表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルを駆使して人生勝ち組っ!R  作者: 此花サギリ
小学生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/40

第15話 私の本気

 世界はまだ、私の本気を知らない。


 けれど――世界のほうが、先に私へ手を伸ばしてきた。


 ◆


 翌週。


 事務所の応接室は、いつもより空気が重かった。


 ガラス張りのテーブル越しに座るのは、スーツ姿の男女三人。無駄のない仕草、感情を読ませない微笑み。


 海外投資ファンド――表向きは“未来志向の教育支援団体”を名乗っているが、実態は新興市場を荒らして急成長する資本集団だ。


 「燈由(ひより)さん。本日はお時間ありがとうございます」


 流暢な日本語。だがイントネーションがわずかに違う。


 私はランドセル姿のまま、にこりと微笑んだ。


 「こちらこそ。今日は授業が早く終わったので」


 子供らしさを、あえて残す。


 相手は私を“天才子役”“幸運の少女”として見ている。裏にいる思考の深さまでは、まだ掴んでいない。


 「最近の投資実績、素晴らしいですね。医療、IT、エンタメ……非常に先見性がある」


 褒め言葉の裏に、探る視線。


 私は肩をすくめた。


 「ニュースと本をいっぱい読んでるだけです」


 嘘ではない。ただし“未来のニュース”という部分は伏せている。


 男は一枚の資料を差し出した。


 「我々と共同で、次世代IT教育プラットフォームを立ち上げませんか? 出資比率は五分五分。世界展開も視野に入れています」


 五分五分。


 つまり、主導権は握らせないという意味だ。


 私は資料をめくりながら、静かに分析する。


 ――このモデルは、二〇〇〇年代初頭に一度流行るが、バブル崩壊で淘汰される。生き残るのは、より柔軟でコミュニティ型の仕組み。


 提案は悪くない。だが“今”ではない。


 「面白いです。でも、私はまだ勉強中なので……三年後でもいいですか?」


 三年後。


 ちょうど市場が熟すタイミング。


 相手は一瞬だけ眉を動かした。


 「三年後、ですか?」


 「はい。その頃には、もっと具体的なビジョンを持てると思います」


 十一歳が三年先を見据える。


 その違和感に、彼らは戸惑いを隠せなかった。


 結局、その場は名刺交換だけで終わった。


 帰り際、男が小声で言う。


 「あなたは、本当に子供ですか?」


 私は振り返り、にっこり笑った。


 「もちろんです」


 ◆


 だが、その日を境に、周囲の空気が変わった。


 学校の門前に見慣れない車。


 自宅近くを歩く、同じ顔の男。


 ――監視。


 私は確信した。


 巨大な資本は、偶然を信じない。私の成功を“幸運”で片付けず、分析し始めている。


 夜、自室でパソコンを開き、セキュリティを強化する。資産は複数の法人名義へ分散。信託契約も準備。


 父にはまだ言わない。


 心配をかけたくない。


 だが――


 「燈由(ひより)


 背後から声がした。


 振り向くと、父が立っている。


 「最近、様子がおかしいな」


 私は一瞬迷い、そして正直に話した。


 投資ファンドのこと。監視の気配。


 父は黙って聞き、やがて低く言った。


 「お前はまだ子供だ。だが、もう普通の子供ではいられないのかもしれないな」


 その声には、誇りと不安が混じっていた。


 「守る。だが、俺達だけでは限界もある。信頼できる大人を増やそう」


 翌日から、弁護士と税理士が家に出入りするようになった。


 私の資産は正式に管理体制へ組み込まれる。


 ――これで簡単には触れられない。


 ◆


 一方、ぷくもん人気は第二波に突入していた。


 新弾カード発売日。


 私はイベント会場でサイン会を開く。


 列は数百メートル。子供達の目は輝いている。


 その光景を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締まった。


 前世の私は、こんな風に誰かを笑顔にしたことがあっただろうか。


 仕事は、ただ生きるための義務だった。


 でも今は違う。


 「ありがとう!」


 カードを受け取った少年が、満面の笑みで言う。


 私はしゃがみ込み、目線を合わせた。


 「こちらこそ。大事にしてね」


 その瞬間、決意が固まった。


 お金は武器。


 でも、本当に欲しいのは――


 守れる力。


 この笑顔を、奪わせない力。


 ◆


 数ヶ月後。


 世界経済に小さな揺らぎが生じた。


 新興IT企業の不正会計疑惑。


 市場がざわつく。


 私はチャートを見つめ、静かに呟いた。


 「来る……」


 前世で体験した、あの暴落の前兆。


 私は即座に動いた。


 保有株の一部を売却。安全資産へ移行。逆に、暴落後に跳ねる銘柄をリストアップ。


 周囲が混乱する中、私は淡々と準備する。


 そして一週間後。


 市場は急落。


 テレビは大騒ぎ。投資家達は悲鳴。


 私は静かに、底値で買いを入れた。


 恐怖の中で動けるかどうか。


 それが差を生む。


 数ヶ月後、市場は回復。


 私の資産はさらに膨らんだ。


 ◆


 ある夜、ベランダで夜風に当たりながら、私は星空を見上げた。


 未来を知る優位性。


 だが、それは永遠ではない。


 どこかで記憶と現実がズレ始める。


 その時、私は“本当の実力”を問われる。


 「……望むところだよ」


 私は小さく笑った。


 十一歳の体。


 三十後半の記憶。


 莫大な資産。


 狙うのは、ただの富豪ではない。


 文化を支え、教育を変え、誰かの選択肢を増やせる存在。


 ブラック企業で泣いたあの日の私のような人間を、減らすために。


 スマホもまだ普及していないこの時代。


 だが、十数年後、世界はネットで繋がり、個人が力を持つ。


 その土台を、今から作る。


 私は部屋に戻り、パソコンを開く。


 新規フォルダを作成。


 名前は――


 『プロジェクト・フリー』


 誰にも縛られない未来。


 誰かを縛らせない社会。


 その第一歩として、私は教育系ポータルサイトの設計図を書き始めた。


 世界はまだ、私を知らない。


 でもきっと近い。


 次に名を呼ばれる時。


 それは“天才子役”でも“幸運の投資家”でもない。


 ――未来を設計する者として。


 私はキーボードを打ち続けた。


 夜が明けるまで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ