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第二話『連続殺人事件と護衛』①

 四月四日――キャラウェイ一家殺人事件。

 自宅である屋敷内にて、内科医のニック・キャラウェイ氏、並びにその妻と後取り息子、飼い猫。

 彼らの遺体は、寝台の上で毛布に覆われた状態で発見された。

 死因は共通して、頸動脈裂傷による失血死。


 四月八日――ナルキッソス一家殺人事件。

 貿易商のジャック・ナルキッソスは、かかりつけ医による診察帰りに夜道で左胸を刺された。

 間も無い時刻には、自宅で主人の帰りを待ち侘びていた夫人と一人娘までもがナイフで額を貫かれていた。


 そして昨日、四月十四日――ベビーブレス一家惨殺という三度目の事件は起きた。



 「ああ、おいたわしや。まさか、我が女神様の下で、この様な残酷非道な行いを為さるとは――」



 資産家のグレゴリー・ベビーブレスは頸動脈を裂かれ、妻は左胸を刺され、息子は額を貫かれて死んだ。

 唯一寝室にいた娘は、眠っている間に絞殺された。

 小さな飼い犬は投げ飛ばされた拍子に亡くなったらしく、周りにはガラス花瓶の破片が散らばっていた。

 食卓には豪勢な料理皿や開封されたワインボトル、食べかけのホールケーキが並べられ、床には包装紙が散らばっていたことから――彼らは誕生日パーティーという最も幸せな家族団らんの夜に惨殺された。

 この行為が残酷だと断罪されるのならば、間違いなく"僕"もまたそんな人間の一人かもしれない。



 彼らに共通するのは"即死"――つまり"長く苦しまずに死ねている"点だ、と思っている。



 『和花道連続殺人事件』の資料を読んでいた"少年"は、遣わされた警備部司祭の呟きを耳にしながら自嘲した。



 「それで……僕に白羽の矢が立ったというわけか……」



 無気力な口調で呟いた少年は、二人の司祭に案内され、国教会の廊下を歩いていく。

 ウィステリアには"国教会"と"町教会"が存在し、信者の役割も立場も多岐に渡る。

 町教会は区域ごとに町と民の精神的な平穏を守り、管理者である"牧師"が信者である"僧侶"をまとめる。

 国教会では、最高位責任者の枢機卿の下、祭事・警備・医療・総務ごとに部署が分かれ、司教は司祭を率いて共に役目を果たす。

 少年もまた枢機卿と上官司教の命令に基づき、国の最高位の存在たる聖女の専属護衛役を担うことになった。


 「それにしたって、何故わざわざ僕が"聖女様"の護衛に付く必要があるんだろう……」


 決して嫌味や不満からではなく、純粋な疑問としての呟きだった。

 ウィステリア聖王に次いで高位の人間である聖女は、聖域と呼ばれる街から隔絶された城の内部で厳重に守られている。

 しかも、聖女アナスタシアは幼少期から体が弱く、ほとんど外に出たことがないというのなら、尚の事大切に守られてきたはずだ。

 そんな聖女が何故今更、城内とは無縁な世間の連続殺人事件を契機に、自分一人の専属護衛を、わざわざ付ける必要があるのか。


 「貴方様が今後護衛していただくのは、アナスタシア様ではありません」


 一方少年の口を慎まない言動を咎めることなく、片方は彼の部下でもある司祭エメーリャは簡潔な答えを述べてきた。

 しかし、少年が言葉の意味を理解するまでに数秒を要している間に、目的地へ辿り着いた。


 「こちらにございます」


 少年が案内されたのは、城の中で三番目に高い場所に位置する"小さな花の聖域"――透明に煌めく巨大な水晶の扉だった。


 「こちらが鍵になりますので、一つは貴方様に差し上げます。決して失くしたりなさらぬように」


 黄金に小さな水晶の装飾を施された立派な鍵を手渡される。

 少年は迷いない動作で鍵を扉へ差し込んでから回す。

 カチリッと開錠された音が鳴り響いてから、重厚な扉を押し開いていく。



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