第3話 神様ガチャチケットでガチャる
ピアノ教室と英会話教室に通い始めてから、あっという間に一年が経過した。
四歳になった私は、見た目こそ愛らしい幼児だが、中身は三十代後半OLのまま。日々コツコツとデイリーをこなし、着実にステータスを積み上げる生活を送っている。
母が父を説得し、ついに新品の電子ピアノが私の部屋に鎮座した。黒光りするボディは存在感抜群だ。
(グランドピアノじゃなくて本当に良かった……)
胸を撫で下ろしつつ、私は毎日練習を続けている。
一方、英会話教室。
駅前に出来たばかりの子供英会話教室に通う私は、当然のように最年少だった。だが完全記憶∞の恩恵は凄まじい。単語も文法も一度聞けば忘れない。
気付けば日常英会話ならほぼ完璧。
講師のネイティブ先生と世間話まで出来るレベルになっていた。
そんなある日。
「お母さん、ビジネス英会話を習いたい」
真顔で言った私に、母は盛大に眉をひそめた。
「ビジネス英会話って……燈由ちゃんはまだ四歳なのよ?」
正論である。
「でもぉ、ビジネス英会話が出来たら就職に有利だってテレビで言ってたよ?」
将来設計は大事だ。
だが母は首を横に振る。
「燈由ちゃんはもう英語はペラペラじゃないの。ピアニストになるのにビジネス英会話は必要ないとママは思うな」
またそれだ。
どうやら母の中で私は将来有望なピアニストらしい。
「私はピアニストにはならないよ。そんな才能はないと思うし……」
本音である。
確かに模倣10でコピーは完璧だ。だが卯月愛華先生からはこう言われている。
“音は正確。でも感情が乗っていない”
そう、私は演奏を再現しているだけ。心がないのだ。
このままだと先生の指導力が疑われかねない。
私はトイレに駆け込み、スキル生成を試みた。
(頼む、表現力……!)
生成成功。
【表現】。
即座に熟練度10まで引き上げる。
これで次回のレッスンで試せるだろう。
だが母の習い事改革は止まらない。
「英会話教室は辞めて次の習い事をしない?」
待って。
「でも……ビジネス英語を習いたいよ」
どうしても将来の武器にしたい。
母は少し考え、別案を出してきた。
「別の言語はどうかしら?バイリンガルなら引く手数多よ」
それは確かに一理ある。
「じゃあ、フランス語が良いな」
芸術の国。発音も綺麗だ。
だがここは三十年前。
母は首を傾げる。
「そんな教室あるかしら……」
嫌な予感。
案の定、代替案が出た。
「なかったら日本舞踊を習わない?」
お姫様路線再び。
「日本舞踊よりも日本拳法を習いたいなぁ。護身術は大事だと思うの」
治安対策は重要だ。前世で痴漢に遭った経験もある。
だが母は譲らない。
「まだ小さいし、ママが守ってあげるから日本舞踊にしましょうね」
ぐぬぬ。
「フランス語が駄目だったら日本舞踊にする。でも小学生になったら護身術を習わせてね?」
条件提示。
母は渋々了承した。
こうして、フランス語教室は見つからず――
私は日本舞踊教室に通うことになった。
◇
その夜。
デイリー報酬を回収し、私は溜まりに溜まった神様ガチャチケットを確認する。
411枚。
逆行してから一度も引いていない。
(そろそろいいよね?)
チケットをつつくとウインドウが出現。
【神様ガチャを引きますか?】
迷わず10連。
桜のエフェクトが舞い散る。
結果――
経験値ポーション(大)5
体力回復ポーション(中)1
魔力回復ポーション(中)2
表現上昇補正(20%/1時間)
魅力補正(+5)
悪くない。
私は勢いづいて回し続けた。
その中で出たのが【経験値移動距離】。
移動した距離だけ経験値が入るらしい。
チートだ。
さらに【万能言語∞】、火魔法1、風魔法1、水魔法1。
万能言語∞って何。
もはや言語問題は解決では?
補正系は二十一種類。ポーションは山ほど。
私は経験値ポーションを一気飲みした。
体の奥が熱くなる。
ステータス確認。
---------STATUS---------
名前:秋月燈由
レベル:52
年齢:4歳
体力:141
魔力:283
筋力:137
防御:131
知能:311
速度:149
運:529
■スキル:完全記憶∞・空間魔法∞・成長促進∞・経験値倍化∞・スキル生成∞・魅了7・絶対音感∞・模倣10・表現10・鑑定1・万能言語∞・火魔法1・風魔法1・水魔法1・経験値移動距離∞
ミニステータス
L魅力69・芸術70・運動40・学力222・社交性76
……幼稚園児の数値ではない。
特に運529って何。
そして芸術70。
確実に上がっている。
(私は公務員志望なんだけど?)
移動距離で経験値が入るなら、遠出は必須だ。
次の休日、母におねだり決定。
そして迎えた日本舞踊初日。
畳の香り。扇子。優雅な所作。
最初は型の真似から始まった。
模倣10で動きは完璧に再現できる。
だがそこに表現10を重ねる。
すると――
先生が動きを止めた。
「……あなた、本当に初めて?」
空気が変わる。
私はにこりと笑った。
その瞬間。
ミニステータスに新項目が出現。
L気品3
「え?」
気品?
思わず二度見する。
日本舞踊を習ったその日に、新たなステータスが追加されたのだ。
どうやら経験によって項目自体が増えるらしい。
芸術特化ルートまっしぐらでは?
私は内心で頭を抱えた。
堅実な公務員を目指しているはずなのに。
なぜか芸術値と気品が爆上がりしていく。
……まあいい。
経験値移動距離∞がある。
休日は歩き回ってレベルを上げればいい。
芸術も語学も武道も。
全部取りしてから公務員になればいいのだ。
こうして私は、ピアノと英会話と日本舞踊を掛け持ちする四歳児となった。
将来の安定を目指しているはずなのに、なぜかスター街道の匂いがしていることには、まだ気づかないふりをしていた。




