冷たい鎖 1
カイルは目を覚ますと、暗闇の中にいた。頭がぼんやりとしていて、今が朝なのか夜なのかもわからない。
微かに聞こえる風の音と、自分の荒い呼吸だけが耳に響いている。
「ここは……?」
声を出そうとしたが、喉が酷く乾いていて、思うように言葉が出てこない。カイルは手足を動かそうとしたが、その瞬間、冷たい感触が手首に伝わった。
「……鎖?」
彼の手足は、頑丈な金属の鎖で拘束されていた。それが壁に固定されており、動ける範囲は極めて限られている。
「何が……どうなっている?」
彼は混乱し、記憶を手繰り寄せようとした。最後の記憶は、部屋でベッドに横になったところで切れている。そのまま眠ってしまったようだった。
「まさか……俺は死んだのか?」
そう考えた瞬間、背筋に冷たいものが走った。だが、この痛みと寒さが死後の感覚だとは思えない。
周囲を見渡すと、僅かな月明かりが細い窓から差し込んでいる。その光に照らされ、部屋の中がぼんやりと見えてきた。壁は石造りで、湿気と冷気が漂っている。床にはわずかに藁が敷かれており、ほのかに埃の匂いが鼻をついた。
「牢屋……?なぜこんなところに……」
カイルは震える手で鎖を握り締めた。だが、それを引きちぎることはできないほど頑丈に作られている。
(誰が、何のために俺をここに閉じ込めたんだ?)
その疑問が頭を巡る。
ふと、喉の奥に違和感を覚え、激しい咳が込み上げてきた。
「……っ!」
咳き込むたびに、喉が焼けつくように痛む。彼は何とか咳を抑えようとするが、喉の奥から花が一輪吐き出された。
鮮やかな赤に炎のような金の筋が入ったクラリオスの花だ。
(こんな時まで……だが、ここで花を吐くということはまだ俺は死んでいない、ということか……)
カイルは吐いた花を直視しないように視線をそらす。
そのとき、重い鉄の扉の向こうから足音が聞こえた。硬い床を踏みしめる音が規則的に近づいてくる。
カイルはその音に耳を澄ませた。胸の中に湧き上がる不安を抑えながら、目を凝らして扉を見つめる。
「誰だ……?」
扉が軋む音を立てて開き、蝋燭の明かりが暗い部屋を照らした。
クラリオス:鮮やかな赤に炎のような金の筋が入る花弁を持つ花。角度によっては黒みを帯びる赤が見える。炎を思わせる豪華な花弁が情熱的で、愛の告白に使われる。