003手加減
こちらに向かってくる人影はよくみると汚い服を着た子どもだと分かった、そしてローラが先にその子どもを捕まえようとした時だった。
「ばーかっ!? 捕まるかよ、ブス!!」
「あらあらっ」
その次の瞬間には俺がそのガキを捕まえて壁に首元を押し付けていた、そうしてそのガキにこの世の理を学ばせるためによーく話した。
「いいか、くそガキ。この世にローラほど綺麗で美しくて可愛い女はいないんだ、これは世界の常識というやつでそれを守らん貴様は万死に値する」
「――――――ひぃ!?」
俺は第三王子だった頃もこうだった、ローラが何か馬鹿にされたら誰が相手だろうと復讐をした。だからローラの父親なんで密かに毛をむしってやってまるハゲだし、俺の近くに勤めていた無礼な使用人は、誰しもボコられ木に吊るされて一晩を迎えたなんてことがあった。俺の父親や兄弟だって例外じゃなくて、こっそり二、三日気持ち悪くなって寝込む毒を盛ってやったこともあるのだ。そんな俺のやることだから、こんなくそガキの一人くらい捕まえるのは簡単だった。
「分かったよ!! だから逃がしてくれ!! 三回目は腕の切断なんだ!?」
「ローラがいかに綺麗で美しくて可愛いのかがこんな短い時間で分かるか!? お前は街の警備隊に引き渡すぞ。ほらっ、ちょうどやってきた!!」
お金をスラれた男性はよほど走り回ったのだろう、何事かと街の警備隊がついて来ていた。俺はそのくそガキを引き渡し、財布の持ち主からお礼に銀貨一枚を貰ってしまった。その間、ローラは捕まったくそガキを可哀そうに見ていた。俺達の国でもスリへの刑罰は厳しかった、二回までは焼き印を入れられて、三回目は利き腕の切断となっていた。
「ぎゃああぁぁ――――!?」
この国もどうやらさほど法律は変わらないらしかった、くそガキの右手がその場で切断されて、くそガキは悲鳴を上げてのたうちまわった。その間、遠巻きに見物をしている街の人間もいた。俺はこのくそガキはどうでも良かったが、ローラが俺の背中にしがみついてくるので、仕方なく切られた右手の方を包帯で止血してやった。
「…………畜生!?」
利き腕がなくなってかなり失血もしたのにそのガキは、街の警備隊から解放されると元気良く逃げていった。ローラがそれを心配そうに見ていたが、街の掟だから仕方がないことだった。こっそりと俺が光の精霊に頼んで、切断された右手の切り口が早く治るようにしていたのは秘密だ。
「スリはとっても怖いですけど、スリをする側にも生活があるのですね」
「俺達だって金が無くなったらスラム行きだ、あのガキに再会するかもしれないな」
「腕の切り口から腐って死んでしまったりしませんか?」
「大丈夫、ダチに頼んでおいた。三日もしないうちに綺麗に治るよ」
「ラウルは優しいですね、良かった」
「いや、この場合。俺が優しいのはローラの為だ」
俺はローラが喜ぶんだったら父親や兄弟を殺して王になっても良かった、そしてローラを妃に迎え入れて安全な後宮で贅沢三昧させても良かった。そんな話を床を共にした時にしたことがあるが、ローラは笑ってそんな生活つまりませんよと言っていた。だから俺も親兄弟を殺したりしなかった、ローラの言うように国に影響を与えないように、レオパール王国の第三王子は焼死したことにした。俺はローラと一緒にいて幸せに暮らせるなら、その環境はどこでも良かったんだ。
「私の為ですか?」
なんて言ってローラは小首を傾げていたが、その意味が分かっていない所作もとても可愛らしかった。そうして俺達は夕食に露店でまた串焼きを食べていた、とにかく生活が安定するまでは節約しておかなくてはならなかった。そうして宿探しをすることになったのだが、俺は絶対に命令じゃないぞとローラに言って話をした。
「ローラが嫌じゃないのなら、ローラのことが抱けるような宿がいい」
「あらっ、それは嬉しいお申し出ですが、今はまだ駄目です」
「今はっていうと、いつかは良いのか?」
「そうですね、一軒家を借りて住めるようになったら、私は良いですよ」
「俺、明日からじゃかじゃか稼いでくる」
「それなら冒険者ギルドの身分証もとったほうがいいですね、魔物退治はとってもお金になるそうですよ」
それで今日のところは普通の二人部屋を借りた、とりあえず一週間分は借りたので銀貨三枚と銅貨五枚とられた。そして俺は冒険者に明日からなって、魔物退治をバリバリやるぞっと決心していた。だから公衆浴場でお風呂に入ると、ローラと一緒に手をつないで宿屋に帰った。そうしておやすみのあいさつをして早めに寝た。翌朝起きて朝食を食べたら、すぐに冒険者ギルドに行くことにした。
「俺は冒険者になるぞ、一軒家を借りて住めるように絶対する!!」
「あんまり目立ったら駄目ですよ、王子の顔を知る者がこの国にいるかもしれません」
「そうだな、今のところ派遣されてないようだけど、王家の影とか俺を知ってるな」
「ここは隣国ですし、あんまり目立たずに稼いで行きましょう。いざとなれば、また一緒に逃げましょうね」
俺はローラがまた俺と一緒に逃げてくれると言ったのが嬉しかった、ローラ自体は俺と一緒にいなかったら安全なのに、それでも一緒に逃げましょうと言われたのが本当に嬉しかった。そうしてローラと一緒に冒険者ギルドに行った、俺の冒険者の身分証をとるためだ。身分証をもらうには試験があって、体力試験、剣術試験、魔法試験の三つだった。
「なんだ、体力試験とは走るだけか」
俺は体を鍛えていたので走る試験でも負けなかったが、ローラから『手を抜いて』という合図がきたので真ん中くらいでゴールした。
「剣術試験はわら束を切るだけか」
これはどうも手加減のしようがなく、全力で真っ二つにしておいた。ふと横を見ると皆、上手く切れていなかったのでちょっと汗が出た、ローラからも『やりすぎ』と合図がきていた。
「魔法試験を受けるのは俺だけか?」
魔法は精霊と契約をしないと使えない、全く使えない無能ということにしても良かったが、それでは強い魔物を魔法で倒した時に言い訳ができなかった。世間のほとんどは無能と呼ばれる人々で、精霊と契約をして魔法が使える者は二割くらいしかいなかった。だから俺は七つの中から一つだけ選ぶことにした、散々悩んだが水の精霊に力を借りることにしたのだ。試験は十個の的を射抜くことだった、ローラからは『手加減』という合図がきていた。本当ならば十個の的を全部同時に射抜けるが、それはしてはいけないということだろう、俺は一個ずつ的を当てていって三、四個は外すつもりだった。
「それじゃ、一個ずつ当ててくか。”氷の槍”」
そうやって俺は氷の槍を六本当てて、四本は外した。思いっきり手を抜いたと思ったのに、ローラが頭を抱えて『やっちゃいましたね』と合図がきた。俺は思いっきり手加減したと思ったのに、どうやら他の人達にとっては違うようだった。俺は問題なく冒険者ギルドの身分証を手に入れた、それと同時に俺に複数のパーティの勧誘がきた。
「なっ、なんで!?」
「氷の槍を使ったからです」
とりあえずそれら勧誘を断った俺だったが、まだ何故氷の槍を使ったことの、一体どこが問題なのか分からなかった。ローラの説明によるとこうだった、水の精霊と契約している普通の魔法使いは水を使う、俺のように水を氷に変えれることを知らないのだった。俺はそれには気がつかなかったとうっかりミスを認めた、この世界にはまだ分子とかそういう科学の知識がないのだ。水の槍なんて水を高速で回し続けないと威力がでない、だから氷の槍を使ったのだが、その魔法を使ったのは俺が初めてというわけだった。
「王家の影に目をつけられるかな?」
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