表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルを駆使して人生勝ち組っ!R  作者: 此花サギリ
小学生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/34

第9話 不穏な足音

 学園発表会の成功以降、表面上は穏やかな日々が続いていた。


 宮園春香は以前ほど露骨に突っかかってこなくなり、クラスの中でも“良きライバル”のような扱いになっていた。

 周囲も「二人で切磋琢磨してるんだよね」などと、勝手に美談に仕立て上げる。


 だが。


 本当の嵐は、水面下で静かに育っていた。


 ◇◇◇


 最初は些細なことだった。


 ある朝、机の中に入れていたはずの算数のノートが消えていた。


 「光、私のノート見てない?」


 「え?昨日ちゃんと机入れてたよね?」


 確かに入れた。


 だが見当たらない。


 結局、先生に事情を説明し、放課後に職員室前の棚から見つかった。

 “落とし物”として置かれていたのだ。


 誰が持ち出したのかは分からない。


 その翌週。


 体育着が見当たらなくなった。


 ロッカーを開けた瞬間、妙な胸騒ぎがした。


 中身がぐちゃぐちゃに荒らされている。


 そして体育着は、女子トイレの個室に押し込まれていた。


 偶然?


 悪戯?


 それとも――


 視線を感じて振り向くと、廊下の角から宮園春香がこちらを見ていた。


 目が合う。


 にこりと微笑む。


 だがその笑みは、氷のように冷たい。


 ◇◇◇


 決定的だったのは、音楽の時間。


 私は伴奏担当だった。


 曲は合唱コンクール用の課題曲。

 私は放課後も残って練習し、指使いも完璧に仕上げていた。


 本番当日。


 ピアノの前に座る。


 最初の和音を鳴らす――


 ……音が濁った。


 おかしい。


 もう一度。


 明らかに狂っている。


 調律が微妙にずれている。


 ざわめく教室。


 「どうしたの?」


 「間違えた?」


 私は必死に修正しながら弾き続ける。


 何とか最後まで弾き切ったが、出来は最悪だった。


 終了後。


 音楽教師が首を傾げる。


 「おかしいわね……昨日まで問題なかったのに。」


 その時、背後から小さな声。


 「本番に弱いんじゃない?」


 宮園春香だった。


 囁き声。


 だが確実に聞こえる距離。


 胸の奥がひやりと冷える。


 放課後、私はこっそり音楽室へ戻った。


 ピアノを確認する。


 ……やはりおかしい。


 意図的に触らなければ、ここまで狂わない。


 鍵盤の蓋の裏に、小さな傷があった。


 嫌な予感が確信に変わる。


 ◇◇◇


 次第に、クラスの空気も変わっていった。


 「燈由(ひより)ってさ、最近ちょっと天狗じゃない?」


 「撮影忙しいからって偉そうだよね。」


 心当たりのない噂が広がる。


 光が怒る。


 「誰がそんなこと言ってるの!?」


 私は首を振る。


 「いいよ。」


 だが、良くない。


 給食の時間、私の席だけぽつんと空くことが増えた。


 今まで普通に話していた子達が、微妙に距離を置く。


 芸能界では慣れている。


 だが学校で、というのは堪える。


 ある日の放課後。


 廊下で呼び止められた。


 「ちょっといい?」


 宮園春香。


 人気のない階段踊り場。


 彼女は腕を組み、私を見下ろす。


 「最近、評判悪いみたいね。」


 「そうみたいだね。」


 「可哀想。」


 全く思っていない声色。


 「何がしたいの?」


 私が問うと、彼女は一歩近づく。


 「分からないの?」


 小さく笑う。


 「私はずっと、あんたのせいで二番手扱いなのよ。」


 低い声。


 「仕事も、ランキングも、話題も。いつも“秋月の次”。」


 拳が震えている。


 「私は努力してる!なのに!」


 その目は涙で潤んでいた。


 怒りと、悔しさと、焦燥。


 「……だから?」


 「だから、あんたがいなくなればいい。」


 はっきりと。


 心臓が一瞬止まる。


 「引退するんでしょ?なら今でも同じじゃない。」


 「今すぐ消えて。」


 突き飛ばされた。


 階段の壁に背中を打つ。


 痛みよりも、冷たさが広がる。


 ◇◇◇


 それから、露骨になった。


 私のロッカーに落書き。


 「消えろ」


 「偽物」


 上履きが隠される。


 提出物が破られる。


 だが決定打は、週刊誌だった。


 ある日、マネージャーから連絡が来た。


 「学校で問題起こしてないよね?」


 ネットニュースに小さな記事。


 “人気子役、学校で傲慢態度?”


 匿名の“同級生の証言”。


 内容は、ほぼ捏造。


 だが火種には十分。


 私は確信した。


 ここまでやれるのは一人しかいない。


 ◇◇◇


 光が泣きそうな顔で言う。


 「先生に言おうよ!」


 私は静かに首を振る。


 「証拠がない。」


 宮園春香は頭が良い。


 直接的な証拠は残さない。


 カメラの死角。


 匿名アカウント。


 巧妙。


 だが――


 私は芸能界で生きている。


 もっと狡い世界を見てきた。


 ある日、私はわざと音楽室に一人で残った。


 ピアノの蓋を少しだけ開け、鍵盤を触らずに席を立つ。


 数分後。


 足音。


 そっと扉が開く音。


 私はカーテンの陰で息を潜めた。


 宮園春香が入ってくる。


 周囲を確認し、ピアノへ。


 そして――弦に触れる。


 わざと音を狂わせる。


 その瞬間。


 私はスマートフォンの録画を止めた。


 決定的証拠。


 胸が静かに冷える。


 ◇◇◇


 翌日、私は彼女を屋上に呼び出した。


 「何?」


 余裕の笑み。


 私はスマホを差し出す。


 再生。


 彼女の顔色が変わる。


 「……何これ。」


 「昨日の映像。」


 沈黙。


 風が吹く。


 「どうする?」


 私は淡々と言う。


 「先生に出す?事務所に出す?週刊誌に出す?」


 彼女の肩が震える。


 「……卑怯。」


 「先にやったのはどっち?」


 長い沈黙。


 やがて彼女は膝をついた。


 涙が零れる。


 「……怖かったの。」


 かすれた声。


 「置いていかれるのが。」


 胸が少し痛む。


 だが私は甘くない。


 「もうやらない?」


 彼女は頷く。


 「……ごめん。」


 私は録画データを彼女の前で削除した。


 「次はない。」


 はっきり告げる。


 ◇◇◇


 その後、嫌がらせは止んだ。


 噂も次第に消えていった。


 だが、傷は残る。


 教室で笑い合いながらも、私はどこか一歩引いている。


 芸能界だけじゃない。


 学校も、戦場だ。


 それでも。


 私は前を向く。


 引退まで、あと一年。


 最後まで、自分を守りながら、立ち続ける。


 宮園春香との関係は、修復とは言えない。


 だが少なくとも、戦争は終わった。


 私は静かに窓の外を見た。


 冬の空は、相変わらず高く、冷たかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ