あやかし商店街 四
∬
そんな話をしていると、あっという間に菖蒲の店の裏口へと着いた。
裏口には、木でできた塀と扉があった。
菖蒲は扉の中に入ると、後ろを振り返り
「ほれ、はよ入り」
と言った。
真司は慌てて返事をし、菖蒲の店の中へと入ったのだったが・・・入った瞬間に何かに突進され抱き着かれた。
「おかえりなさーーい!!!」
「げふっ!!」
丁度、頭が鳩尾にぶつかり、真司は少し前のめりになった。
「これ、お雪。猪の如く突進をするのはいいが、真司が困っているではないか」
(突進はいいんですか?!?!)
「あ!ごめんなさ~い」
てへっ☆と舌をぺろっと出し、真司の側を離れたのはハーフテールに可愛らしい雪兎の髪飾りを付けた小さな女の子だった。
「えっと・・・」
真司は突然の事で頭が回らなかった。
そして、目の前の女の子をジッと見つめた。女の子は淡い空色の雪の結晶と雪兎が刺繍されていた白い着物を着ていた。
(この子誰?!って、今、菖蒲さんお雪って言ってなかった??)
「まさか・・・・・・」
そう呟くと、真司は前髪を留めてある髪飾りにそっと触れた。
「これをくれたの・・・君なの?」
お雪は可愛らしい笑顔でニコリと笑った。
「そうよ。うんうん!似合ってる♪」
と、腕を組んで何度も頷くお雪に、真司はハッとした。
「あ!菖蒲さんに変な事を吹き込んだのも、もしかして、君?!」
「「変なこと??」」
と、菖蒲とお雪は首を傾げた。
「ベッドの下にはイヤらしい物を隠してるとか!」
そこで、お雪は何かわかったのか
「あぁ!あれか!!」
と頷いた。
「やっぱりあった??あった??」
と、目を輝かせながら菖蒲に聞くお雪。
しかし、その返答は菖蒲ではなく、真司が「ありません!」と大きな声で言ったのだった。
その言葉にお雪はショボンとした。
「なーんだぁ。ちぇ~」
(なんで残念がるか、わからないんですけど!!)
「これ二人共、立ち話もなんだから、中にはよ入り」
「はーい」
「は、はぁ」
なんか、色々と疲れた真司は返事と一緒にため息もついたのだった。
∬
茶の間にて、真司と菖蒲とお雪は四角いテーブルを囲んで座っていた。
ズズズーと、茶を啜る菖蒲。
テーブルの中央に置いてあるお菓子を頬張るお雪。
真司はというと、まったりとする二人を交互に見て
(これが、ここの日常なのかな)
と内心苦笑していのだった。
お菓子を一通り食べ終わったお雪は、真司の隣にいそいそと座り向き合うと
「ねぇねぇ、外の世界は今どんな感じ?!ここで働くんだよねっ?!あ、これ食べる?!あ、それね!私と少しお揃いなんだよ!!雪兎なの!!かわいいよね!
ねぇねぇ、好きな物とか何?人間の男の子はムッツリって本当?」
と色々質問をしたのだった。
「あの・・・」
次から次へと質問される真司は助けを求めるかのように菖蒲を見た。
菖蒲は苦笑して
「これ、お雪。真司がまた困っておるぞ」と言った。
「あ、ごめなさ~い」
と、またもお雪はぺろっと舌を出したのだった。
「そうだ、自己紹介まだだよね?私は、雪芽!皆からは、お雪って呼ばれてるよ!」
ニコリとお雪は笑った。
「僕は、宮前真司。宜しくね」
「うん!宜しく~♪」
お雪は真司の手を徐ろに掴むとブンブン振って握手をした。
「あ、あはは・・・」
「そうだ!!ここに来たの二回目だよね?!案内しようか?!」
「え?」
(2度目ってなんで知ってるんだろう?)
と真司はふと思ったが
(菖蒲さんから聞いたのかも)
と思い、自己完結したのだった。
「うむ。それは良いの。いやな、さっきも真司に、がしゃ髑髏がいる本屋を今度案内しようと話していたんだよ。」
「そうなの?」
「うむ。あ。」
と何かを思い出した菖蒲は袖口を口元に当てた。
「ん??」
とお雪は首を傾げた。
「そうじゃったそうじゃった。お雪、今日は外へ出るのは止めておいた方がいいかもしれぬ」
「どうして?」
「ここに着く前に、山童に真司が人間だとバレてのぉ。今頃、商店街は大騒ぎぞ」
「あぁ、なるほどぉ~」
「落ち着いてから行ったほうがよかろう」
「そうだねぇ~」
菖蒲とお雪はクスクスと笑いあった。
(はぁ・・・帰りは普通に帰らるといいなぁ)