こもれび
初代勇者の書に、私は希望と絶望を見た。
希望、努力し続ければ、私の呪いは制御しうるものだということ。
絶望、途方も無い、命が終わるほどの時間、努力し続けなければ、私の呪いは制御できないということ。
だが、希望はもう一つあった。
私の呪いの範囲は、魔法を使って狭めることが出来なくはない、ということだ。
本によると、世界は幾つもの層が重なって出来ているらしい。
目に見える、物理的な世界の層。一部の人にしか見えない魔法的な世界の層。同じく、一部の人にしか見えない霊的な世界の層。そして、本来この世界の人には見えず、そして基本的には干渉することもない層。そんな層が無数に存在するらしい。
私の呪いは、そういった無数の層、本来物理世界に干渉することのない世界一面、そこに存在する力が、本来の法則を外れて流れ込んできているものらしい。
だが、干渉しないと言っても完全に干渉しないというわけではないらしい。例えば、物理世界には干渉せずとも、霊的世界には僅かな干渉をしているかもしれない。あるいは、魔法世界の一部に大きな影響を与えているかもしれない。あるいは、別の層を経由して、魔法世界や霊的世界の層に干渉しているかもしれない。そして、魔法世界や霊的世界の層には、物理世界から干渉することができる。つまり、本来物理世界からでは干渉出来ない層にも、間接的に干渉しうるのだ。尤も、一部の層は、私や初代勇者と同種の例外を除き、本当に全く他層と干渉しないらしい。その場合は、直接の制御能力を身につける以外手はない。……だが、幸運な事に、私の呪いは魔法で干渉可能だった。
制御能力を身に付ければ、発動も解除も効果範囲も自在らしい。魔法で出来るのは、効果範囲を無理やり狭めるだけだ。
それは、すぐに身についた。
魔法が成功した日、心の底から歓喜した。
そして、僅かに落胆した。
すごく、すごく疲れるのだ。
とても一日中維持してはいられない。
だから、もっと効率の良い術式を考えた。
そして、今の私に思いつく範囲では、大きな物に大きな術式を刻むのが一番だという結論に至った。
大きい術式はそれだけ準備も多く必要だ。しかし効率が良い。そのため、大規模な術式を用意し、それを常時発動出来る環境を作る。それが結論だ。そして、それに最適なのは……家だ。
魔法建築。家に魔法を込める。家の基礎や各建材に魔法的に良い物を使い、そして魔法陣を刻みこむ。大気中や地中にある世界の魔素を利用して術式を維持する。そうして、家の中にあるものを隠したり、護ったり、逆に家の中に封じたりする。
未だに偶然近づいてきた人が死んでいることがあるのを考えると、制御能力を得るための努力より、優先すべきことに思えた。
私は、しばらく本を読むのをやめ、家を作ることに決めた。
次回は9日水曜
3/10 0:24 追記:すみません、突然忙しくなり、書くことが出来ませんでした。明日はもう一方を書くので、次回は金曜に上げるつもりです。