第21話 スキル『イリス』
宮園さんのごたごたは一件落着した。
社長が法外とも言える賠償金を請求し、示談は成立。世間も次第に次の話題へと移っていった。
私の仕事も少しずつ戻り、スケジュールは再び埋まり始めている。
とはいえ――。
「ひっさびさの、完全オフ!」
今日は丸一日、何も予定がない。撮影もレッスンも取材も無し。
こんな日は滅多にない。
だからこそ、やることは決まっている。
「ステータス確認っと」
空中に意識を向けると、見慣れた半透明のボードが浮かび上がる。
---------STATUS---------
名前:秋月燈由
種族:人間
レベル:62
年齢:11歳
体力:5902
魔力:7406
筋力:3974
防御:2002
知能:4081
速度:1700
運 :635
■職業:小学生(子役タレント)
■装備:ワンピース
■スキル:完全記憶∞・空間魔法∞・成長促進∞・経験値倍化∞・スキル生成∞・魅了10・絶対音感∞・模倣10・表現10・鑑定10・万能言語∞・火魔法1・風魔法1・水魔法1・経験値移動距離∞
■ギフト:なし
■称 号:なし
■加護:なし
■ボーナスポイント:39844pt
ミニステータス
L魅力209・芸術501・運動339・学力801・社交性502・気品697
「こうして見ると……魔法って全然役に立ってないよね」
思わず苦笑する。
RPGの世界なら無双できそうなステータスだけれど、ここは現代日本。火魔法1とか、使い道が無い。
それより気になるのは“運”。
レベル62にしては、635はちょっと低い気がする。
「うーん……美味しそうなスキルが無かったら、全部運に突っ込もうかな」
とはいえ、その前に。
「神様ガチャ、回しちゃおう」
神様ガチャ券の所持数を確認する。
――2555枚。
七年間、ほぼ放置していた結果がこれだ。
もはや貯金通帳みたいな枚数である。
「一気にいきますか!」
私は躊躇なく“2555連”を選択した。
光が弾け、アイテム一覧が高速で流れる。
経験値ポーション(大)821
経験値ポーション(中)309
経験値ポーション(小)125
体力回復ポーション(大)32
魔力回復ポーション(中)21
表現上昇補正(20%・1時間)
魅力補正(+5)
幸運補正(50%・半日)
……その他、補正系アイテム多数。
「うわぁ、現実寄り」
世界征服アイテムとか、神の加護とかは出なかった。
でも地味に便利そう。
そして、目玉は――。
新スキル:自立サポートシステム『イリス』
「……なにこれ?」
とりあえず、ボーナスポイントを処理する。
39844ptを、全部“運”へ。
運:5196
「おお……」
一気に跳ね上がった。
馬券でも買えば当たるかな?
いや、未成年だからダメだけど。
さて、本題。
「イリス!」
呼んでみる。
――無反応。
「……恥ずかしい」
誰もいない自室で良かった。
スキルボードの“イリス”をタップすると、ゲームの起動画面のような表示が展開した。
『自立システム【イリス】を起動します。解析鑑定を生贄に対象者:秋月燈由と同期を開始します……44%……76%……100%。同期完了しました』
頭の中に、流暢な声が響く。
『初めまして、マスター。私の名前はイリス。世界に接続した情報を統べる存在です』
「え、検索とかできるの?」
『可能です。念じて頂ければ応答します』
「(さっき返事しなかったよね?)」
『同期前のため、応答不可でした』
なるほど、理屈は通っている。
「(何ができるの?)」
『未来に存在する自立型AIの進化形とお考えください。情報解析、予測、最適解提示、身体管理、戦略立案などが可能です』
なんかすごい。
試しに言ってみる。
「(バイタルチェックして)」
『開始します……完了。異常無し。健康状態は良好です』
身体を透明な膜で包まれたような感覚がした。
「(他人にもできる?)」
『可能です。異常部位の可視化、最適治療法の提案、神経伝達補助も行えます』
……医療革命では?
でも私は医者より、まずは子役で稼いで将来ニートになる予定だ。
「(医療特化?)」
『いいえ。あらゆる分野に適応可能です』
ちょっとドヤ顔された気がする。
『マスター、知識の蓄積を推奨します。図書館へ』
「ちゃっかりしてるなぁ」
とはいえ、面白そうだ。
私は県立図書館へ向かった。
本当は市立で良かったのに、イリスが「蔵書量が違います」とうるさい。
パソコン席に座り、ふと思う。
「……株、やってみよっか」
賠償金で会社の懐は潤っている。
でも私は、自分の資産も増やしたい。
まずは入門書で基礎を確認。
専門書で応用理論。
チャート分析、指標、需給。
『銘柄A、短期上昇確率73%』
『銘柄B、決算発表後に急落予測』
イリスの提示は具体的で、根拠データも瞬時に示される。
私はネット証券口座で、少額から売買を開始した。
……二時間後。
利益:100,000円。
「すご……」
イリス、有能すぎる。
『マスターの運値上昇も影響しています』
なるほど、運5196の恩恵か。
「この調子で増やしていけるかな?」
『長期分散投資と短期戦略の併用を推奨します』
完璧な回答。
図書館を出る頃には、空は夕焼けに染まっていた。
私は鼻歌を歌いながら帰路につく。
宮園さんの件で学んだことがある。
――力は、持っているだけじゃ意味がない。
正しく使わなければ。
イリスという新しい力。
高まった運。
積み上げた経験。
今度は、ただ芸能界で成功するためじゃない。
もっと、はっきりした目標がある。
私は立ち止まり、夕焼けの空を見上げた。
「ねぇ、イリス」
『はい、マスター』
「私、自衛官になれるかな?」
頭の中に一瞬の静寂が落ちる。
『適性分析を開始します……』
数値が高速で流れる感覚。
『身体能力、学力、精神耐性、リーダー資質――総合評価:高。現時点到達確率41%』
「まだ半分以下かぁ」
『最適訓練計画を実行した場合、到達確率87%まで上昇可能です』
思わず笑みがこぼれた。
芸能界での経験も、注目を浴びることも、
炎上を乗り越えたことも、
全部、無駄じゃない。
人前で堂々と立てる強さ。
どんな状況でも冷静でいられる精神力。
仲間を信じ、守ろうとする気持ち。
それはきっと、将来誰かを守る仕事に繋がる。
「じゃあ、やるしかないよね」
『はい、マスター。目標を“国防従事”に設定しました』
胸の奥が、静かに熱くなる。
私は芸能界で輝きながら、力を蓄える。
知識を学び、身体を鍛え、精神を磨く。
そしていつか――
本当に誰かを守れる存在になる。
夕焼けの向こうに広がる空は、どこまでも高い。
秋月燈由、十一歳。
未来の自衛官候補生は、小さく拳を握りしめた。




