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第五話『空色の少年』①


 これから二人で逃げよう。


 そしたら、もう離れなくていいかな?


 うん、ずっと一緒にいられるんだ。


 じゃあ、二人で行こう。


 私達は互いに違うのに、とてもよく似ていた。


 異なる場所で生まれたのに、同じ心を持っていた。


 異なる体を持つからこそ、私達は綺麗にはまっていた。


 君は太陽のように眩くて、次のように煌めいていた。


 君は花のように儚げで、茎のように逞しかった。


 私達にとって互いが“初めて”で“全て”になった。


 だから、もう離れるなんて、考えるだけで身を引き裂かれそうになる。



 だから、私達は決めた――ずっと二人で一緒にいるために。



 けれど、あの頃の私達は、本当に純真で愚かでもあった。



 二人で決めたことが、"永遠の離別"を手繰り寄せてしまうなんて――。



 *



 「いつまで寝ているの。"非行の聖女様"」



 二日後の朝。

 水晶越しに注ぎ輝く太陽の光の下、彩りの花々が咲き舞う聖域にて。

 淡い藤色のカーテン越しに寝台へ向かって、少年は声をかける。

 しかし、寝台からは何の返答もなく、頭から羽毛布団を被った少女は微動だにしない。

 いくら声をかけても、目覚める気配を見せない少女に業を煮やした少年は溜息を吐いた。



 「カテリーナ・ロードデンドロンのことだけれど」



 アザレアストリートの歌姫の名を告げた瞬間、殻に篭っていた少女は秒で起き上がった。

 やはり無理やり布団を剥がすよりも、事件の情報を提供するほうが手っ取り早かった。


 「カテリーナ様は無事なの!?」


 「彼女は生きているよ……今朝、目を覚ましたらしい」


 「よかった……っ」


 アザレアで背中を刺されたカテリーナは、現在国立総合病院で入院しており、厳重な警備も付いている。

 不幸中の幸いか、ナイフは急所から逸れており、出血はあったが、処置が早かったため命に別状はなかった。

 さらに事件当日の夜、カテリーナの帰りを待っていた夫と一人娘のいる自宅近辺でも不審者らしき発見情報もあった。


 それも見越していたアレクセイは、カテリーナの自宅近辺にも警察を数人配備させていたらしい。

 アザレアストリート内で事件が起き、カテリーナとその家族が標的にされていたことを知り、アレクセイの中で確信は生まれた。


 「それでは事件の"共通点"は……『ルピナス賞』と『和花の街』ってことなの……?」


 「正直未だハッキリしていない事が多いけれど……カテリーナの事件はそれを強く裏付けていると思うんだ」


 アレクセイは独自調査から見えてきた事件の手がかりについて、タチアナへ静かに説明してくれた。


 事件の被害者である三家の当主とカテリーナの四人は、共に『ルピナス賞』の受賞者だった。

 キャラウェイ氏は医療分野、ナルキッソス氏は貿易経済分野、ベビーブレスは慈善福祉分野、カテリーナは観光分野で、ウィステリアの街に貢献した実績を認められている。

 しかし、ルピナス賞を授与された人間は他にも多い中、何故彼ら四人が狙われたのかは、未だ明確ではない。


 そんな中、アレクセイは彼らのもう一つの共通点から、ある仮説を閃いた。


 「どうして、次に狙われるのはカテリーナ様だと分かったの?」


 「正直、論理的な根拠はなかったけれど……最初に狙われた三家の住居である三つの街は互いに隣接していた……」


 アレクセイは資料の内、中央ウィステリア近辺を描いた地図を指差す。

 最初にクリサンセマムストリート、次にチェリーストリート、その次にプラムストリート、と順番に連なっている。

 事件の起きた街には和の花の名前が付いており、異邦人の出入りや異文化の発展が盛んなのが特徴だ。


 「だから次に事件が起きるとしたら、プラムストリートの東隣のアザレアストリートと仮定し、しかもそこに住むルピナス賞の受賞者はカテリーナ・ロードデンドロンのみだ」


 「それでカテリーナ様の護衛をしていたのね」


 「そういうことさ。彼女、予定していたライブを中止にしないと言って聞かなかったからさ」


 四番目の標的を絞れたアレクセイは、早速カテリーナの護衛に付き、警察にも彼女の近辺と自宅にいる家族を警備するように命じた。


 結果、アレクセイの仮説は見事に的中した。


 カテリーナは襲われたが命に別状はなく、今も彼女の家族共に病院内と指定の宿泊所で護衛と警備を継続している。



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