07-憧憬
閲覧して下さりありがとうございます。
素人丸出しのハイファンタジー物ではありますが
生温かい目で見守って頂けると幸いです。
尚、更新は不定期(気が向いたら)となっております。
「__と言う事があったんです。
それからも祖父からは人生について色々と学びました。
この話を同僚にしたら真面目か!って笑われましたけど。
それでも、俺はこの生き方を変えるつもりは
無いんですよ。それが祖父母への恩返しなので」
そう。愛する祖父母は既にこの世には居ない。
親孝行したいと思っていた矢先…
真人が社会人として自立する前に、二人は
病気によって急逝してしまった。
社会人になって働き、救ってくれた事への
恩返しをするつもりであったが、それは叶わず。
ならば、とせめてもの手向けとして、祖父から受け継いだ
この矜持だけは貫いて生きていこうと心に決めたのだ。
「ふぅん…私には良く分からないな、その想い。
執着…?ううん、信仰…それも違うわね」
神様は机の上で微動だにしない。
あぁ…俺はまた、神様の不興を買ってしまったのか?
人間相手であれば、表情や僅かな仕草でおおまかな
感情が伝わるのだが…何せ相手は神様だ。勝手が違う。
「分からないけど…本当面白いね、君って存在は」
面白いと言われるとは思わなかった。
どうやら、怒っては…いないようだが、果たして。
基本、俺が祖父母の話を他人に話す事など滅多にはない。
話すと一様に『変な奴』とか『真面目過ぎ』と否定され
あまり良い印象を持たれないから。
俺が変人扱いされるのは一向に構わないが
祖父母の生き様を否定されるのだけは…腹が立つ。
だから、なるべく俺は過去の話をしない様にしている。
「だけどっ!これとそれは話が別なのよ!
さっきも言ったけど、ギフト無しでどうやって
アーレスティで生きていくのさ?」
「それは…まぁ、きっと何とか__」
「具体的には?何かアテがある訳でもない。
チキューとは全く違う、あの星で。
マサト。あなたはどうするって言うの?」
何も言葉が出ない。ぐうの音も出ない程の正論。
「はぁ…確かにね。アーレスティに生きるものの多くは
ギフト無しで生活してる方が大半だよ?
それだけギフトというのは特別なんだ。
でも、それはアーレスティの子だから成し得る事。
君は違うよね?元はチキューの子であり離魂だから。
私は…チキューがどんな世界か良く知らないけど
うちは何もせずに生きていけるほど優しくはないよ?」
それは分かってはいるし、理解もしている。
確かに、神様から提示されたギフトはどれも
男の子なら憧れる程、強力な力を秘めた物ばかりだった。
そりゃぁ俺だって、人並みに欲はあるさ。
剣に魔法、ファンタジーな世界に魔物、冒険譚…
地球に無いその力、全く興味が無いなんて言ったらウソだ。
__それでも。ダメなんだよ。
その力を手にしてもし、制御出来なくなったらと思うと。
あの父の様に、自分の為なら平気で他を犠牲にする
クズ人間になりそうで怖いんだ。
俺は祖父の様な立派な人間じゃない。
世界を変える程の力を前に、自分を律しきれる自信なんて…
「なぁんでそう深く考えちゃうのかな?
折角のギフト、しかも好きなのを選んでいいんだよ?
アーレスティの子は選べないし、滅多に貰えないのに」
__スパコーン!
右頬に感触こそ柔らかいが、激しい衝撃が走る。
慌てて振り返ると、そこにはハリセンが宙に浮いていた。
「君も一応男の子でしょ!何なのよもう!
あんまウジウジしてるともう一発…いくよ?」
紙製だったのか、衝撃の割に頬は全然痛く無かった。
いつもなら嫌だった神様のお仕置きだったけど
今回は…何だか嬉しかった。
誰かに背中を押してもらったような、不思議な感情が
心に満ちてくる。
「ん。少しはいい面構えになったじゃない」
「え…そんな酷い顔してました?俺」
「そりゃぁもう。まるでこの世の終わりみたいな
陰気臭い顔してたねっ!」
机の上でプルンプルンしてる神様。
紙ハリセンは神様なりの気遣いだったようだ。
次からは全てハリセンでお願いします。痛いのは嫌なんで。
「んとね。そろそろ話を戻そっか。
私はアーレスティへ君を送らなければいけない。
君という離魂をここへ引き寄せた時点で、それは
もう覆す事は出来ないのさ」
俺は椅子に座り、姿勢を正す。
神様がここまでお膳立てしてくれたからには
いつまでも情けない姿じゃいられないからな。
「君を送る目的は、私の目的でもあるんだよー。
そう。この世界…星の安定化だね。
アーレスティで起きている色々な問題を君に頼んで
スパッと解決して欲しかったんだけど…」
神様が指揮棒をパシン!と俺の方に向ける。
どっから出したん?それ。いつの間に。
「なのに君ときたら、ギフトは要らないとか
争い事は嫌いだとかとまぁ…
ワガママバリューセットだよ。はぁ。」
「…いや、流石に降りかかる火の粉ぐらいは
自分で振り払うつもりですし、目の前に助けを
求める人が居ればそれぐらいはしますって」
「その力すら無いのに?どうやって?」
「それは…はい」
俺はただ頷くしかなかった。反論の余地は無い。
これでは先の二の舞だ。永久ループしてしまう。
「ねぇ、君は…願ったよね?
『自由に生きてみたい』って。それはいいの。
でも…君はアーレスティで何をしたいんだい?」
『何をしたいの?』か。目的…俺は?そうだな。
全然そこに頭が回って無かったよ。
しかし、困ったな…良い答えが思い付かん。
今までは説明をひたすら受ける側だっただけに
どう答えるか迷ってしまう。
「したい事、ですか」
「そ。君がアーレスティに行ったらやってみたい事。
例えばそだねー…世界征服とか?」
ちょっと待って。例えが極端過ぎやしません!?
そんなのは〈魔王〉の役割でしょ!
「わっはっはー。冗談だよ君。本当面白いねぇ」
「神様が言うと冗談に聞こえないんですよ…」
心臓に悪いから本当止めて欲しいです。ハイ。
寿命が十年縮んだ気がする…あ。もう死んでたな。
「それでそれで?君の願いは何だい?」
ウリウリウリーと指揮棒でおでこを捻る神様。
…ってかおでこ好きなのか?フェチなのか?
痛くないからまぁいいけどさぁ。
ふぅ。何だか逆に冷静になってきたわ…
やりたい事か。神様も難題をふっかけて下さるものだ。
祖父母への恩返しはアーレスティでの生涯を終えたら
ゆっくりすればいいだろう。
地球とこちらであの世が違うとかなければいいけど。
__アーレスティ
最初に神様が見せてくれた小さな星はとても綺麗だった。
地球とは様相が大分違うが、大きな大陸や島、それらを
包み込む透き通るような大海原。
大地は様々な色で色彩豊かで目を奪われた。
神様は問題だらけの星だと言ってはいたが
自分にはとても…そうとは思えない。
__行ってみたい。そこが、どんな所なのか知りたい。
小さい頃、毎週末には決まって近場の遊び場に
連れて行って貰ったっけ。
専ら、近所の公園や地域の集会所、はたまた田んぼと
都会の遊園地みたいな派手さは全くなかったが…
それでも、俺にとってはちょっとした冒険で。
モジャモジャした黒い虫、立派な角を持った昆虫。
果ては、不法投棄された、田舎には無い家電まで。
同じ場所であろうと、決して飽きる事は無かった。
新しい場所へ行くと、常に新しい発見がそこにはある。
そんな、他人からすれば馬鹿らしい事でも
俺にとっては、忘れられない出来事ばかりで。
自分の知らない物事を祖父に聞いてばかりだったな。
__知らない事を知る楽しさ。
__それが理解出来た時の喜び。
__止まらない、未知への好奇心。
そっか。そうだな__俺は。
「神様」
「何だいバリューセット君?」
「…まずはその棒でグニグニするのを止めて貰えますか?
後、俺はバリューセット君ではありませんので」
シュボッと音がしたと同時に指揮棒が消え失せた。
タライといいチョークといいどこに収納しているのだろう?
もはや何でもありか。魔法って…凄いな。
「おー。軽口叩ける程には正気を取り戻したかな?少年。
その様子からみるに、やりたい事は決まったのかい?」
「ええ、おかげさまで」
「じゃあ早速聞かせてよ。君の願いを」
スゥ…ハァ…
気持ちを静める為に深呼吸。
「神様。俺は旅行がしたいです」