表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真白  作者: 帯刀慎
3/4

3:道は続く

雪は徐々にひどくなっていた。

歴は帝都より北に位置する。寒さや、雪は厳しくなっていく。

途中寄った邑で、防寒具を揃え休むことなく歴へ向かう。

国境を封じる関を越え、不眠不休で二日間走り通した。

絳嶺へ着いたのは朝。

まだ邑門は開いておらず、開門を待つ人々がいた。

気付けば、酷かった雪も止んでいる。

ぼんやりと馬の轡を引いて、門前で佇んでいると開門の鼓が打ち鳴らされた。

間もなく、兵士によって門が開けられる。

開いた門の隙間から、眩しいほどの光があふれる。

丁度、上りかけた朝日が漏れ出しているのだ。

「坊主、どこから来たかはしらねぇが、運がよかったな」

商人と思われる男に笑顔で話しかけられる。

「絳嶺の日の門は滅多にみれねぇ。これを拝めたもんは日の神さんのご加護がいただけるんだ。

お前の未来も明るく照らしてくれるぜ」

そういってあっけにとられている天宇の背をぽんぽんっと叩いて邑入っていく。


宮城のある北面寄りの西側が、大夫以上の身分の者が屋敷を構えている。

その中でも目立つ大きな屋敷、それが岳家の屋敷。

代々、皇族を補佐してきた一族。名家中の名家だ。


長旅で衣服もかなり汚れて、歴の要人宅を訪ねるのは気が引けるが、

現状どうすることもできない。

意を決して、門に立つ家人たちに声をかける。

一瞬、天宇の姿に眉を顰めたが、天宇が名乗るとはっとした表情になる。

「主より話を承っております。どうぞ中へ」

一方の男が屋敷内へいざなってくれる。

案内してくれた男が、屋敷内の使用人に耳打ちすると今度はその者に奥へ通される。


「天宇殿」

長身の男が現れる。

その姿を見て、数年前兄達とともに訪れた時のことを思い出す。

もう兄達が居ないことを痛烈に感じ、涙がこぼれる。

「岳恭殿」

「よく無事でしたね。今はとにかく、休んで」

岳恭に一度ぎゅっと抱きしめられて、岳恭の妻の手に預けられる。




天宇が岳家で眠りに落ちた頃・・・。岳家から、宮城へ向けて馬車がでた。



「岳恭…、あの子はどうでしたか」

跪く岳恭の前には、歴の太夫人・希氏。歴王の実母に当たる女性だ。

「ええ、随分やつれておりました。今は拙宅にて休ませております」

「そうですか」

希夫人は憂いを帯びた表情で小さくため息をつく。

その後、ふと顔を上げた希夫人が口を開く。

「飛君がまだ帰らぬのです。何か連絡はありましたか」

岳恭の顔に苦笑が浮かぶ。

「柳邑へ寄ると申されておりました、あと数日はお戻りにならぬのでは」

希夫人が小さくうなずく。

「飛君が己の目で状況を確認することは、あの子にとっても役に立つこと。

しばらくは不在を伏せておきましょう。頼みますね」

「御意に」



変わって柳邑。

飛君は邑主の屋敷前に立っていた。

破られた門扉、そこから垣間見える様子に戦闘が行われたことが見受けられる。

どれくらいその場に佇んでいただろう。

「おい!貴様、何をしている」

帝都から派遣されてきたであろう兵士に見咎められた。

「柳家の縁者か?」

胸倉をつかまれ威嚇される。

「いえ。先ほど、なにやら入り込んでいく人影が見えたもので」

とりあえずでまかせを言っておく。

「何だと!」

兵士達は一斉に屋敷内へ入っていき、飛君は一人門前に残される。

「・・・ぬかった・・・」

憮然としながら、門前をさる。

どうやら帝は邑に残された柳竜夭の一族をも殺しに来たようだ。

邑民の話によると、邑を訪れた兵はさほど多くはなかったらしく、

邑主の夫人たちが柳家唯一の後嗣と邑民の無事を請うて

自らは命を絶ったのだという。

夫人たちの願いは半分は聞き届けられ、半分は無視されたのが現状だった。

邑民には危害は及ばなかったが、夫人達の義弟に当たる少年は殺された。

その際、屋敷内にのこった柳家の兵たちと戦闘になったらしい。

しかし、おかしな話だ。精強さを謳われた柳家の兵が帝の小勢に叩かれるとは。

色々考えていて、少し頭が痛くなってきた。

「とりあえず、帰るか」邑門を出ると、ひらりと馬にまたがる。

邑から少し離れると、俄かに馬の速度をあげる。

姿を見られても正体はばれないだろうが、絡まれても面倒だ。

凄まじい速度で馬を飛ばし、柳邑を後にする。

「お別れだ…、竜夭、鳳灼、獅蓁…」

小さく呟いた声は風にさらわれていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ