『空色の少年』⑧
「私に任せてください、叔父様。私、アレクセイと"お友達"になりますから」
朗らかな笑顔で答えたタチアナに、叔父も胸を撫で下ろした表情で微笑んでいた――最中。
「お話中に失礼致します。ドミトリー様、タチアナ様」
聖域の扉が開いた直後、アレクセイと共に二人の司祭が恭しく入室した。
二人はドミトリーに用があるらしく、うち一人が彼へ耳打ちしてきた。
剣呑な様子から何かしら良くない事が起きたのだ、とタチアナも薄々理解した。
報告を耳にしたドミトリーも「何だと――」、と衝撃を受けている様子だった。
「どうかされましたか、叔父様」
「っ……いや、それが……っ」
ドミトリーを案じるように問うタチアナに、彼は動揺と躊躇を示す。
「……失礼ですが、ドミトリー様……いずれはタチアナ様の耳にも入るかと……」
しかし、ドミトリーの迷いを取り払ったのは意外にもアレクセイだった。
アレクセイの出過ぎているとも思える進言に、ドミトリーは気を悪くすることはなかった。
こちらへ向き合ったドミトリー、彼の眼差しに射抜かれたタチアナは互いに固唾を呑んだ。
「先程、ウィステリア病院から連絡が入ったんだ――」
"アザレア"の花が散ってしまった。
一縷の希望を容易く切り落とし、それを掬ったはずの私達を嘲笑うように残酷な事実。
皆の脳裏には二度と聴くことの叶わない、アザレアの歌声が流れていた。
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