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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

生きたかった少女

作者: 真雪


少しグロテスクな表現などがあります。

苦手な方は読まないでください。






いつからだろう?

生きることに意味を見出さなくなったのは。

いつからだろう?

死ぬことが怖くなくなったのは。






父は私のせいで死んだ。

私が車に轢かれそうになったのを庇って死んだのだ。


母はそれから気がおかしくなった。

父が死ぬ前まではとても優しい母だった。

でも父が死んで母は壊れてしまったのだ。




最初はただ夜になると父の名を呼び泣くだけだった。

そのうち父を探し回るようになり、父はまだ生きているというように、父の話しをするようになった。



母が父の話しをするたびに、私は罪悪感に蝕まれていった。

父じゃなくて私が死んでいたら。

何度もそう思った。

でもそう思うたびに生きていることを実感し安堵した。

死ぬのが怖かった。







ある日父の話しをいつものようにする母に私は言った。


もう父は死んだと。


母は少し早口になり父の話しを続けた。

私はもう一度言った。


父は私を庇って死んだのだと。




母は絶叫した。

そして私を殴った。

あんたのせいで死んだのだと言って。



その日は母は部屋に閉じこもったきり出てこなかった。




私は言ったことを後悔した。

でも…もういない父の話しを、まだ存在しているかのように話す母の姿は、痛々しくて見ていられなかった。


母も薄々わかっていたのだろう。

父はもういないと。

私のせいで死んだのだと思いたくなかった結果、まだ生きていると思いこむようにしたのだと思う。

でもそれを私が台無しにした。






あの日から母は私に暴力を振るうようになった。

暴力を私に振りながら母は言うのだ。


「あんたのせいであの人は死んだ」

「あんたが死ねばよかったのに」

「あんたが生まれてこなければ私は幸せだったのに」


他にも色々言われたがよく覚えていない。



日に日に暴力の回数が増え、色んなところに痣ができ長袖の服を着るようになった。



そうすると学校では夏でも長袖を着る変な人だと言われるようになり、いじめの標的になった。




辛かった。

でも逆に生きていることを実感して安堵していたのかもしれない。






ある日家にあったカッターで腕を切ってみた。

あまり血は出なくて、母に振られる暴力の方が何倍も痛かった。

今度はもっと力を入れて切ってみた。

腕の皮膚が少しだけぱかっと開き、血が溢れた。

血は思ったより黒かった。

生温かい血が腕を伝って床へと落ちる。

生きていると実感出来た。




それから母に暴力を振られたあと腕を切るようになった。


最初は生きていると実感できた。

でもそのうち出来なくなり、ただなんとなくやっていた。

そのころになると母に振られる暴力もいじめにも、生きていると実感出来なくなりイライラした。


そのうちなんのために生きているのか、どうして生きたいと思ってたのか。

それさえもよくわからなくなり、何も考えたくなくなった。

全て忘れたかった。




薬局などに売っている薬を示してある量よりも多めに飲むと、記憶がとぶという情報をインターネットで見つけた。

それはODと呼ばれる自傷行為だった。

ついでに私がやっていた腕を切る行為も自傷行為だと知った。

そんなつもりなかったから少し驚いた。

でもそれだけだった。




いつものように母に暴力を振られ、腕を切った。

でも体全体を掻きむしりたいようなイライラ感が収まらず、家にあった風邪薬に手を伸ばした。



最初は5粒だけだった。

やっぱりそれだけじゃなにも変わらなくて、イライラしたままだった。

だからもう5粒飲んだ。

そしたら少し気分が上がった。

でも時間が経つとまたイライラ感に襲われ、もう10粒飲んだ。

けどイライラ感は消えなくて、10粒飲んだ。

そうすると気分が凄く上がり、もっと飲みたくなり5粒飲んだ。

合計35粒飲んだ。

すると眠くなってきて、そのまま私は寝た。


一時間後目が覚め、凄い吐き気に襲われトイレで吐いた。

一回吐くだけじゃ収まらず、2、3回ほど続けて吐いた。


本当に気持ち悪くてたまらなくて、喉が凄くカラカラして苦しかった。

もう一生こんなことしないとその時は思った。


吐いてもあまりすっきりしなかったが、それ以上吐けなかったので、私は部屋に戻り眠った。

でも30分後ぐらいに目が覚めまた吐いた。


こんな感じのことを何度か繰り返し、気づいたら朝の6時になっていた。

2時間ほどしか睡眠をとっていないのに、全く眠くなかった。

それから一時間ほど眠って、私は学校に行った。



学校では昨日の薬を飲む前の記憶はとんでいたし、頭がぼうっとしてなにも考えられなかった。


その日は久しぶりに気分が良かった。


まぁ喉が凄く渇いて痛いのと、身体がだるいのは少し嫌だったけど。




その日から毎日10粒ほど風邪薬を飲んで、学校に通った。

その内10粒じゃ効かなくなり、20粒飲むようになった。

でも薬の効果が切れると、どうしてこんなことをしているのか、いっそ死んだらこんなことしなくても楽になるのではないかと考え、死にたくなった。





その日はいつものように母に暴力を振られていた。


母は言った。

あんたなんか早く死んでしまえと。


その時私の中の何かが切れた。




私は持っていた風邪薬を全部飲んだ。

その風邪薬は70粒入りだった。

私はそのまま気絶した。



目が覚めたらそこは病院だった。


母が私の手を握り泣いていた。


私の目が覚めたことに気づいた母は、ごめんなさいと言い泣き続けた。





母はその日から昔の母のように優しくなった。

私に暴力を振らなくなり、私が好きな料理を作ってくれた。


私がいじめられていることに気づいた母は、私を違う学校に転校させた。

転校した学校ではみんないい子ばかりで、仲の良い友達も出来た。


私は自傷行為をしなくなった。

前より気分が明るくなった。

でも…ふとした瞬間泣きたくなった。





ある日私の自傷の跡を見て母は言った。


酷い傷ね。お母さんのせいよねと。


何かが崩れた。



私は家を飛び出した。


泣いた、泣いた、泣いた。

苦しかった。

母の可哀想なものを見るような目が。

クラスメイトに前の学校で、いじめにあって大変だったねと噂されるのが。

同情が逆に辛かった。

暗い気持ちを押し込めて、前より幸せだと思いこんでみたけど、この気持ちは結局消えなかった。


《私はなんのために生きてるの?》


答えなんて出ない。

だって生きること自体に意味などないのだから。






気づいたら何処かのビルの最上階に立っていた。

街が少し見渡せて、私の家も見えた。

私はあのちっぽけな家にずっと囚われていたのだと思ったら、笑えてしまった。



私はそのまま後ろ向きに身を乗り出した。


空が遠くなっていく。


そして身体に衝撃があった瞬間、私は消えた。




最後に私が見た空は、血のように真っ赤な綺麗な夕焼け空だった。









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