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25.可愛い仲間

いやー、お久しぶりです。

約一年ぶりの投稿です。

本日は三話更新しますので、どうぞご覧ください。

「なに、この美少女」

 開口一番がそれか、とエルの言葉に全員が思ったが、その内容には全員が賛同した。

 ほっそりとした体つきは栄養不足の名残があったが、すんなりと伸びた手足は無駄のない若木のようで、埋もれるように着ていた服は、大きさは依然として合わないもののそれに沿うような体型になっていた。

 麦穂色だった髪は、艶を増して金色を帯びた髪色になっており、透き通るような白磁の肌は、頬に薄っすらと赤みが差して健康的だった。

 そして、幼さの抜けた面差しは、名匠が作ったような美しい配置をしていて、厚い金のまつ毛に縁どられた青い瞳に、誰もが引き込まれるようだった。

「えっと、あの、ど、どうされたんですか?」

 声も幾分落ち着いたものになったが、間違いなくリーナの声で、リーナの話し方だった。

「色彩は違うが、母君のエルマ様に生き写しだ。春の女神が目を覚ましたかと思った」

 リーナを抱えて固まるカイルを押しのけ、エアハルトがリーナを支えながらその手を取って、歯が浮くような寝言を言う。さすが、神速の剣技と中央に浮名を流すエアハルトらしい素早い対応に、エルが横からエアハルトを蹴ってリーナから遠ざけた。

「はい、ここから一歩も近付かないで!」

 ザーッと足で地面に線を引き、その後ろにリーナを抱えて下がると、エルは茫然とする男性陣を遠ざけた。ジークは線の内側に残ってしまったが、「こんなに大きくなって」と何故か親戚の小父さんのようなことを言っているので安全圏だと判断された。

 折り返して履いていたズボンは、ふくらはぎが見えそうになっていたので慌てて下ろし、日差しが嫌いなアルノーが纏っていたケープをはぎ取ると、エルはリーナの頭からそのケープを被せた。「見ても減る訳ではないだろう」という不満顔のエアハルトに、「減る! ごっそり持ってかれる! 特にあんた!」と言って、エルは威嚇する。

「あの、エルさん。これはどういうことでしょうか」

 いまいち状況を把握していないリーナが、困惑の声を上げて抱き着くエルを見上げる。

「リーナ、あなた今、外見が変わってるの、分かる?」

「え? あ、あれ?」

 言われるままリーナは自分を見返し、いつもよりも目線の高い風景や、先ほどまでぶかぶかして捲り上げていた裾や袖が、ほとんど折り返しが必要ないことに気付く。服を変えてもらったのでなければ、自分の体が大きくなったのだと理解した。

「わたし、いったいどうしてしまったのでしょう」

 リーナが不安そうに尋ねると、アルノーが冷静な顔でこくんと一つ頷いた。

「どうやら、急激な成長期のようです」

「吐くならもっとちゃんとした嘘を吐け!」

 クルトがアルノーの尻を蹴っておく。

「アルノーは放っておいて、リーナ、あなた、馬鹿カイルと馬鹿キルヒナーの魔力に吹き飛ばされたの覚えてる?」

「……あ、はい、なんとなく」

 外野が「私は生まれて初めて馬鹿と言われた」「わざとじゃない」と文句を言うが、それを無視してエルがリーナに尋ねると、おぼろげながらリーナは覚えているようだった。

「意識の無くなったあなたを見て、その馬鹿カイルが慌てちゃって、それはもう全力の治癒魔法を掛けた訳よ。そうしたら、あなたの姿が変わったの。何か心当たりは?」

 エルが言いたいことは、普通の治癒では体の成長を促すような効果はないにも関わらず、リーナが成長をしたということは、本来あるべき状態の体が外的要因で成長を阻害されていたということだ。その阻害要因が、馬鹿のようなカイルの治癒魔法で取り除かれたと見て間違いないとのことだった。

 しかも、成長が著しく止まった十歳前後に、その阻害要因は発生したと思われる。

「いえ、まったく……」

 リーナは力なく首を振った。魔術の権威であるアルノー(絶対そう見えない)が考察するに、その阻害要因は、病のように自然に起きたことではなく、間違いなく人為的なもの――誰かの魔法によって起きたもののようだ。

 リーナが幼い頃から接触している人間は限られている。両親か村人か、稀に出入りの商人くらいしかいない。それでも素性の分からない人間は一人もおらず、その全員が魔術のような高度なものを使えるような魔力を有していない。

 ただ、リーナの両親を除いては。

 その可能性には、その場でリーナ以外全員が思い当たっていた。その理由にも。

「まあ、理由はこの村の連中の態度を見ていれば、推して知るべし、ね」

「???」

 一人だけ疑問符を浮かべるリーナだったが、理由については流石に口の軽いアルノーでも口を噤んでいた。

 リーナは、辺境どころか、中央でも見かけない程の容姿を持っている。長ずれば、リーナを巡って村で争いが起きたかもしれない。だが、幼い見た目に食指が動く特殊性癖でもなければ、リーナを女性として見ることはなかっただろう、ということだ。

 子リスのように首を傾げるリーナに、全員が悩まし気な視線を送ると共に、愛らしいリーナにほわんとなった時だった。

「皆様がた! これはいったい何の騒ぎですか!?」

 けたたましい声と数人の足音が聞こえた。今度はご丁寧に村長までいる。その村長以下、先ほどの村の顔役と無理やり連れて来られたマリウスと物見高いラウラがいた。ラウラは恐らく、エアハルトの周りをうろつこうとして、この近くにいたものと思われた。

 あれだけの火柱と轟音が上がれば、さすがに先ほどの騎士の叱責が骨身にしみても、様子を見るために人も集まろうというものだ。

 だが、やはりここの村人は、魔物への警戒がほぼ無いことに、一行は改めて気付く。いくら、国家連合騎士団の隊長一行と自由組織の銀級一行がいると分かっていても、普通の辺境の村であれば、あれほどの異変の確認なら武器の一つも手にしているものだが、集まった全員が手ぶらで、かつ非戦闘員まで興味本位でやってくる始末だ。

「驚かせて悪かったが、先ほどのは、私とそこな銀級が手合わせをしただけだ」

 手合わせどころか殺し合いだったのだが、しれっとエアハルトが嘘を吐く。そう言われてしまえば、村長は苦い顔をしながらも引き下がるしかない。「程々にお願いします」と言って、明らかに不審そうな視線を向けるが、その視線がピタッとリーナで止まった。

「……エルマ? いや、そんな訳は……」

 村長の呟いた声に反応したのは、エアハルトだった。村長は、驚きというよりも、恐怖に近いものが目に浮かんでいた。

 最初は死者が蘇ったとでも思って恐れているのかと思ったが、よく見れば顔役も同じような反応をしていた。二人とも、得体の知れないモノへの漠然とした恐怖というより、明確に死んだはずの人間その人を恐れているようだった。エアハルトは口を開きかけるが、それがなされる前に息子のマリウスの声が響いた。

「リーナ! お前、その恰好、どうしたんだ!」

 ジークは姿の変わったリーナを一目見て分かったマリウスに感心したが、当のリーナはビクッと震えてエルの後ろに隠れてしまった。その瞬間、村長や顔役の男の顔に安堵が浮かぶのを、エアハルトは見逃さなかった。

 この男たちは、リーナの母親に、何らかの恐れを抱いているようだった。

「え? リーナ? なんで、あんた……」

 ラウラもリーナの姿を見たのか、茫然と呟いたが、次いで歯ぎしりするような形相になってリーナを睨みつける。その目には、ありありと嫉妬と憎しみが浮かんでいた。

 カイルとジークが、リーナとエルを隠すように前に出る。

「村長殿。彼女は紛れもなくリーナ嬢だ。我々の先ほどの手合わせで彼女が手傷を負ったので、治癒魔法を掛けたところ、彼女には何等かの保護魔法が掛かっていたことが分かった。それを治癒で解除したらしく、このように本来の姿を取り戻したようだ。我々は、それがいったい誰が掛けたものか、何故掛けられたのかを探るところだったのだが……。この村の代表として、何か心当たりは?」

 尋ねる形を取っているが、エアハルトの声は何かを確信したものだった。

「い、いえ。我々は何も……」

 何故か口籠る村長に、エアハルトは冷たい視線を向ける。だが、そのまま何も言わずに視線を逸らした。

「それでは仕方がない。では、家に戻ろうか、リーナ嬢」

「え? あ、はい」

 急に話を振られて慌てるリーナにニコリと微笑むと、エアハルトはまた村長に顔を向けた。

「それと、ご覧のとおりリーナ嬢に今の服は合わない。何か見繕ってもらえるといいのだが。あと、食料も分けていただけると有難い。それと、寝具も。ああ、酒もあるといいな」

「……はい。後で届けさせます」

 笑顔でいろいろとゴリ押しで要求するエアハルトに、苦々しい声で村長が応じた。ジークたちは「あれ、賄賂の要求じゃないのか?」と無言で部下の騎士たちを見るが、彼らは「違う違う」という表情でひたすら首を振っている。当のエアハルトは、「金は払うので問題ない」と言い切った。

 村長や顔役はそそくさと足を進め、マリウスはなかなかリーナから目を離せずにいたようだが、怒りに燃えていることが丸わかりな妹のラウラに引きずられるように連れていかれた。

「ハルト、何か引っかかることでもあったのか?」

 完全に村人たちの姿が見えなくなると、ジークがエアハルトに尋ねた。

「いささかな。あやつらのこと、少し調べようと思う」

 そう言って村長たちを見送ったエアハルトは、ちらりとリーナを見てからため息を吐いた。恐らくこの村の人間は、リーナの虐待だけでなく、リーナの両親の死に関わっている。

 だが、今はそれを言うべきではないだろう。リーナを不必要に傷付けたくはなかった。

『本部からあいつを呼ぶか』

 頭に浮かんだ人間を呼ぶのは少し躊躇ったが、あの者ほど諜報や探索に長けたものはいない。アルノーよりもある意味知識が豊富だ。

 今日一日で接しただけで分かるほど、この村はキナ臭すぎる。

 そして、その臭いは、組織の上層部には知られてはいけない類のものだと、エアハルトの勘は告げていた。知られれば、妨害されるだけでなく、真実どころか自分たちまで闇に葬り去られるだろう。腹立たしいが、それが分かるのも、自分が似たような思考ができるからだ。後は、それを実行するかしないかの倫理観の差だと、エアハルトは考えていた。

 変化したリーナにどう接したらいいか迷っている様子のカイルを見て、陰謀渦巻く組織に属しても朴訥とした純粋さを失わなかったその心を羨ましいと思わないでもなかった。勇者の仲間たちも、頭は良いが陰謀とは程遠い性格の者たち(アルノーは面倒くさいとやらないだけ)で、この役目は自分が適任であるとエアハルトは自任していた。

 恩人の娘であるリーナもだが、このままであればただでさえ悪運の引きの良い体質のカイルも、今以上に面倒な陰謀に巻き込まれてしまう可能性がある。

 少年期のカイルに手を伸ばせなかった後悔を思えば、これ以上東方世界の傲慢な上層部に良いように扱わせる訳にはいかなかった。

 そう思い、ふと自分でもおかしいことに気付いた。

『何故私は、あんな馬鹿にこんなに肩入れしているのだろうな』

 エアハルトが望むのは、国家連合騎士団での栄達でもなく、名ばかりの英雄的な名誉でもない。ただ、魔物によって人が命を奪われない世になればいいと、それを願い行動するだけだ。それを恵まれた人間の傲慢と言う者もいるが、それの何が悪い。持っている者が持たざる者の手の届かない場所を担うのは当然のことだ。それをしない者が幅を利かせているから世の中が歪むのだが、歪める側は気付いても改める気がない。

 そんな連中からカイルやリーナを守って、気に食わないヤツらの鼻を明かすのは、エアハルトにとってとても愉快なことなのだ、と思う。

「リーナ、行こうか」

「はい、カイルさん」

 限りなくぎこちない不審な動きのカイルと、変わらず明るい笑顔を見せるリーナを見て、不器用な生き方も悪くないと思うエアハルトだったが、それを見ていたジークもエアハルトに同じようなことを思っているとは夢にも思わないだろう。

「さぁて、まだまだやることは多そうだな」

 何やら考えていそうなエアハルトに、抱え込みすぎないよう見ていようと考える。

「あら、ジーク。何かあったの?」

 そんなジークにエルが声を掛ける。ジークはエルの頭を撫でながら、本当に当面のやるべきことを口にした。

「いや。まずはハルトたちの食事を作ってやって、その後部屋割りを決めないとな」

「ああ、なるほど。あの金色が部屋を譲るとは思えないものね」

 眉間に力を入れてエアハルトを睨むエルを見て、ジークは朗らかに笑う。

 最年長のジークからすれば、不器用なカイルも、偽悪的な善人のエアハルトも、素直なリーナも、みんな可愛い弟妹のような仲間なのだ。

あまりに久しぶり過ぎて、前話まで何を書いたか忘れていた作者です。

間に他の作品を三本同時に進めているので、誰が誰か分からなくなりそうでした。

そんな訳で、もし見知らぬキャラの名前が突如出てきたら、そいつは異世界人です。

このお話は「異世界転生/転移」ジャンルではないので、作者までお知らせください。責任を持って捕まえて元の世界に送り返します。


本日はあと二話ありますので、引き続き閲覧していただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
お久しぶりです、大感謝! それにしても、読みながら確かこの人は・・・と考えていましたが、まさかの作者様もとは!? いや、良いんです、間が空こうが何だろうが、更新していただけるのなら。 そして「異世界人…
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