あやかし商店街 壱
※これは本作『あかしや橋のあやかし商店街~掛け軸のお願い~』のその後の話です。
真司があやかし商店街・・・つまり、妖が運営し妖だけの世界へと来たのは、これで二度目だった。
一度目は、掛け軸のお願い。
二度目は、菖蒲が店を開く骨董屋の初バイトの為に。
真司があやかし商店街へと着くと、早速、入口前で着物を来た菖蒲が微笑みながら待っていてくれた。
「菖蒲さん」
「よく来たね。おやおや?てっきり、その長い前髪を切ってくると思ったんだがねぇ」
真司は、その指摘に頬を掻いた。
「切ろうとしたんですが・・・いざ切ろうとすると、何度か躊躇してしまって」
「お前さんの事だから、そう言うと思ったよ」
と、にこやかに菖蒲は言った。
「だからねぇ~。」
菖蒲はそう言うと、袖口からゴソゴソと何かを取り出し真司の前髪を上げた。
「うわっ!?」
真司は視界が明るくなったのに少し目を細めた。
そして、自分の頭に何か付いているのに気がついた。
どうやら、これで前髪を留めているらしい。
「あの・・・これ、何ですか?」
「ヘアピンだよ。可愛らしいだろう?」
(・・・そう言われても、これじゃ見えないんですけど)
と、真司は思った。
「それはね、お雪が真司にと言ったんだよ」
初めて聞いた名に「お雪?」と言った。
(あれ?そう言えば、その名前前にも聞いたような・・・)
真司はその名前を思い出していた。
「その名前、菖蒲さんが僕のベッドの下を覗いている時も言っていましたね」
真司はそう言うと、その事を思い出したのか苦笑した。
菖蒲は、頷いた。
「うむ。まぁ、立ち話もなんだから私の店に向かおうじゃないか」
「あ、はい」
真司は慌てて菖蒲の隣に行き、二人は商店街の中へと歩きだしたのだった。