演劇部
今年の文化祭で、演劇部はロミオとジュリエットをやることになった。脚本は原作をかなり短くしてあるのは、時間的な問題があるからだ。与えられた時間は1時間。なので、シーンは大雑把に仮面舞踏会から始まる。敵対する両家についてはその舞踏会でナレーションとして説明をいれるという形式にした。
「有栖川って文才あるね」
脚本をみながらロミオ役の志水咲夜先輩がそう言った。あたしはどきどきしながら、ありがとうございますと答える。志水先輩は演劇部の看板役者だ。特に男装が素敵だと他の生徒からも慕われている。女ばかりの高校だから、見た目のカッコイイ先輩たちはアイドルのような存在だった。
あたしにとってもそうだったらよかったんだけど。あたしは志水先輩に恋をしている。文芸部に入るのをやめて演劇部の脚本担当に応募したのだ。演者として演劇部に入部するのは、他の部と同じように入部届けをだせばいいのだが、脚本担当を希望の場合は有名な戯曲を現代風にアレンジしたものを提出しなければならない。
あたしが入部希望を出したときの課題は「夕鶴」だった。要するに現代版鶴の恩返しを書いて来いというもので、期限は一週間だったと思う。何がどうよかったのかわからないけれど、あたしの脚本は選考を通り、入部を許された。
「有栖川……私、褒めてるんだけど。うつむいたままありがとうはないんじゃない?」
「……すみません。恥ずかしくて……」
うれしくてと言えない自分がなさけない。折角先輩が褒めてくれたのに。そう思ってると、ふいに先輩の長い綺麗な指が視界を横切って、がちっと顎を捕まえられた。
無理やり顔を上にあげられ、志水先輩をまともに見てしまった。あたしは一気に熱が頭を汚染する感覚に犯される。志水先輩は、なぜかうれしそうに微笑んだまま、顔を近づけてきて……触れた。
先輩の唇とあたしの唇がほんの微かに触れた!
「ねぇ、キスしていい」
「え……」
「キス。私、有栖川が好きだからキスしたいの。有栖川も私のこと好きでしょ。だからね」
極上の笑みでなんてとんでもないことを言ってるんですか先輩!
と内心突っ込みながら、驚きのあまり口を鯉のようにぱくぱくさせてしまうあたし。
「そんなにじたばたしないでほしいなぁ。これでもめいっぱい真面目にくどいてるのに」
「く、口説くって……な……」
なんでといおうとした瞬間、半開きになってしまった口を志水先輩はなんなく塞いでしまった。まるで大好きな食べ物をたべるように、優しく激しく口づけられる。唇がほんの少し離れた瞬間、あたしは思わず咳き込んだ。
「有栖川、キスするときは鼻でいきするのよ。覚えておきなさいね」
志水先輩はそう耳元でささやき、あたしの頬に軽くキスした。
「さて、そろそろ警備員さんが来る時間だね。帰ろうか」
あたしは差し出された手に、おずおずと手をあずけた。
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