旅立ち
世界は、かつて自然に満ち溢れた平和な一つの国からできていた。
ペカッセ国というその国には、さまざまな所属が共生していた。
様々な動物の特徴を持つ獣人。
鍛治が得意で酒好きなドワーフ。
魔法が得意で長命なエルフ。
爬虫類に似た見た目を持つリザードマン。
空を飛ぶことができるハーピー。
下半身が馬の姿をしたケンタウロス。
額に一つの目を持つ巨人サイクロプス。
そして高い知能を持つ人間。
これらの種族はそれぞれ別のエリアで、だが時には協力して生きていた。
それが壊れたのは、些細なことだった。
人間の子供が他種族を見下すような発言をした。
お前らは俺たち人間より知能の劣った劣等種だ、と。
それは、これまで平和だった均衡を崩すには十分だった。
人間とそれ以外が敵対し、二つの国に分かれた。
人間の国、アストライア王国。
他の種族の国、ガイアハウル帝国。
アストライア王国では知力が、ガイアハウル帝国では武力が権力となって国を治めた。
そのためガイアハウル帝国では、本があまり普及していないのだ。
なんで!?なんで逆じゃなかったの!?
そう心の中で絶叫する私は水瀬葵。
もとい現在ではノアという名前を今はもう亡き父さん、ゼインから貰った。
そして現在、村から追い出されるための荷造りをしているのが今である。
村の人は手出しはしないと言ったがそれは手助けもしないということだ。
第一ゼインを殺したやつらがいる村で生きていたいとは思わない。
だから私は旅に出ることにした。
ゼインが生前よく話してくれていた人間の国にある図書館を目指すのだ。
私は普段の見た目は人間そのものだ。
ゼインが処刑されて記憶が戻った時に耳と尻尾が生えたのは感情が昂ったからだと思う。
つまり私は感情さえ鎮めればほぼ人間ということにできるのだ。
可能性があるなら本に向かって一直線しかないという思考だ。
だが万が一バレそうになった時のために帽子などで頭を隠しておきたい。
だから何か家にないかと探しているが、意外と見つからない。
その後私は30分ほど探し続け、ようやく帽子を発見した。
翌日。
私はこの体では初めてくらい早い早朝に起き出した。
まだ朝日が昇っている最中くらいの時間だ。
昨日見つけた帽子とマントを身につけ、持てる限りの本を大きなリュックに入れて家を出た。
十四年間過ごしてきて初めて目にする家の外観へ、今までありがとうと心の中で呟く。
ゼインの残した地図から読み取ったアストライア王国への方向へ私は歩き出した。