隠しきれない想いと重なる嘘 3
夜の庭園でカイルは一人袋を引きずりながら歩いている。感情を含ませた花弁や花は相当重いはずなのに、彼は軽々と何も入っていないかのように持ち運ぶ。そうして、庭園の隅まで運んだ袋の中身を、事前に掘っておいた穴にいれる。
袋の下に入っていた花弁は色を失い濁っている。もはやどのような花だったのかすら不明だ。
(まるで俺の感情みたいだ。)
ぼんやりと花弁を見つめながらカイルは考える。最初はただの感謝と憧憬だったはず。
彼を救ってくれた幼いお嬢様への。
カイルは幼いころ道端で死の淵に立っていたところをお嬢様に救われ屋敷に仕えることになった。
最初は雑用係として働き、次第に能力を認められ、やがてお嬢様専属の従者となった。
セリーヌとともに過ごしてきた時間は、彼にとって宝物だった。
お嬢様が初めて笑顔を向けてくれた日のことを、今でも鮮明に覚えている。
『カイル、あなたがそばにいてくれると、わたくし安心するわ』
その言葉が、どれだけ彼の心を救ったか。以来、カイルの生きる理由はセリーヌだけになった。
(俺はお嬢様のそばにいるために存在する。)
その思いが彼を支えてきた。どれほど厳しい仕事であっても、お嬢様の笑顔を見ることができれば、どんな苦労も乗り越えられた。
だが今、その立場が揺らいでいる。自分の病が原因でお嬢様のそばにいることができなくなる、その事実がカイルに深い影を落としていた。
(俺は一体、どうすれば……)
答えのでない問は、ぐるぐるとカイルの頭の中を回り続ける。濁った花弁が土に隠れて見えなくなっても、答えはきっと見つからない。
***
花弁の処理を終え、カイルは自室へと戻っていた。
吐き気と眠気は収まらないが、それ以上に彼の頭の中を占めるのは、今後自分がいなくなった後のことだった。そのことを考えるとカイルの胸に激しい嫉妬と独占欲が湧き上がる。
お嬢様のそばにいるのは自分だけでいい。けれど、そんなお嬢様が頼るのは自分だけでいいという気持ちと、お嬢様が不便な思いをするのは耐えられないという相反する気持ちがぶつかり合う。
「お嬢様が俺以外に頼る姿なんて見たくない。お嬢様が必要とするのは俺だけ……だけど。
俺がいなくなった後、お嬢様が不自由な生活を強いられるのはもっと見たくない……」
カイルの喉が痙攣するように動き、吐き気のせいか涙が溢れて止まらない。水気を含んだ花弁が滲む。
あぁ、あぁ、と。慟哭を押し殺した音が嗚咽に混じってかすかに響く。
(お嬢様、俺の……俺だけのお嬢様。愛してます、誰よりも、何に変えても。
俺の命だって捧げたっていい。
あなたの幸せが俺の幸せなんだ。お嬢様……お嬢様。)
祈りのようなセリーヌへの愛を捧げて、夜は更けていく。