表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

花言葉。

莢蒾

作者: 軋本 椛




『私を無視しないで』








 何度目元を拭っても、途切れることなく涙は流れる。

 もはや何度目か分からない涙の処理は、開き直って手で無理矢理拭っていた。

 ――――――目元はヒリヒリと焼け付くように痛くて、そこだけが熱を持っているようにも思える。そうやって感情が高ぶっているにもかかわらず、わたしの胸の奥はポッカリ穴が開いたようで、開いた風穴だけが冷たいものを感じていた。

 …どうしてわたしは、こんなにも冷静なのだろう。

 心が身体についてこない、とは逆に身体が心についてこないこの状況は、わたしには到底理解知りえないことだった。

「何が…いけなかったんだろう」

 そんな、定型句のようなことを呟いたところで、現状は何一つ変わりはしない。

 目を閉じて真っ先に浮かぶのは、悔しいけどわたしを裏切ったアイツだった。

 ―――――近くて遠い、大きな背中。ずっと見てきた、温かい背中。それを、見間違える筈が無い。

 どれだけ多くの人がいても、わたしはその背中を探し出せるだろう。でも、貴方はわたしとは違って、私を見てくれていたわけではないんだね。

 …知っていたよ。

 わたしの告白を受け入れてくれたのは、あの人に近づく為だって。利用するためにわたしと付き合い始めて、すぐ振るつもりなんだって。

 でも…嬉しかった。

 そして、信じていたかった。

 あの時笑ってくれたこと、楽しそうに話してくれたこと、心配そうに見てくれたこと。それは全部嘘じゃないって。薄いものだったとしても、何処か片隅に居れれば良かったの。忘れ去られなければ、それでよかったのに。

 ―――――見たよ、あの人と貴方が並んで帰るところ。

 その日はわたしに何も言わなかったね、何時に終わるかすら聞いてこなかった。

 いきなり連絡が途絶えて、それ以来一度も掛かってこない。

 …今日で、4日目。よく我慢したよ。

 どうしてって、それだけを聞きたくてわたしは貴方の元へ向かった。別れるとしても『別れよう』って貴方の口から聞いて、納得して諦めて、そして友達としてでもいい、遠くから貴方を見守りたかった。

 …でも、それすら貴方は叶えてくれないのね。

 貴方に会いに行ったわたしは、あの人と楽しそうに話している貴方とすれ違いました。――――貴方は、わたしに気づいてもくれなかった。


 ――――――貴方の中にはもう、わたしは居ないんですね。


 ――――――貴方はもう、わたしに気づくことは無いんでしょう。


 だからわたしは、今日で貴方とお別れします。漸く覚悟が付いて、貴方と別れる決意をしました。

 悲しかった。

 苦しかった。

 痛かった。

 妬ましかった。

 …でも、楽しかった。

 ありがとう。優しい記憶をもらいました。わたしに向けられたものではなかったけど、最後に貴方の笑顔を見ることが出来ました。


 ――――――さようなら。貴方のことが、今でも好きでした。









『無視したら私は死にます』






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ