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『神は救わず”死”を与える』
ああ、何故なのでしょう。
何故、神は我等を救ってくださらないのでしょう。
何故、人には"死"が憑き纏うのでしょう。
何故、私の愛する伴侶は、左胸から血を流しているのでしょう。
何故、私の愛する飼い犬は、ガラスの破片まみれになっているのでしょう。
何故、私の愛する息子は、頭に刃が突き刺さったまま、変な笑みを浮かべているのでしょう。
何故、私の愛する娘は、穴から液体を垂れ流しながら、手足を痙攣させているのか。
何故、私は――。
「どうか、安らかに――」
祈りの囁きが響いたと同時だった。
首から下を駆け巡る氷の戦慄に、手足は魚の様に揺らぐ。
炎に濡れていくような感触と匂いに、心だけがのたうち回る。
血を叫ぶような悲嘆、業火のごとき憎悪を残して。
やがて、血腥い沼底へ引き摺り込まれていく――。
ああ、何故――神は私達へ"死"を与えたのですか。
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