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54-カルシエの希望

閲覧して下さりありがとうございます。


素人丸出しのハイファンタジー物ではありますが


生温かい目で見守って頂けると幸いです。




尚、更新は不定期(気が向いたら)となっております。


「あの堅物め、早まりおってからに……」


カルシエ領主邸、執務室。


ここを治める男、エドワルドは窓の外から見える

中庭の花壇で花を愛でる愛娘を見て呟いた。



__昨日、執事から届いた報告書の数々。


机の上に置かれた、国内外の情勢を綴られたそれらは

いつもなら軽く目を通して、承認印を押すだけの

彼にとってはごくごく普通の日常であった。



__あの日の夜。


突然、男の元に届けられた至急伝。

男にとって戦友とも言えるガーノックが記し

遠い東門からここまで、兵士が早馬を必死に駈けて

繋げてくれた、国の大事を伝える一通の封書。


帝国との開戦を覚悟したが、内容は実に判断が

つけられない、奇妙な内容であった。



真紅の衣を纏いし、マサトと名乗る謎の男。

あの剣聖ガーノックをして、怯えさせる程の人物。

そして、一番の気掛かりな謎の物体。


いつ、帝国との戦端が開かれるか分からない今

そこに新たな不確定要素が加わり、エドワルドは悩んだ。


深慮に深慮を重ね、エドワルドは男に会うことを決意した。

戦友に、領主邸へその者を連れてくる様に命じた

命令書と、それに必要な書類にサインをし、届けたのだ。



事が起きたのは、その翌日であった。



__ガーノックが、倒れたとの凶報。



最初は、何かの間違いではないのか?と疑ったのだが

その一部始終を見届けた兵士は複数人いる。

報告書の真偽に疑いの余地は無かった。



よれば、ガーノックが男を詰所に呼び出し詰問。

その後、兵士が稽古に使う鍛練場にて、マサトなる男と

ガーノックがなんと、一対一での勝負をしたという。


私の出した命令書にはその様な指示は無かった。

これは、ガーノックの独断によるもの。

私への忠誠心の高さ故に下した、彼自身の決断だろう。

今思えば、彼の心境をもっと酌むべきであった。

そうすれば、こんな行き違いは起きなかったであろう。



勝負でガーノックは戦場で使う戦装束一式を纏い

剣も訓練用の剣ではなく、真剣。

対するマサトは何と、武器を持たず無手であったという。


普通であれば、これは勝負等ではない。

強者による、一方的な殺戮行為である。

いくら鎧を付けていても無手、そして完全武装の

剣聖ガーノック相手では勝負にならないはず。



だが、現実は全く別の物となった。


序盤こそ、その才を遺憾なく発揮し、マサトを追い込んだ

ガーノックであったが、なんと男は、無手で鎧を打ち据え

数発目に打ち込んだ拳で、あの鎧ごとガーノックを

空に打ち上げ吹き飛ばし、打ちのめしたのだと。


俄かには信じられないが、他の兵士から同様の報告書が

エドワルドの元に次々と届けられていた。



「……それで、彼の容態は?」


そこが定位置かと言わんばかりに、ドアの横に立つ

執事にエドワルドは問う。



「辛うじて命は取り留めましたが、かなりの重体との事。

 治療に当たった者の話ですと、外傷は殆ど無いものの

 何らかによる臓腑への損傷、鎖骨の骨折。

 ……意識もまだ戻らず、絶対安静という話でした」



今でも信じがたいが、マサトなる男は、我が領における

英雄とも言われたガーノックを無手で倒した。

戦いの経緯こそ、報告書にバラつきがあるが

壮絶な戦いであったのは間違いない。


報告書の端々には、共通した一つの単語が。



___『鮮血の狂戦士』



唯一、正気を保った者の報告書によれば

戦いの最中、幾度も傷を負いながらも男は楽しそうに

笑い続け、最後には意識の無いガーノックを

瓦礫の中から片手で引きずりだし、トドメを刺そうとした。


その、血で染まった頭と鎧の風貌から付いた名がこれだ。

文面を信ずるのであれば、そう呼ばれても

確かにおかしくはない程に異常過ぎる。



「…何はともあれ、死なせずに済んで安心したぞ。

 よいか、どんな犠牲を払ってもよい。

 決してあの馬鹿…ガーノックを死なせるな」


ガーノックはここカルシエの守護神であり英雄的存在。

この情勢の中、今彼を失うのは開戦の良い契機を

帝国に与えかねない。



その容態では暫く…いや、恐らく。

彼が戦場に返り咲くのは難しいかもしれない。

だが、生きてさえいれば、カルシエの希望は消えない。

民達に不安を与えてはならないのだ。



「__御意のままに。して、かの者(・・・)への対応は

 どの様になさるおつもりで?」


「変わらん。どちらにせよ一度は会わねばならぬ。

 ガーノックの件についても誤解を解かねばな。

 して、男の消息は掴めたのか?」


「…いえ。ガーノック殿を医務室まで運んだ後

 兵士の数人が鍛練場に戻った所、姿は既に無く

 そこには男の血糊だけがあった、とだけしか。


 ただ、この一件の前、男を詰所へ案内した兵士2人が

 カール商会から出てくる所を見たそうです。

 そこで男を改め、詰所へと誘導したのだとか。

 今も何人か、草を放っておりますが、未だ何も

 掴めてはおりませぬ」


「…カール商会か」



__カール商会。


メンデリン商業連合に本店を置くその店は

この大陸では名の知れた、商人であれば誰もが知る

大店の一つである。


取り扱うのは武器防具に装飾品、カルシエでは珍しい

香辛料とその取り扱う品目は多岐に渡る。

しかし、この商会にはもう一つの顔があった。


大陸中の主要都市に展開している商会独自の連絡網で

世界中のありとあらゆる情報をやりとりし

各地の需給を常に把握、販売し多大な富を産み出している。

もちろん、その情報自体も商品の1つだ。


その練達さは、ここシュルツ王国の暗部に匹敵する。

周囲を険しい山地に囲まれ、これを天然の要塞とし

必要最低限の武力のみで中立を保てているのも

これがあるからこそである。



(マサトなる者がかの国の諜報、と言う者もおるが

 かの者は恐らく、そんなものではあるまい)



先程、ガーノックの知らせを受け、臨時に開いた会合。

家臣の多くがマサトを討つべし、と怒りに燃え、紛糾した。


結論は既に決まっていたが、家臣の意見を一通り聞き

強権を持って、彼に接触し話し合いの場を持つ事で

議題は決裁され、その場は解散となった。



(全く呆れたものよの。ガーノック程の豪傑を無手で倒し

 その身体を片手で(・・・)持ち上げた、などという化物を

 一体、この国の誰が討てるというのか)



報告書を上げた兵士達にも一対一の聞き取りを行った。

だが、彼等は要点のみを話し、詳細については

全員がその口を固く閉ざし、一切話す事は無い。


よほど、その時の事が衝撃的だったのだろう。

中には、聞き取りの最中に気絶する者までいた。

まともに話しを聞き取れたのは1人しかいなかった。



「カール商会に先触れを出せ。

 その後、改めて使いを出し書簡を持たせる。

 ただし、どちらも一切の武具の携行を禁ずる。

 厳命だ。背いた場合は死罪もある、そう伝えよ。

 …人選にはくれぐれも留意せよ。最小限でな」


「では、直ちにとりかかる事に致しましょう。

 私はこれにて。御前、失礼致します」



パタンッ



執務室のドアが閉まり、部屋にはエドワルド1人。

再び窓から外に目を移すと、変わらずにいる

愛娘の姿がそこにあった。



(ここに来てもう15年か。妻も亡くし、残るは民と

 愛しき娘…何としても守らねばな)



戦火燻るここ、辺境の地において咲く一輪の花を

眺めながら、エドワルドは心を引き締めるのであった。


今回もお読み頂きありがとう御座います。


のんびりペースで話は続きますが

それでも良ければ今後ともご贔屓に。


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