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『連続殺人事件と護衛』④

 「私、アーリャみたいに自分と歳の近い友達がいたことなかったの……城の中で育ったから」


 「……子どもの時からずっと?」


 「ええ。城の外の世界を見られたのは、十六歳から公務に出た時くらいで……後は本や新聞、司祭達からのお話くらいだったの……最近までは」


 「そうなんだ……」


 聖女とは建国の神であり花の女神ウィステリアの生まれ変わりと謳われ、国の将来を統べる貴重な存在。

 普通の子どものように自由に外で遊んで学んだり、同い年くらいの友人を作ったりする事は通常不可能だろう。

 聖女という立場や国の安寧を鑑みれば、やむを得ない事だと、未だ少年のアレクセイでも理解できる。

 それでも、タチアナの境遇を知ったアレクセイの胸は、潮騒のようなざわめきを奏でる。

 自分とは正反対であるはずのタチアナの抱える"不自由"に対して、形容し難い親近感を覚えているのだ。


 「そういえば、タチアナは知っている? 最近町で起きている連続事件のこと……」


 耳朶の奥から鳴り響くさざめき、微妙な沈黙から気を逸らすように、アレクセイは何となく話題を変えてみた。

 いざ口に出してから初めて、物騒な事件を話題に出してよかったのか、と内心焦った。

 反面、アレクセイ自身も聖女がこの惨憺(さんたん)たる事件について、どこまで把握しているのかは気になった。


 「ええ……知っているわ……新聞と司祭達のお話でしか知らないけれど……本当に残念で悲しい事件です……」


 事件の話題を耳にしたタチアナは、太陽みたいに明るかった表情を曇らせながら、被害者達について語ってくれた。


 「キャラウェイ医師は、町医者の中でも特に温厚でどの患者さんとも一生懸命向き合う方だったわ……そのご家族の奥様も優しくて、息子さんは将来父親みたいな医師になると勉強熱心な子どもだったのに……っ」


 「……それで、他の二人はどうだったの?」


 「ナルキッソス様は、この国と民の生活を豊かにするために、外国からも様々な物を仕入れてくださいました……ベビーブレス様は聞いた話ですが、童話作家として尽力しながらも、いつも家族と幸せそうに笑っていた方だそうです」


 タチアナは人伝で知っただけとは言っていたが、事件資料や新聞の文字を読むだけでは感じ取れなかった被害者達の容貌を知れた気がする。

 タチアナ自身も聖女として、より多くの民の姿を知っておきたいという想いや、彼らを悼む心がそうさせたのだろう。

 ただの呑気な女性かと思えば、彼女なり聖女らしい役割を果たしているつもりなのだろう。

 タチアナの視点から感じ取れた被害者の"共通点"、そして今後の調査次第で発見しうる"相違点"は鍵になるはずだ。


 「アーリャも関心があるのね? この事件に……」


 「いえ、僕は別に……申し訳ありません……こんな話題を出してしまって……」


 「いいえ……むしろ私は嬉しかったわ……やはり他の司祭達は訊いたら教えてはくれるけれど、それ以上は……」


 「きっと彼らも、聖女であるタチアナをあまり不安にさせたくないんだろうね」


 アレクセイのもっともな言葉に、タチアナも痛いほど理解している眼差しで、苦笑を浮かべた。

 それから決意を宿した様なエメラルドの瞳でアレクセイを見つめ返した。


 「本当は私……どうしても知りたいし、知らないままでいたくないの」


 「そうですよね……」


 「できれば、何とか"救える"手伝いがしたいの……」


 「そうですか……」


 誰かを救うこと――。


 それは言葉にするよりもずっと難しいことだ。

 

 それこそ"選ばれし者"でない限り。


 聖女は人の心に寄り添い、神へ祈ることはできる。

 剣士である自分は悪を挫き、弱きを守ることはできる。

 しかし、亡き人間を蘇らせることもできなければ、遺されし者の悲嘆を拭い去ることもできない。

ましてや、悪に落ちた魂とその罪に対して、他者には何の術もない。


 「何故、彼らは"死ななければならなかったのか"……どうして、犯人はそんなことをしなければならなかったのか……」


 「……」


 タチアナの切なる願いと嘆きへ静かに耳を傾けていたアレクセイは、ハッとした眼差しで息を呑んだ。

 特に最後に紡がれた台詞に、アレクセイは形容し難い既視感にも見舞われた。



 「アーリャ、お願いがあるの」



 あなたにしか手伝えない事なの。


 戸惑うアレクセイを他所に、タチアナは真剣な眼差しで懇願してきた。

 互いの立場上、タチアナの命令には原則従わなければならない事は、アレクセイも重々承知しているつもりだった。


 しかし、タチアナが最後に告げた言葉は、アレクセイの想像を遥かに上回るものだった。


 ***



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