禁忌の子
「禁忌の子と重罪人を出せー!」
「処刑しろー!」
そんな怒号が聞こえてくる。
外に見えるのはたくさんの火と人影。
「父さん、父さん!」
同じ寝台に寝ているはずの父さんがいない。
どこにいるのかと見渡せば、玄関に向かっている父さんの姿がある。
「よかった、父さん、…これってどういう状況?」
父さんは顔を顰めるだけで何も答えない。
もう一度声をかけようか迷っているうちに、父さんはしゃがんで私と目線を合わせ、話し出した。
「ノア、お前に母さんがいないというのは話しただろ?」
「うん」
いきなり何の話だろうか。
「父さんは見ての通り狼の獣人だが、母さんは違う。人間なんだ。」
驚愕のあまり目を見張る私を置いて、父さんは続きを語りだした。
私の母、リアナは生贄として捧げられた人間で、死にかかっているのを父さんが助けたのが馴れ初めらしい。
そこから私には話せない話だとかなんだとかを経て私が産まれたそうだ。
「…その時に、お前の母さんは死んだ。他の種族との子を産むには体力が足りなかったんだろう。」
父さんは私の初めて見る表情をしながら言った。
「…父さんが、お前に日光に弱い体質だと言っていたよな?」
乾いて声が出ない喉の代わりに頷く。
「あれは嘘だ。」
頭が真っ白になるとはこういうことかとどこか冷静な部分で考える。
「お前の見た目は、俺よりリアナに似ている。と言うより、見た目は獣人より人間だ。」
この短時間の間に告げられた真実の多さに目が回る。
私のお母さん、人間!?
私も見た目人間!?
「他の種族との子が何と呼ばれるか知っているか?」
「…知らない。」
父さんは何かを躊躇った後、引き絞るようにそう言った。
嫌な気配が背筋に走った。
「禁忌の子だ。」
それは外で今も叫ばれている、『禁忌の子を出せー!』が私ということに他ならなかった。
「だから、父さんは行かなければならない。」
1人で勝手に解決させて私に背を向けた父さんに私は声をかけられなかった。
父さんが出て行ったことにより騒ぎが一瞬静まり、すぐ後に先ほどとは比べ物にならないくらいの怒号が飛び交った。
「父さん、父さん…!」
この時の私は自分から出ていく勇気もなく、ただ泣きじゃくっているばかりだった。
外から聞こえてくる、聞き慣れた父さんの娘だけはという声。
それに比例して大きくなる怒号。
眠気と相まって遠のく意識の中、俺だけはどうなってもいいという声が聞こえた気がした。