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地味女子ですが、異世界来ちゃいました!  作者: フランスパン
異世界召喚編
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第〇話 プロローグ~山田君子の序章~

 


 世の中には、二種類の人がいると思う。

 一つはまるで小説や漫画の様な、主人公。

 勇気とか努力とか友情で困難に立ち向かって、人生がまるで物語の様な人。

 そしてもう一つは、そんな主人公に花を持たせる脇役。

 人生を幾ら書いても、主人公の半分にも満たない、平凡で普通な人。

 主役がいかに素晴らしいかを強調させる為のモブ。

 えっ、私? 私はもちろん後者です。




 山田君子(やまだきみこ)、一六歳。

 都内の高校に通う、ごくごく有り触れた普通の女子高校生です。

 いや、本当に普通なんです。

 何一つとして自慢できる物もないし、張る為の胸が無いって言うか、ははっ(苦笑)。

 ルックス? あぁ顔中そばかすだらけのおさげ眼鏡女でございますよ。

 成績だって良くないし、運動なんて常人以下。

 ねっ、私はモブでしょう。

 もうモブの中のモブ、ベストオブモブなんです。

 ああ自分でも何言ってるのか分からなくなってきました。

 とりあえず、私がごく有り触れた人間であるという事だけ理解してくれれば、それでもう十分ですよ。


「あっ、地味子~このプリント、先生に持ってって」

 地味子。ああ、私のあだ名です。

 キミコがいつの間にかジミコに変わったんですよ、まぁ語感は良く似てるんでもういいかなって思ってます。

「あっ……うん分かった」

「ありがと地味子~、ほんと助かるよ地味子!」

 多分愛情のあるあだ名だと思うんだ、思うんだけど、この頃本名で呼んでくれないんでちょっと不安かな。

 あっでも学校生活に不満なんてありません、このままモブはモブらしく、目立たず、普通に平凡な人生を送っていくつもりです。

「てっ、ひぎゅん!」

 左足が右足に引っ掛かって、盛大にひっくり返った。

 持っていたプリントの束が宙に舞い上がって、華吹雪の様に階段の踊り場に降り注いだ。

 自分の足につまずいて転ぶなんて、ドジにもほどがある(しかも変な声を上げてしまった)。

「大丈夫? 山田さん」

 見上げると、階段に東堂寺さんが居た。

 

 東堂寺凛華(とうどうじりんか)

 同じクラスの美人で頭脳明晰の学級委員長。

 こんな私にも優しく声をかけてくれる、心根の優しい美少女様。

 あぁ、後光で溶けてしまいそうです。


「ひぎゅんって、悲鳴なのか?」

 東堂寺さんの隣には榊原君がいた。

不思議そうな顔でこちらを見ている。


 榊原海人(さかきばらかいと)

 同じクラスの運動神経抜群の超絶モテモテ美男子。

 スポーツ全般が得意で色々な部活に助っ人として呼ばれてる。

 あぁ、イケメン過ぎて鼻血が出てしまいそうです。


「海人、山田さんに失礼でしょ!」

「なんだよ、ただ気になっただけだろう、凛華」

 美女に美男子のこの二人は幼馴染で、たがいに下の名前で呼び合ってる。

 こんなに可愛くてカッコいい幼馴染なんて、これだけで何か物語が始まりそうだよ。

 あぁどんな物語かな、恋愛系かな、それともバトルアクション系かなぁ。

 でも、ファンタジーなんてのもいいよね、東堂寺さんがお姫様で、榊原君が騎士で、魔王と戦うなんて、最高じゃないですか。

 それでそれで、実は二人は前世では恋人同士で――。

「山田さん、山田さんってば!」

「ふへっ」

 つい妄想の世界へトリップしてしまって、東堂寺さんが呼ぶのに気がつかなかった。

 というか、やっぱり可愛いなこの人。

「具合でも悪いの、保健室いく?」

「だっ大丈夫……です、ちょっと考え事を……」

 まさか妄想していたなんて言えません、眼鏡の位置を直して、散乱したプリントを拾おうとしたら東堂寺さんと榊原君が手伝ってくれた。

 やっぱり主人公な人達はこんな脇役の私にも優しくしてくれる。

「山田ってやっぱり変わってるよな、なにもない所で転ぶんだからな」

「こら海人、アンタちょっと口が悪いわよ」

 二人はそのままどちらが悪いかの口喧嘩になった。

 ああ、少女漫画とかでよく見る光景だなぁ。

 言い合う二人からでさえ、神々しい光が放たれているみたい。

 なんだか本当に眩しくなって来た、流石二人だなあ、現実にまで後光を放つなんて――。

「やっ、山田さん!」

「山田!」

 名を呼ばれて現実に戻ると、光を放っているのは二人ではなくて廊下。

 それも自分達の足元が、薄い山吹色の光を放っている。

「へっ――」

 なんだこれは、なんで床が光って居るんだろう。最近のLEDはとっても明るいなぁと思って居ると、その光を中心として魔法陣が現れた。

 記号と文字の中間の様な模様がいくつも描かれているそれは、漫画とか小説とかアニメでしか見た事のない、魔法陣と呼ばれるそれによく似ていて、それとしか言いようがない。

「えっ、なにっ?」

「なっなんだぁ!」

 状況なんて理解する暇などなかった。

 ただ足元の魔法陣が一段と輝きを増していって、眼を開ける事すら出来なくなる。

 それはまるで、私の大好きな小説や漫画の一ページの様。

 ああ、これは夢なんだ。

 だってそうでしょう? 万年脇役の私が、こんなどこかの主人公みたいなイベントを起こせる訳ないじゃないですか、そうこれは夢。

 早く眼を覚まさなきゃ。

 あれ可笑しいな、夢の癖に本当に眩しくて、眼が開けられないや。

 

 


 脇役は脇役らしく、モブはモブらしく。

 ただ目立たず、普通に平凡な人生を送れればそれでよかった。

 そう、それでよかったんだ。


 私の意識は光にかき消される様に薄れ、そして消えて行った。





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