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『聖なる藤の花と青空』③


 「やあやあ、タチアナ。元気になったようで、安心したよ。勉強は励んでいるかね?」


 「叔父様っ!?」



 気まずいのに不思議と安心もする空気の中、タチアナの叔父・ドミトリーの陽気な声が不意に割り込んできた。

 突然の叔父の登場にタチアナは驚きながらも内心救われた気持ちになり、アレクセイは上官である叔父へ礼儀正しく敬礼をする。


 「ああ、そんな硬くならなくていいんだよ、アーリャ。君はもう僕にとっては"未来の息子"みたいなもの同然だからね」



 え――今なんて――?



 「そんな……僕としては心から嬉しくも畏れ多いですよ、ドミトリー様」


 「はっはっは。そう言ってくれると嬉しいが、畏まることはないんだよ。君の様に敬虔深く、武勇と知力にも秀でた男なら、安心して我が大切な姪を任せられるものだ」



 え――話がよく見えないのだけれど――。



 自分を他所に楽しげに言葉を交わすドミトリーとアレクセイの様子に、タチアナは内心混乱すると同時に嫌な予感に駆られていく。


 「あの、叔父様?」


 「ああ、タチアナも安心して、この私に任せなさい」


 ま、まさか。


 


 「タチアナの"婚約者"としてアレクセイ君を立候補に挙げるよう、私からも兄上に進言してやるからな――!!」




 ドミトリーの言葉を字義通りに理解してから、その意味を咀嚼しきるまでには、タチアナの中で時間

を要した。



 「――と、いうわけですので――今後ともよろしく、"聖女様"」



 凍りついた花のように呆けるタチアナの肩に手を置きながら、アレクセイが愉しげに微笑んだ瞬間――。





 「やだーー!!」


 「ちょっと、何、子どもみたいに喚いていますか。さっ、勉強を再開しましょう」


 「やだっ。離してってば」


 駄々を捏ねる幼子さながら喚くタチアナを、アレクセイは引きずる様に手を引いていく。

 しかも、タチアナの手が痛まない絶妙な力加減かつ振り解けない器用さで。



 「聖王様にも"僕達"のことを認められたいでしょう? ならば、それに相応しい聖女様になるべく、勉学と研鑽へ共に励みましょう」



 猫を被った爽やかな笑みを浮かべながら、ゾッとする言葉を述べてきたアレクセイに、タチアナは顔面蒼白になる。


 「た、助けてっ。叔父様」


 「はっはっは。二人は本当にそこまで打ち解けて、仲が良くて良いぞ!」


 「そんなっ」



 断じて違いますのに――!



 この瞬間、聖女であるタチアナは聖女らしからず、得体の知れない邪な僧侶・イヴァンに救いを求めてやまなかったのであった。




 今日も聖なるウィステリア国は平和である。





 ***


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