訪問者
恐る恐る開けた扉の先には、鎧を着た一人の男性が立っていた。腰には剣を下げている。
「あの……はじめまして、こちらに住んでいらっしゃるのでしょうか?」
男も戸惑いながら、私に訊く。
「はい……そうですが……」
私も戸惑いながら答える。
「えっと……いつから住んでいらっしゃるのですか?」
そんなことを問われ、答えに詰まった。
正直なことを言うべきではない気がした。
「最近……そう最近この場所に、この家を建て、住み始めました」
どう考えても怪しいことを言ってしまった。第一、普通こんなところに家を作ることなんてしない。周辺は荒野、荒野の周りは森だが、木材を運びながら荒野を往復するのは、距離が近くとも大変だ。そんなところに住んでいるのは女一人。一体誰が手伝えば、こんなところに家が出来るのか。普通に考えておかしいと思われる。
だが、男は私の言葉を聞いて、まるで納得したかのような反応をした。
「なるほど。……実は私、旅をしているのですが……食料が尽きてしまいまして……よければ恵んでいただけないでしょうか?」
彼の言葉を聞き、彼の姿を見る。
鎧以外は確かに旅人風の格好だ。鎧も、重そうではあるが、強い力を持つ人ならば、金属鎧を着て旅することも普通らしい。
彼と、彼の装備に込められた魔素、魔力を感じ取ってみる。どうやら武器と鎧には魔法が込められているらしかった。
「そうですか……わかりました。どうぞ入ってください。たいしたものは出せませんが、少し食料をお分けしましょう」
「そうですか! ありがとうございます」
食料。一応備蓄があった。
今あるものは、きのみ、鹿肉の燻製、干したきのこといったところだ。
食料を保管している部屋に行こうとして、男が立ち止まっている事に気づいた。
「どうかなさいました?」
「いえ……すみません。少し失礼なことを考えてしまいました」
男の言葉から、彼が立ち止まった理由に思い至った。なるほど、確かに驚いて当然だろう。
「家具や内装が何もない事に驚かれましたか?」
「いえ……いや、その通りです。失礼ですが、あまりに何もない家だな、と」
それはしょうがないことだった。逆の立場で考えるなら、そう思って当然だ。
「構いませんよ。当然のことだと思います」
そう言いながら、保管室の扉を開く。この部屋は、部屋全体に保存魔法の効果を込めてある。鹿肉を一塊分、干しきのこを幾つか、きのみをそこそこの量持って、部屋を出た。
「こんなものしかありませんが、かまいませんか?」
「え? ああ! ありがとうございます。本当に助かります」
男は部屋を見ながら他のことを考えていらしく、僅かに驚きながら、礼を言った。
「そうですね……せっかくですから、少し食べていってください。あまり上手くはありませんが、食事を用意しましょう」
私はそう言って、彼に渡す分を彼の前に置くと、再び保管室に入った。
次回は月曜予定
追記:今週はずっと忙しそうなので、更新は来週に延期します。来週月曜に更新したいです。