初代勇者の書
あの二人、その片方は言った。
「君は死ねないよ」
綺麗な二人組だった。
皮肉げな笑みを浮かべた美少年。
憐れむような表情を浮かべ、両目を閉じている美女。
皮肉げな少年の方がそう言ったのだ。
「まぁ、全く死ぬ手段が無いわけじゃない。例えば、僕達ならば殺せる。けど殺さない。君は非常に珍しい存在だ。今は暇が無いからやらないけれど、いずれ君を捕らえて実験材料にはしたい。だから殺さない」
悲しかった。
なんと、この二人なら私を殺せるのだという。
ならば殺して欲しかった。
こんな、呪われた私なんて、殺して欲しかった。
「そして、この世界に僕達以上の力を持った存在なんてほぼいない。だから、君が死ぬことはきっとない。運良く最高位天使に見つかるか、女神が直接手を下すか……あとは魔王妃に取り込まれる……いや、アレだとむしろ死ねなくて苦しむだけかな。おそらく君をどうにか出来るのは僕達を除くとそのくらいだ。魔王や勇者ですらどうにもならないんじゃないかな? まぁ、それは彼ら次第かもしれないけれど。あとはそう、君と似たような存在ならなんとかなるかもしれないね」
「私を殺してください。もう、耐えられません」
懇願した。
殺せるなら殺して欲しい。もう、だれも死なせたくないのだ。
「嫌だと言ったろう? 君のことは殺さない。いずれ実験材料にするつもりだからね。……でも、そうだな。これ以上君の呪いの範囲が広がるのは少し迷惑かな。僕達への影響はそうそう無いだろうけど、君のそれは世界にとっても害だ。それは巡り巡って僕達にとっても悪影響に成りうる。……なにせ僕達二人も世界にとって害悪だからね。世界への負担が増えすぎると、追手の天使達が増えるんだ。それは少しだけだが困る。……だから、君にはコレをあげよう」
そう言って、少年は本を一冊取り出した。私の前に投げる。
「それは初代勇者が残した本だ。正確には、初代勇者に強さの理由を聞いたやつが書き残したもの。その、さらに写本だ。……君のその呪いは本来この世界にあるべきものじゃない。だが、初代勇者は実はこの世界の存在じゃなかったんだ。で、初代勇者も本来この世のものではない力を使っていた。その本には、そういった”法則から外れた力”を扱うための心得が載っている。もちろん、君の力と勇者の力は違う。だが、その本に載っている心得は、君の役に立つはずだ」
少年が言葉を区切ると同時に、自然と本を拾い上げてしまった。私が拾い上げるのをみて、少年は言葉を続ける。
「開いて」
言われるがままに開く。
ジュッ。
体が一気に熱くなった。そして、その熱が胸に集まる。胸の中心、心臓の直上の皮膚。そこが、異常に熱い。しかし、それは一瞬のことで、すぐに熱は消えた。服の中を見てみると、胸の中心に謎の紋様が浮かんでいる。
「今、その本の所有者を君にした。そして、その本が持つ力の一部が君に焼き付いた。これでその本は君のものだ。しっかりと読んで、内容を頭に刻みつけるといい。上手く行けば、君は自分の力をある程度制御できるようになるだろう。死ねはしなくとも、ある程度でも制御できるようになればマシだろう? ……あとは君の問題だ。せいぜい頑張ると良い」
少年と美女は、それだけ言って、私の前から立ち去った。
全てが死に絶えた荒野。
人の消えた廃村。私の故郷。
私は一人、一冊の本と共に残された。
なんとなく適当に投げ。
気分で続く。