第13話 投資と宝くじで荒稼ぎしてみた
折角、父に買ってもらったディスクトップパソコン。白い筐体が机の上で静かに唸っているのを眺めながら、私はふっと口元を緩めた。
――さて、未来を変える時間だ。
ブラック企業に勤めていた前世。終電帰りの薄暗いオフィスで、同僚が得意げに語っていたのを思い出す。
「フジタ電子は買いだぞ」「クーグルは絶対伸びる」「ママゾンは世界を取る」
あの時は、疲れ果てた頭で「へぇ」と聞き流すだけだった。けれど今は違う。未来を“知っている”私にとって、それは確定情報に等しい。
――1996年。まだ誰も知らない黄金期の入り口。
私は早速、証券口座を開設した。子役としての収入があるとはいえ、小学五年生が証券会社とやり取りする光景はなかなかシュールだ。だが、そこは父の協力と事務所の後押しで難なく突破。
パソコンの画面に並ぶ銘柄一覧を見ながら、私は狙いを定める。
医療メーカーのフジタ電子。検索エンジン事業を伸ばすクーグル。オンライン通販のママゾン。
2013年、株価は爆発的に上昇する。ピーク時には一株一万三千円から二万円超え。今はまだ一株180~300円程度だ。
――安すぎる。未来の値段を知っている身としては、バーゲンセールどころの話じゃない。
私は三社の株を、市場に出回っている分の五〇%近く買い集めた。小学生が筆頭株主になった瞬間である。
さらに、大手オンラインゲームのEMM、すかいホールディングス、一井ハムなど、将来安定して伸びる企業にそれぞれ百万円ずつ投資。
合計一千万円。
画面に表示される数字を見て、ふぅと息を吐く。
子役としての貯金はまだまだ潤沢だ。年間三億、六年で十八億。賞金なども含めれば二十億は軽く超えている。
だからこそ出来る、未来への種まき。
だが当然、母は激怒した。
「燈由ちゃん、こんなにお金を使うなんて! 株なんて貴女には早いわ!」
腕を組み、今にも泣き出しそうな顔で私を睨む母に、私は落ち着いて説明する。
「私が稼いだお金だよ。しかも一割も使ってない。ちゃんと勉強もしたし、損するならこの一千万だけって決めてる」
「でも……!」
母の声は震えている。怒りというより、不安だ。
私は少しだけ声を柔らかくした。
「株に使うのは、株で儲けたお金だけ。絶対に無茶はしない。約束する」
それでも納得しきれない母は、父へと矛先を向ける。
「パパからも言ってちょうだい!」
父は顎に手を当て、しばらく考え込んだあと、穏やかに笑った。
「燈由は自分の金でやってるんだ。物欲も無かった子が、初めて選んだのが株だ。面白いじゃないか」
「でも大金よ?」
「大人になった時に渡す貯金とは別に、多少の目溢しはあってもいい。経験も財産だ」
その言葉に、母はようやく小さくため息をついた。
「……株に使うのは利益分だけよ?」
私は即座に頷く。
「それでいいよ」
本当はもっと買いたい銘柄がある。でも今は引き際だ。パソコンを没収されたら元も子もない。
こうして家庭会議は終了し、私達はいつもの穏やかな団欒へ戻った。
……だが、問題が一つ。
株に資金を回しすぎて、土地の先行投資が出来なくなったのだ。
――ならば、別ルートで資金を確保すればいい。
思いついた瞬間、私は宝くじ売り場に立っていた。
解析鑑定スキルを使えば、当選番号は一目瞭然。
「すみません、宝くじください!」
顔なじみの売店のおばちゃんが目を丸くする。
「あらまぁ、燈由ちゃんじゃないの。ドラマ見てるわよ~。お母さんのお使い?」
私はにっこり笑って言った。
「サインするから、バラで136990番ください」
本来なら番号指定は嫌がられる。だが私は芸能人パワーを発動した。
「サインくれるの? じゃあ頑張っちゃう!」
無事ゲット。鑑定結果は――一等。
私はその足でタクシーを一日レンタルし、日帰り可能な範囲の売り場を巡った。車内でサイン色紙を書き、店員と番号交換。
最終的に確保したのは、一等と前後賞、二等、五等。
合計四億六千万円。
――完璧だ。
だが私はそこで止まらない。
ふと思い出す。今流行り始めた「ぷくもん」カード。2023年にはRカードで数万円、SSRは百万超えも珍しくない。
「運転手さん、コンビニとおもちゃ屋さん寄ってください」
専用コーナーで鑑定を発動。R、SSR入りのブースターを選別購入。保護用の硬質ケースとカードバインダーも揃える。
そして私は、自分のホームページを立ち上げた。
ぷくもんの魅力、デッキ紹介、レアカードが出ない愚痴。イラスト付きで毎日更新。
ファンは飛びついた。
人気は爆発。株式会社ぷくもんからCMオファーと全種類カードの贈呈。さらに熱狂的ファンからもレアカードが続々届く。
私は即座に発表した。
次のぷくもんジャパンチャンピオンシップスに出場します、と。
もちろん依頼。出来レース。だが宣伝効果は絶大だ。
被ったカードはサイン入りでオークションへ。
収益の半分は日本舞踊振興基金に寄付すると公表し、私の日本舞踊動画をYourTubeに投稿。
動画は大バズり。
オークションは全て高額落札。
通帳の数字がまた跳ね上がる。
未来を知るというのは、これほどまでに強い。
でも私は慢心しない。
2023年。
その時、私はどこまで到達しているだろうか。
パソコンの画面に映る自分の顔は、まだ十一歳の少女。
けれど胸の奥で笑っているのは、三十後半OLだった私だ。
――今世こそ、負けない。
未来は、全部取りにいく。




