呪いの芽
ちょっとアレな描写あり。
最初はお母さんだった。みんな悼んでくれた。
次はお父さんだった。みんな哀れんでくれた。
次は私を引き取った叔父さんだった。みんな訝しんだ。
次は叔母さんだった。みんな私を魔女だと言った。
魔女の私は磔にされた。村の広場で処刑するらしい。
最初は仕方ないと思った。
でも、槍を向けられて、怖くなった。
怖くて怖くて仕方なかった。
槍で貫かれた瞬間、痛いと怖いという声が頭の中に反響した。
直後、槍を持っていた知り合いのおじさんが死んだ。いや、その人だけじゃなくて、その周りにいた他の人達も死んだ。
怖くなって、別の人に目を向けた。目が向いた先にいたのは村長さんだった。村長さんとその周りにいた人達も死んだ。
皆私から逃げ出した。逃げ出した人に目を向けるとその人が死んだ。あまりの強さに目を閉じた。
バタバタ。走る音。
バタバタバタバタ。走る音?
バタバタバタバタバタバタ。……きっと、倒れていく音。
無音。
どれだけ目を閉じていたかわからない。
目を開けると、皆死んでいた。
怖くて怖くて泣いた。申し訳なくて申し訳なくて泣いた。
そして、夕暮れどきになって泣きつかれて、のどが渇いていることに気づいた。お腹も減っていた。けれど磔にされているから、何も飲めないし食べられない。これならきっと、死ねるだろう。
あまりにのどが渇いて、あまりにお腹が空いて、そのうち気づくと意識を失っていた。
朝、目を覚ました。まだ、生きている。
その日は一日中、ひどい気分だった。晴れ渡る空が煩わしかった。一日の内に何度も意識を失った。夜中に一度目を覚まし、夜であることを知った直後にまた意識を失った。
朝、目を覚ました。まだ、死んでいない。
その日もひどい気分だった。ある事に気づいた。磔にされてから、自分はなんの排泄物も出していない。汗すらかいていないようだ。臭いもしない。考えているうちに意識を失った。
朝、目を覚ました。まだ、死ねない。
気分の酷さがさらに増している。周りを見て気づいたけれど、死体が一つも腐っていない。虫の一匹も寄ってこない。なんでだろう。今日も考えている間に意識を失った。
朝、目を覚ました。早く死にたい。
この日は何も考えず、目を瞑っていた。起きていても辛いだけ。何かを考えても辛いだけ。ただ、早く死にたかった。……そんな日に限って、意識を全く失わなかった。
朝、目を覚ました。なんで死ねないのだろう。
何も飲んでいない。何も食べていない。すごく辛い。けれどそれだけ。野獣も魔獣も襲いに来ない。それどころか、やっぱり周りの死体に虫すら寄ってこない。辛さは増しているのに、段々と意識すら失えなくなっている。怖い。
朝まで起きていた。死にたい。せめて、意識ぐらい失いたい。怖い。苦痛だ。
眠ってすらいない、何も食べていない、何も飲んでいない。怖い、きつい、辛い、助けて、殺して。死にたい。死ねないならせめて、意識を失いたい。意識すら失えないなら、何か飲みたい、何か食べたい。
朝まで起きていた。何か食べたくて仕方ない。
食べたいと思うと、食べたくて仕方なくなった。なんでも良いから食べたくなった。
そこからしばらく、覚えていない。
気づいたら私を磔にしていた柱はこわれていた。いつの間にか井戸の桶が濡れている。そして、……いつのまにか知り合いのおじさんの死体がなくなっていた。
気づいて、しばらくして、気づいた。
怖くなった。怖かった。すぐに吐いた。
胃液しか吐かなかった。一瞬安心した。
でも本当に? 本当に××てないの?
私はここ数日排出物を出していない。何も食べなくても、飲まなくても死なない。それなのに、胃液しか吐かなかったから××てない?
わからない。怖い。
怖くて怖くて仕方なくて……
私は絶叫しながら泣いた。
私はまだ、生きている。
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