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『救済の花は血に染まる』③


 「"あの夜"……見回りを装って店のブレーカーを密かに落とし……暗闇で背後からカテリーナを刺し貫き……最後に窓ガラスを割って、逃げた犯人を追いかけるように装っていた人物……つまり、あなたです――」





 エメーリャ・オーキド――。




 アレクセイが真犯人の名前を紡ぎ、氷の沈黙が流れた刹那の後。

 黒い人影が外套を脱ぎ捨て、覆い隠していた素顔をようやく月明かりの下へ晒した。




 「――よく、私だと気付かれましたね。さすがアレクセイ様です。彼のドミトリー様が認めるだけのことはありますね。全てあなた様の言う通りで間違いません」



 エメーリャと呼ばれた青年の姿に見覚えがあるタチアナは、悲鳴を必死に呑み込んだ。

 エメーリャは警備司祭の一人であり、夜のアザレアにてアレクセイと共にカテリーナの護衛に付いていた。

 交代制で聖域の扉の外の門番も担っていたため、タチアナも言葉を交わしたことがある。

 既に予想はついていたからか、アレクセイは冷然としたまま問いかける。


 「随分あっさりと罪を認めるんだね……ならば、教えてくれるんだろうね? "殺した理由"について」


 タチアナ自身も気がかりだった殺人の"動機"について、遂に明らかになるのだ。

 被害者達の素性からは、怨恨の線はあまり考えられない。

 理不尽な無差別殺人にしては、被害者の選択に規則性がある。


 「調べてみた所、君と被害者達とは、訪問司という繋がり以外何もなかったみたいだし」


 「そうですね」


 「ならば、ルピナス賞を授与されるような恵まれた彼らに対する嫉妬や羨望かい?」


 「ふっ」


 あらゆる可能性を示唆するアレクセイの意見に、エメーリャは呆れを含めて冷笑を零した。



 「私の行いは、そのようにくだらない感情に由るものではありません。確固たる信念に則ったものなのですよ」


 「へぇ、それは何なのかな」


 「私の"使命"の崇高さを理解していただくには、私の全てをお話しする必要がありますが……簡潔に言うのであれば――」





 人が"幸せ"の中で生を終える手伝いをするためです――。





 タチアナにとっても衝撃的で不可解な動機を耳にした後。


 己の歪んだ価値観と使命感に従って殺人を犯したエメーリャは静かに告白した。



 彼が"聖なる罪人"に至るまでの軌跡を――。




 *


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