あやかし商店街 参
§
菖蒲と真司は商店街の路地裏を歩いていた。
「あのぉ・・・どうして、裏路地を歩くんですか??」
「うむ。めんどくさいからだ」
「めんどくさい、ですか?」
「今頃はお前さんが人間だということが、もうこの商店街には広まっているだろうな。」
「え?!」
「そこで気になった奴らは、お前さんに群がるだろうよ。私は、それがめんどくさいのだ」
「・・・なんか、すみません」
真司はシュンと項垂れた。
そんな真司を見て菖蒲はクスリと笑った。
「お前さんが気にすることはないよ。ここの者は良い妖達ばかりだ。久しぶりに人間に会って浮かれているのさ。まぁ、少し悪戯好きが多かったりするがな」
「悪戯好きですか」
「あぁ。妖っていうのは、人間を脅かしてなんぼのものだからねぇ。」
「でも、昔は人間を・・・その・・・た、食べたり・・・したんですよね?」
「大昔はね。」
と、菖蒲は躊躇いもなく言った。
真司はその言葉に少しヒヤリとした。
菖蒲は内心怖がっている真司がわかったのだろう。
「そう、怖がる事はないよ」
と優しく微笑みながら言った。
「言っただろう?大昔だと。まぁ、私から見たら、そんな昔ではないがね。人間からにしたら、本当に大昔の事だよ」
「はぁ」
「真司や。がしゃ髑髏は知っているかえ?」
「え?えっとぉ・・・」
と、歩きながら宙を見て考える真司。
「確か、死んだ人達の怨念が集まって、巨大な骨の形をした妖ですよね」
菖蒲は真司の答えに頷いた。
「ザッと言えばそうだ。正確には、戦死した者や野垂れ死にした者達など、埋葬さらなかった骸や骨の怨念が塊となり妖になったのが、がしゃ髑髏。そのがしゃ髑髏は、大昔は人を見つけると襲い食らっていた。さて、今、そのがしゃ髑髏は何をしていると思う?」
「え?!」
唐突な質問に真司は困惑した。
(昔は人を食べてたんだよね。今は食べないって事は・・・改心してるって事だよね。改心って事はぁ・・・優しくなってるって事だから・・・)
うーん、うーん、と考えている真司。
「時間切れじゃ。答えはの、本屋じゃ。」
「ほ、本屋ですか?!」
質問の答えに真司は驚いた。
「うむ。図書館と言っても過言ではないな。何せ、貸切出来る本も取り扱っているしのぉ~そして何より広い。」
クスクスと笑う菖蒲に真司はポカンとした。
「昔は人を襲い食らっていたがしゃ髑髏も、今じゃ、この商店街の唯一の本屋じゃ」
「・・・・・・・・・」
「うむ。驚くのも無理はない。おぉ、そうだ。今度連れてってやろうぞ」
「えぇ?!い、いや、僕はいいです!!」
「そう怖がる事はない。言っただろう?人を喰らうのも大昔だと。」
「でも・・・」
「その改心っぷりに、また驚くかもしれんのぉ~」
菖蒲は袖口を口元に当てクスクスと笑った。
(そ、そんなに昔と違うの・・・かな?)
少し興味を持った真司は
(なら、勇気を出して行ってみようかな)
と内心思ったのだった。