大きなサファイアのネックレス。
ふんわりとした膨らみのプリンセスラインのスカートが、歩くたびにひらひらと揺れてまるで踊っている様。
絹の様に細くてやわらかなブロンドの髪に、透き通った青紫色の眼。
だが君子が何よりも驚いたのは彼女の耳――人間の物ではない、ぴんと尖った獣の耳が頭について居た。
それは獣耳の美女だった。
その美しさは絵画から抜け出て来た様なもの。
見惚れる君子の横を通って、ギルベルトの前へと来るとスカートをつまんで優雅に挨拶をする。
「お初にお目に掛かりますギルベルト王子、私カルミナ・リイン・フォルガンデスと申します」
と微笑を浮かべる獣の耳の美女カルミナ。
その笑顔というのは、モナリザに匹敵するほどの微笑みで、笑顔だけで人を死に至らしめるに十分な殺傷能力がある。
その餌食となったのが、モブで脇役の君子だ。
(ふはっ……すっげぇ美人で獣耳なんてなんちゅう最強タッグ、神々しい光がぁ……)
美人の彼女から発せられるのは、ヒロインオーラ。
間違えない、彼女は少女漫画のヒロインだ。
「……んだよ、こいつ」
しかしそんなオーラをまるで解っていないギルベルトは、とても横暴な態度をとる。
こんな美人の前でふんぞり返るなど、何と言う男なのだろう。
「ギルベルト様、以前お話を致しました名門貴族フォルガンデス家のご息女でございますよ」
(貴族、たっ確かに身なりとか全部、トータルでお姫様だよ! こんなふりふりのドレスが似合う人が居るなんて……)
貴族の上に名門がつくのなら、きっと凄いお金持ちのお嬢様に違いあるまい。
きっと薔薇が咲き乱れる綺麗な庭園のあるお屋敷で、紅茶を優雅に飲みながら午後の緩やかな時間を、真っ白な犬でも撫でながら過ごすのだろう。
「しらねぇ」
「……ではもう一度、解りやすく簡潔にご説明いたします」
ヴィルムはため息をつくと、君主が忘れたその話をもう一度始める。
「カルミナ様は、ギルベルト様の婚約者でございます」
「こっ……婚約者」
こんやく‐しゃ【婚約者】結婚を誓った相手。フィアンセ。
それはつまり――ギルベルトの奥さんになる人。
「ギルの婚約者……」
美人でしとやかなお嬢様カルミナと、イケメンで王子様のギルベルトを、君子は交互に見つめる。
この二人が夫婦になる。
(めっ、めっちゃくっちゃいいじゃねぇですかああああああ!)
美人とイケメンのカップル、それは駄目出しが出来ないほど完全無欠のカップリング。
そしてそれは、正に二次元の様。
(つまりこれから二人は、フラグを立てて色々なイベントを起こして、愛を育んで行くんですね! 乙ゲーの様に!)
君子の脳内では、既にギルベルトとカルミナの物語が造りだされ、イケメンやロリっ娘恋敵や国の陰謀に巻き込まれてながらも愛を育んでいくと言うストーリーが完成した。
もはやカルミナのギルベルト攻略ルートは完璧である。
「(ちょっとキーコ……どうしたの、にやにやしちゃって)」
「うえぇっうええっ!」
こんな不細工なにやけ面を晒してしまった。
恥ずかしい、急いで顔を手で覆って世間様から醜態を隠す。
「婚約者ぁ…………この女が?」
印象が悪い、自分の婚約者に何と言う態度をとって居るのだ。
カルミナはギルベルトの顔を見て、自分が受け入れられていない事を察すると、申し訳なさそうな顔をしてしまう。
「申し訳ございません……私の様な女では王子のお相手にはあまりにも不釣り合いでございますね……」
そう言う彼女はどこか悲しそうだった。
それもそうだ、折角婚約者に逢いに来たらこんなひどい扱いを受けているのだから。
(ギルったら何もあんな風に言わなくったっていいのに…………でも許嫁が最初にこういう態度をとるのは定番のパターン、今だけですからね、カルミナさん!)
そっと心の中でカルミナを応援する。
そう、愛(乙ゲー)は障害が多いほど二つの意味でもえるのである。
「カルミナ様はしばらくこの城にご滞在なされます、その間に互いに知り合って行けばよろしいのではございませんか」
流石は出来るイケメンヴィルム、カルミナのフォローとさりげなくギルベルトへの釘さしを同時に行うとは、やはりクールな男は違う。
「しばしの間、お世話になります」
こうして、ギルベルトの婚約者カルミナがやって来たのだった。
「いや~本当に綺麗な人だったんですよ、カルミナさん」
君子は水を張ったタライの中で野菜を洗いながら、ベアッグに楽しそうに話す。
「そいつは多分獣人と人間のハーフだな、半獣人っていうんだ」
「あ~やっぱりベアッグさんとかブルスさんみたいに獣人なんですね、半獣人って珍しいんですか?」
「いいやキーコほど珍しくねぇぞ、特にヴェルハルガルドは多人種国家だからな、そうなると自然とハーフも増えるんだ」
日本に居た時は周りが同じ生粋の日本人で、正直外国人やましてやハーフの人とふれあう事などまるでなかったので、なんだか新鮮だ。
「そうなんですねぇ……はぁカルミナさん美人だったなぁ~」
「カルミナって、だーれ?」
「だーれ、だーれ?」
「うふっ、ギルの婚約者さんだよ~」
そうユウとランに説明するのだが、小さい二人にはピンとこない様で、ポテチをつまみながら興味のなさそうな返事をする。
「ちょっとキーコ、なんで野菜洗いなんてしてるの!」
アンネがぷりぷりと怒りながらやって来た。
そして椅子に座ってポテチをつまむ双子を睨む。
「あんた達、キーコに仕事を押し付けてんじゃないわよぉ!」
「ユウつかれたんだもん」
「ランおなかすいたもん」
そう言って、更にポテチを頬張る二人。アンネは拳を握りながら額に血管を浮かべる。
「あんた達ぃ……」
「アンネさん二人は悪くないんですよ、私が手伝うって言ったんですから」
「キーコ……貴女はお客様なのよ、こんな事しなくていいの」
そう言ってニンジンを取り上げるアンネ。
「え~じゃあお洗濯を~~」
「違うの、野菜洗いの話をしてるんじゃないの!」
お手伝いがしたいのに怒られてしまった。アンネに言われて渋々厨房の長椅子に座る。
「さっきベアッグさんに話してたんですけど、カルミナさん美人でしたね」
「そうね、やっぱり貴族のお嬢様は違うわよねぇ~、顔はいいし出る所出てるんだから」
「あははっ、本当にうらやましいっすよ」
そう言って君子は自分の平野部を見つめる。
お山は一つもない、まっ平らな平地の様な胸部。
「だっ大丈夫よ……女の評価はそこだけじゃないわよ……」
「そうだぞキーコ、女の魅力はなぁ、毛並みだぞ毛並み」
ベアッグの何の参考にもならないアドバイスに苦笑いをすると、改めてカルミナの事を考える。
(婚約者なんだから、まずは結婚の前にそれ相応の仲にはなるんだよね……と言う事はギルがカルミナさんを抱っこしたり頬ずりしたり……いっいつかはきっききっキスとかも!)
恋愛経験が乙女ゲームでしかない無い君子には刺激が強い。
邪念を振り払う様に首を左右に振る。
(あれ、でもそうなったら私はどうなるんだろう?)
抱っこや頬ずりがカルミナに移るのであれば、君子は必要ない。
と言う事はもしかして――。
(私、自由になれるんじゃない?)
そうだ、カルミナと言う美人の恋人が出来れば、ギルベルトは彼女に夢中になって地味でそばかすの不細工な君子には見向きもしなくなる。
そうなればこの城に居たって仕方がない。
(そうだよ、ギルが私に飽きちゃえばいいんだよ! なんでもっと早く気がつかなかったんだろう……そっちの方がギルより強くなるよりずっと簡単じゃん!)
妙案を思いついて、不敵に微笑む君子、しかし四人はそんな彼女に引いている。
「キーコ……なに笑ってんの?」
「さあなぁ、なんかいい事でもあったのか…?」
「キーコへーん」
「キーコへーん」
だがそんな外野の声など聞こえない。
君子はやる気は、炎の様に燃え上がっていた。
(絶対に、ギルとカルミナさんをくっつけてみせる!)