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花が紡ぐ秘密 3

 夜が明けるころ、カイルは部屋の中で静かに座っていた。

剣を膝に乗せ、薄明かりに照らされた顔には、どこか穏やかな表情が浮かんでいる。


「お嬢様が俺を不要だと考え、いらないというのであれば……俺には何も価値がない」


彼はそう呟き、ゆっくりと立ち上がった。

そして、自分の決意を胸に秘め、最期の朝を迎える準備を始めたのだった。


 最期の一日を迎えるにあたって、カイルはいつも以上にお嬢様の一挙一動を見逃さないように、心を込めて仕えていた。

「カイル、今日は一段と張り切ってるわね」

お嬢様からそう苦笑いされるくらいには。

「えぇ、最期の日ですから。お嬢様が俺のことを忘れてしまわないように」

「忘れるわけないじゃない、全く」

そんなお嬢様からの一言一言が眩しくて心にとどめたくて、お嬢様のそばを離れることがないほどに控えていた。

「これからドレスの試着なの、その間カイルは……そうね、資料の片付けをしてくれる?」

「承知しました。お気をつけて」

「ふふ、カイルったら……」

そんなたわいもない会話すら忘れないように、心に刻むようにカイルは仕える。


***


 ドレスの試着中、エミリーはふと、思い出したことをセリーヌへ伝える。

「そういえばお嬢様。カイル様にフェルマルティアの花を持ってくるよう頼んだりしましたか?」

「フェルマルティア……?いえ、そんなことはしていないけれど」

どうしたの?とセリーヌはエミリーに続きを話すよう伝える。

「この間屋敷の掃除をしている時に、廊下に花びらが落ちていたんです。

今の季節では見ない花なので、お嬢様が頼んだのかと……」

と答えるエミリーはやや歯切れが悪い。

何か隠していることが?とセリーヌへ再度問う。

「……これは、私の憶測であり、決してカイル様を貶める目的ではないのですか……。

カイル様は、その……花吐き病なのではないか、と」

「……なるほどね」

季節外れの花びら、カイルの体調の悪さをつなげてそう考えたのか、とセリーヌは考える。

「確かにその可能性はあるわね……ただカイルはきっとそれならばわたくしに伝えてくれるはずよ」

自信に溢れたお嬢様の声が試着室へ響く。だって、と続けるお嬢様には未来しか見えていない。


「カイルとわたくしは両想いですもの。そんな病にかかってたとしてもすぐにわたくしに言ってくるわ」


普段はカイルにしか見せないようなはにかんだ笑顔が、ここにいないカイルに向けての笑みだということはエミリーが一番良くわかっていた。エミリーは惚気に当てられたと言わんばかりに、苦笑を落とす。

「私の杞憂でしたね。どうぞ、末永くお幸せに」

「えぇ、そのための休養ですもの。わたくしの婚約者、ひいては夫になったら休養なんて満足に取れなくなってしまうわ」

陽の光に当てられた碧色は緩やかに、しかし確実に愛情の炎が揺らめいていた。

(……けれど、エミリーの言う事も確かなのよね。聞いてみるだけ、聞いてみましょうか。)

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