表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルを駆使して人生勝ち組っ!R  作者: 此花サギリ
小学生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/39

第10話 ミュンミュンのモデル

 更衣室の椅子に腰掛け、泥だらけになった衣装を脱いだ瞬間、ふっと現実感が薄れた。


 ――ああ、やっぱり来たか。


 鏡の中の私は、いつも通りの顔をしている。泣いてもいないし、怒ってもいない。ただ少しだけ、目が冷えていた。


 「燈由ちゃん、ごめんね。本当にごめんね」


 myun myunのスタイリスト、我妻さんが何度も頭を下げる。


 「我妻(あがつま)さんのせいじゃないです」


 むしろ助けてくれたのはスタッフの方々だ。


 だが問題はそこではない。


 あの子達が口にした名前。


 ――宮園さん。


 ◇◇◇


 翌日、学校に行くと空気が明らかに違った。


 ひそひそ声。


 視線。


 スマホを隠す仕草。


 嫌な予感しかしない。


 机に鞄を置いた瞬間、光が青ざめた顔で近付いてきた。


 「燈由(ひより)……これ」


 差し出されたスマホ画面。


 そこに映っていたのは、昨日の私。


 泥だらけで転んだ瞬間の写真。


 タイトルは――


 《人気子役、撮影中に自爆転倒?》


 悪意の塊のような文章が添えられている。


 “星宮裕翔(ゆうと)に色目を使い失敗したらしい”

 “センターを奪った罰では?”


 胸の奥がじわりと冷える。


 「誰が上げたの?」


 「分からない。でも発信元、宮園さんのファンアカと繋がってる」


 ……なるほど。


 偶然、ね。


 ◇◇◇


 昼休み。


 トイレに入った瞬間、背後から水を掛けられた。


 冷たい。


 制服が濡れる。


 振り返ると、例のファンの子達。


 「昨日は災難だったね?」


 嘲笑。


 「でも泥の方が似合ってたよ?」


 くすくす笑い。


 私は黙ってハンカチで顔を拭いた。


 「何とか言いなさいよ!」


 「言うことないから」


 淡々と答える。


 すると、背後から別の声。


 「やめなさいよ」


 振り向けば、宮園春香。


 彼女は腕を組み、こちらを見下ろしていた。


 「学校で問題起こしたら面倒でしょ」


 味方?


 いや違う。


 彼女は私の耳元に顔を寄せ、囁いた。


 「ネットって怖いわよね。いつ炎上するか分からないもの」


 ぞわり、と背筋が粟立つ。


 確信した。


 直接手は出していない。


 だが火種を撒いたのは彼女だ。


 「忠告ありがとう」


 私は微笑んだ。


 彼女の目が細まる。


 ◇◇◇


 嫌がらせはエスカレートした。


 机の中に入れられた破られた雑誌の切り抜き。


 “偽りの天才”


 上履きが隠される。


 レッスンバッグに落書き。


 そして決定的だったのは――


 ドラマのオーディション情報のリーク。


 私が極秘参加するはずだった企画が、事前に噂として流されたのだ。


 結果、“出来レースでは?”と騒がれる。


 事務所は火消しに追われた。


 マネージャーが眉間を押さえる。


 「燈由、学校で何かあったか?」


 「別に」


 本当は山ほどある。


 だが言わない。


 これは、私の問題だ。


 ◇◇◇


 放課後、屋上。


 呼び出したのは私の方だった。


 風が強い。


 フェンス越しに立つ宮園春香。


 「何?ついに泣き言?」


 「違うよ」


 私はスマホを取り出した。


 画面には、昨日のトイレでの音声データ。


 彼女の囁き声。


 そしてファンの子達の会話。


 「ネットに上げたらどうなるかな?」


 彼女の顔色が変わる。


 「……脅す気?」


 「事実を出すだけ」


 淡々と告げる。


 前世で学んだ。


 感情で動いた方が負ける。


 宮園さんは唇を噛んだ。


 「何が望み?」


 「やめて」


 ただそれだけ。


 「私はあなたの席を奪う気はない。来年辞めるって言ったでしょ」


 沈黙。


 彼女の拳が震えている。


 「……怖いのよ」


 小さな声。


 「何が?」


 「あなたみたいなのがいると、自分が空っぽに見える」


 初めて聞く、本音。


 私は息を吐いた。


 「努力してるの知ってるって言ったよね」


 「慰めいらない!」


 叫ぶ。


 風が彼女の髪を揺らす。


 「私は勝ちたいの!主役になりたいの!親の名前じゃなくて!」


 ――ああ。


 そういうことか。


 彼女は私を憎んでいるのではない。


 自分の影と戦っている。


 「じゃあ正面から勝負しよう」


 私は言った。


 「いじめじゃなくて、舞台で」


 彼女の瞳が揺れる。


 「逃げない?」


 「逃げない」


 しばらく睨み合い。


 やがて彼女は視線を逸らした。


 「……今回のは、止める」


 小さな声。


 「ファンにも言う」


 完全な謝罪ではない。


 だが十分だ。


 ◇◇◇


 翌日から、嫌がらせはぴたりと止んだ。


 ネットの投稿も削除され、発信元アカウントは沈黙。


 学校の空気も徐々に元に戻る。


 けれど傷は残る。


 机に残った薄い傷跡。


 バッグの消えないペンの跡。


 そして心の奥の、冷たい感触。


 放課後、星宮裕翔(ゆうと)が声を掛けてきた。


 「大丈夫か?」


 「何が?」


 「全部」


 不器用な優しさ。


 私は少し笑った。


 「平気。慣れてる」


 「慣れるなよ」


 真っ直ぐな目。


 一瞬、前世の自分が胸を刺す。


 ――本当に慣れていいのか?


 答えは出ない。


 だが一つだけ確かなのは。


 私は負けない。


 いじめにも、嫉妬にも、噂にも。


 来年引退するその日まで。


 舞台の上で、堂々と立つ。


 屋上から見上げた空は高かった。


 その青さは、昨日より少しだけ澄んで見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ