比翼連理の誓い
今日釣りをしてきたのと、比翼連理という言葉との組み合わせでふと思い至り、勢いで書いたフィクションの短編小説です。
とあるところにひどく疲れ、失意しふらふら歩いている女性がいました。
彼女ははとある満月の夜、満月の光が雲にでちょうど覆い隠されてるときに、堤防を歩いてました。
その堤防の先にあるのはほの暗い海でした。
そんなところを深夜とぼとぼと歩いていたところ、満月の光の梯子を外していた分厚い雲がなくなり明るくなりました。
その時、堤防の突端に一人の釣り人がいることに初めて気づきました。
「おや?お姉さんこんな夜中にどうかなさいましたか?」
「いえ。とくに。。。」
人との意思疎通が苦手な女性はうつむき、目線を外してそう答えました。
「お姉さんなんだか今にもいなくなりそうな雰囲気をしているね?」
「なぜそう思うのですか?」
釣り人は月明りで薄ぼんやりとした中、彼女の顔をまっすぐ見ながらこう答えました。
「体全体がひどく力が抜けている。。。いや、生気が抜けている感じがしてね。」
「そうですか。」
彼女は能面のような顔で興味なさげにつぶやきました。
そんな彼女の顔を見て釣り人は、こんなことを言いました。
「私も以前そんな顔をして、ひどく体から力が抜けた、生気がなくなっているような感じを知ってるんだ。」
ひどくかすれた声で、力なく途中言葉が届かないほど儚く女性はつぶやきました。
「釣り人さんも・・・ですか。」
なんとなく察した釣り人さんは彼女にこう返しました。
「ええ、そうです。」
どうやらお互いに通ずるものを感じ、女性のほうは能面のような表情から困惑したものへ、釣り人さんは得心がいったというような表情を浮かべました。
「お姉さん。道中の釣り人にあなたが抱えていることを話してみては、いかがでしょう?」
釣り人は落ち着いた優しいまなざしでそう提案しました。
彼女は困惑した表情をしばらく浮かべていたが、ふとこの人に聴いてほしいと感じ、釣り人さんに自分を苦しめていることについて話し始めました。
「すこし長い話になるかもしれませんが、大丈夫ですか。」
「大丈夫です。今夜は満月の下、お魚と気ままに会話を試みてただけだったので。お魚さんとは後日また話せます。お姉さんとの話のほうが最優先です。」
そういって、釣り人は折り畳みの椅子を差し出しました。
「使ってよいのですか?」
「ええ、もちろん。私はクーラーボックスに座りますし。」
お互い同じような視線の高さになり、そして、お姉さんは背もたれのある折り畳み椅子に深く腰掛け、大きく息を「ふぅ・・・」と吐き出してから、ぽつぽつと自信の軌跡を話し始めました。
まずはお姉さんの身に降りかかったことについて話し始めました。
とある事務所でアイドル活動をしていたが、同じマンションで隣に住んでいる先輩が枕営業を半ば強制で強いられていることに憤慨し、自身の心にある正義に従って、事務所に問いかけ、追求し改めやめるよう訴えたが受け入れてもらえなかったこと。
よく事務所に出入りし、多くの出資をして大きな権力を持った人による、度重なる嫌がらせやアイドル活動で予定していた企画がいきなり何本もキャンセルされたこと。
仕事帰りに暴漢に襲われ、同じ仕事帰りのサラリーマンに救われたが怖い思いをし、事務所に相談したが相手にしてもらえず、極めつけはボソッと『そのまま、襲われて続けてくれれば楽だったものを。。。』と言われたこと。
毎夜のごとく聴く隣の部屋の先輩の泣き声を聴き、何もできない自分への歯がゆさと悔しさに打ちひしがれていたこと。
そんな日々を過ごしていたある日、事務所の社長と大きな権力を持つ出資者がいる部屋に呼び出され、その場で出資者に接待するかアイドル業をやめるか選択肢を迫られ、どちらも拒否をしたら、翌日一本も仕事がなくなり、マネージャーもいなくなり実質アイドルを続けることができなくなったこと。
途中途中息が詰まりながら、お姉さんは打ち明けました。
「そして・・・そして!!先輩はある日部屋に帰らなくなり、音信不通となりました。」
「一生懸命探したんです!先輩と遊びに行った思い出の場所!一緒に行ったことのある旅先のホテルや観光地!漫画喫茶!思い当たるところはすべて!!でも、先輩はどこにもいなかったんです・・・。」
「警察にも相談し、彼女の両親とも連絡を取ろうとしました!でも、警察は積極的に動こうとしてくれない!事務所に事情を説明し彼女の両親と連絡を取ってもらう約束をしても、動いてくれている様子もなく、いつの間にか事務所と彼女の契約が破棄されていましたっっ。」
「徐々に減っていく貯金から、彼女の捜索を探偵事務所にも依頼し探してもらった!でも、彼女は見つけられず、貯金もすくなくなり、以前より高くなった電気ガス水道や社会保険料、年金も払えず、大量の請求書とともに、生活が苦しく、胸が締め付けられるような痛みを感じているとき、ふと海に行きたいと思ってここに来ました。」
お姉さんは胸を押さえ、嗚咽をあげながら顔を伏せました。
そして、波の音だけが聞こえる
「お姉さんも私と同じく片翼を失ったのですね。」
「片翼を失った?」
「ええ。私はお姉さんが今苦しんでいるのと似たような感覚を味わい、片翼を失ったのです。」
「・・・聴かせていただいてもいいですか?」
「いいでしょう。私に起こったことを、社会の理不尽にさらされ、片翼とも呼ぶべき親友を救えかった弱い男の話を。」
そして、釣り人は大きく息を吸い込み、『ふぅ。。。』と吐き出し、話し始めました。
幼い時から仲良く過ごしてきた親友がいたこと。
同じ小中高時代から同じ大学を経て、同じ就職先に勤めていたこと。
しかし、初めて違う勤務地となり、距離が離れたこと。
お互いが職場に週6日泊まり込み、家には一度洗濯をしに戻るだけの激務であったこと。
日々大きなストレスを共に抱えて、たまにある休みの日に一緒に飲みに行って愚痴を言い合うそんな日々が続いていたこと。
そんなある日、宅飲みをしていたとき、気持ちが昂った様子で親友が気になる事を言い出しました。
「俺さ、社長が気になることを女性社員に物陰で話していたのを偶然聞いちまったんだ。」
「詳しくは聴き取れなかったんだけど、『言うことをきけ!さもなくば、・・・目にあうぞ!』ってところだけはっきり聞こえたんだ。お前どう思う?」
私はアルコール度数が自慢のチューハイを一口ごくりと飲みこう答えた。
「それは、セクハラやパワハラというものでは?その言葉だけだとどんな内容かまではわからないけど、穏便な話ではないのは確かだね。」
アルコールが苦手な親友はソフトドリンクを一息に飲み、考えを述べた。
「あの社長いい噂きかないんだよ、社内外問わずいろんなところで権威をちらつかせて、威張ってるらしいんだ。それに加えて昨日の事だろ?威張るだけじゃなくてもっとひどいことをしてるんじゃないかと思ってるんだ。」
昔から正義感の強い親友は眉間にしわを寄せながら、続けてこう言いました。
「俺さ、言い寄られてた女性に声かけて何があった聴いてみようと思うんだ。」
私は嫌な予感がして親友を止めようとしました。
「やめといたほうがいいんじゃないか?お前昔そう言って首突っ込んでひどい目にあったじゃないか。」
親友は遠い目をしながらその時のことを振り返った。
「あの時は、泣いている同じクラスの女子の話を聴いて、隣の学校の男子に殴り込みかけて返り討ちにあったよなあ。懐かしいなあ。」
「だろ?やめとけって。」
「でも、話を聴きつけたお前も遅れてやってきて、二人で立ち向かって勝ち、その後、その男子から女子へ謝らせることができたじゃないか!」
「今回は子どもの喧嘩じゃないんだ。落ち着けって。」
親友は空になったソフトドリンクのコップをゴンッ!と置きこう宣言した。
「子どもの喧嘩じゃないけど、放っておけない!」
「はぁ・・・もう勝手にしろ。」
その日はそれで解散し、また激務の日々に戻った。
親友との飲み会から数週間たち、1通のメールが親友から届いていることに気づいた。
「なんだ?また飲み会の誘いか?」
激務で疲れて重い瞼を起こしながらメールを開いた。
「なになに?『明日会えないか?相談したいことがあるんだ。長くなるから会って話したい。』急な話だなぁ。明日はちょうど職場にたまった洗濯物を洗いに自宅に戻るし、洗濯終わったら会えるな。」
「わかった。13時以降なら時間が取れる。」
親友へメールを返信した。そして、すぐに返信が返ってきた。
「助かる!そしたら13時にお前の家に行く!」
相変わらず返信が早い親友のメールにほんの少し元気を分けてもらえた気がした。
「さあ、家に帰るためにも、いつ終わるかわからん仕事できるだけ片づけていくかぁ。」
そして、次の日いくら待っても親友は来なかった。
いくら電話やメールをしても反応がなく、いつもと違う様子にうろたえたが、携帯を壊したのだろうと、不安な気持ちをなんとか抑え、仕事場に向かった。
1週間後、親友の死を仕事場の連絡にて知った。
死因はアルコール中毒であった。
親友はアルコールを苦手で、家ではもちろん、飲み会の場でも飲まなかった。
「明らかにおかしい!」
そう思ったのは私だけではなかった、親友の両親もおかしいと思っていた。
だから、私は親友の両親とともに警察に向かった。
しかし、警察は自宅に大量の空のアルコールがあり、玄関のドアも締まっている状況から事故として処理をされ、捜査は行われなかった。
親友が相談したかったことが頭にずっと引っかかっていたため、社長の被害にあった女性を探してみたが、親友から詳しい容姿や所属を聴いていなかったため探し出すことはできなかった。
そして、そんな私に社長がある日声をかけてきた。
「やあ、最近こちらの事務所によく来ているそうじゃないか。」
「ええ、先日死んでしまった親友について、聴きたいことがあってきております。」
「君、そんな聴きまわってはみんなの仕事の邪魔になる、やめたまえ。」
「いえ、どうしても気になるのです。」
「ああ!それを口実に仕事をさぼりたいのだね!なんて怠惰な社員だ!探し続けるならそれ相応の措置を取らせてもらうから、今後気を付けたまえ。」
その日はその事務所を後にした。
しかし、どうしても納得がいかず、仕事の合間に聴き取りを続けていたある日直属の上司から呼び出された。
「君、明日から職場来なくていいよ。」
「は?なぜですか?」
「だって君、仕事ほっぽりだしてさぼってばかりじゃないか。クビだよクビ。」
そして、私は職と友人の残した言葉を探ることができなくなった。
私は権力がなく選択肢を奪われた弱い自分、理不尽な社会構造にはらわたが煮えくり返るような不満を抱き、そして、親友を失った喪失感を毎日繰り返し味わいながら過ごし精神を病み、生きる意欲がどんどん失われていった。
「私もまたお姉さんと同じく、親しい人がいなくなったのです。」
固唾をのんで聞いていたお姉さんは、狼狽しながら質問をしてきた。
「その社長の名前は『高松 つとむ』ではないですか?」
釣り人は目を見開き驚いた。
「どうしてその名前を?まさか、お姉さんにひどい選択を迫った出資者とは・・・。」
「ええ、その社長です。」
満月の夜の下、波の音だけが響き渡る中、しばらくたった後釣り人はこうお姉さんに提案した。
「私もお姉さんの先輩探しをさせていただけませんか。」
「ぜひよろしくお願いいたします。釣り人さんの先輩の死について共に調べましょう。」
お互いの目と身体に活力が戻っていき、椅子から立ち上がった。
「私の名前は『佐藤 ひとし』と申します。お姉さんの名前を聴いてもよろしいですか。」
「私の名前は『山本 ゆみ』です。」
二人は自然と握手をした。
この日を境に、雌雄の目や翼などが一つずつしかなくなってしまった鳥たちは、比翼連理の誓いかわし、共に夜空に羽ばたき、闇を切り裂くがごとく強く飛んでいくこととなる。
この後、お姉さんと釣り人はどのように先輩を探し、親友の死の真実を知り、理不尽な社会に立ち向かい、どんな結末を迎えるのか。。。
私、気になりますっ!!
高評価がとくになければ、このままこの作品は終わりにします。
続きが気になる方は高評価よろしくお願いします。