花が紡ぐ秘密 4
「ねぇ、カイル」
「なんでしょうか?」
カイルは最期のお嬢様に仕える時間を噛みしめるように世話をする。
そんな中で彼女から思ってもいない質問が投げられる。
「わたくしに何か隠していること、何かないかしら?」
カイルの身体がこわばるが、いつも通りを意識して何事もないかのように答える。
「……ありません。俺がお嬢様に隠し事などするわけがないでしょう」
「ふぅん……まぁ、貴方がわたくしに隠し事などするわけないもの、ね?」
にこやかな笑みの向こうに冷たい視線が隠されている。それにカイルは気づくが、もうどうしようもない。
隠し通さなければ、これだけはバレてはいけない。お嬢様に向ける愛情など、絶対に。それだけがカイルを支配していた。
「もちろんです、俺のすべてはお嬢様のものですから」
喉の奥から本音を隠した言葉が滑り落ちる。それに対してお嬢様が微笑んでくれる、それだけでカイルは天にも登る気分だった。
「ふふ、それもそうね。今日ここまででいいわ。しっかり休んでくるのよ」
「……はい、それでは。いつまでもお慕いしております、お嬢様」
カイルの思わず落ちた本音に、セリーヌは少しだけ目を丸くして、甘やかな蜜をとろりと溶かしたような声を一つ、カイルに向けて落とす。
「わたくしもよ、カイル。おやすみ」
「おやすみなさい、お嬢様。良い夢を」
***
そうして自室に戻ったカイルは夢を見ているような気分だった。お嬢様と思いが通じ合ったような、お嬢様のものであるような、そんな夢物語を。
馬鹿みたいで、単純だと自分でも思う。それでも、これはきっと夢でも嘘でもない、自分にだけ向けたお嬢様の心。
それだけで、このまま死ぬのだって怖くない。その思いだけ抱いていれば、もう何も思い残すことなんて何もない。
口の端から花弁がこぼれる。赤みのあるピンクからオレンジ、重なる花弁が光の粒を閉じ込めたように輝く花弁が。
それにすら気づかないほどカイルは、軽い足取りで自室に戻り、胸が熱くなるような幸福感に身を任せる。
(あぁ、あぁ、なんて……夢を見ているようだ)
カイルはこのまま夢を見たまま幸福の絶頂で死んでしまおうと、剣に手を伸ばす。
そのまま刃を首に滑らそうとした時に、部屋の隅においた袋が目に付く。
(あれはここにあっては行けないもの……あれだけ片付けて、明日。明日、誰もいない時にしよう。)
一度剣を置き、そのまま一度眠りにつこうとベッドへ横になる。
そのまま、幸福感に身を任せ、眠りに落ちる。