表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/27

23.父の痕跡

本日2話投稿します。

1話目の投稿です。

 リーナが目を覚ますと、自分の家に、更に人が増えていた。

 居間の六人掛けの食卓は満杯で、入り口側にアルノー、ジーク、エルが座り、向いにアーベル、エアハルト、ラルフの順で座っていた。しかも、何とも言えない沈黙が漂っていて、ガチャッとドアを開ける音に、全員が一斉にリーナの方を向いた。

 水場側にいるキラキラした白い軽鎧を着けた人間が、リーナやカイルを追って来た騎士だと気付くが、あの時のような殺気立ったものはなかった。

「あ、お客様がいらっしゃるのに、寝てしまって申し訳ありません」

「もう、リーナったら、謝らなくていいのに」

 開口一番謝罪を口にすると、エルが席を立ってリーナを椅子に誘導し、アルノーを蹴って一つ席を空けると、ジークと自分で挟むようにリーナを真ん中に座らせた。カイル一行には謝罪はいらないと言われたのに、どうしても長年培われた謝ることが癖で抜けない。

 あれ? そういえば、カイルさんとクルトさんがいない?

 席に着いてから気付いたが、人数が足りない。

 騎士と思われる一番若いラルフが、アルノーに席を譲って下がった先の床に、カイルとクルトが座っていた。そこにラルフも「お邪魔します」と言って座る。

「わ、わたしが立ってますから!」

 慌ててリーナが立ち上がろうとすると、向かいのエアハルトが「君は座っていなさい」とリーナの残留を指示する。何故か逆らってはいけない気持ちになり、リーナは非常に肩身の狭い思いをしながら座った。

「さて、目覚めたばかりで悪いが、君にはいくつか尋ねたいことがある」

 この質素な家にまったく似合わない豪奢なエアハルトから口火を切る。

「まずは、我々から名乗ろう」

 そう言ってエアハルトは席を立ち、リーナの所までやってくると、慌てて立ち上がったリーナの小さな手を優雅に取って膝をつき、軽く指先に口付けた。

「私は、国家連合騎士団、第二大隊隊長を拝命しております、エアハルト・キルヒナーと申します。先代勇者、ウォルフ・シェーラー様の御息女にこうして出会えた運命を、女神に感謝します」

「は、はい! ……え?」

 突然のエアハルトの接触に、顔を真っ赤にして困惑するリーナだったが、何やら不穏な単語が聞こえて思わず聞き返したが、エアハルトは丁重に聞こえないフリをして立ち上がると、アーベルとラルフを紹介した。リーナは愕然として、「国家連合騎士団の大隊長さま……」と呟いていた。想像以上に組織の上部の人間で、驚きよりも恐ろしさが勝っていた。

「君の御父上の名は、ウォルフ・シェーラーで間違いないのでは?」

「はい、おっしゃるとおりです。ですが、父は私に「黄銅」級であると聞いていて……」

「そのことはおそらく、そこの床にいる馬鹿勇者とその一行が「銀」を持っている理由と同じ理由だと思うが」

 自然な感じで「馬鹿」と呼ばれたカイルと一行だったが、素直に全員肯定してみせた。リーナは「馬鹿でいいんだ」とちょっと思わないでもなかったが、床で膝を抱えながら座るカイルが何も言わないのでそっとしておくことにした。

 エアハルトが説明したのは、勇者というと、本来の魔物の討伐任務外の願い事をされることが多いということだ。人は「勇者の仲間」までは同じ人間と見るが、「勇者」は神の眷属と思って「人」として扱われない。邪険にされるのではなく、下にも置かない大変手厚い歓迎を受けるが、それだけでなく、多くの奇跡を願われるのだと。

 もちろん、勇者は人を超えた力を持つが、その範囲は人間が持ちうる力を最大にしたものであり、病を治したり、田畑を豊かにしたり、天候を鎮めたりと、神の領域のことまで願われることがしばしばあるのだ。勇者が女神に選ばれることから、勇者も神殿で教えられる女神の権能を全て持っていると勘違いする人間が、特に地方に多く見られた。そちらの慈悲を求めるあまり、本来の魔物の討伐という目的を妨げるほどに。

 だから自由組織に属する勇者と一行には、勇者も同じ「金」の等級の指輪を渡すのだ。カイルと仲間たちはそれすらも面倒で「銀」を持たせてもらったのだが、広域で人手が必要な討伐や、上級貴族が絡むような場合など、余程重大な任務でない限りは、勇者の身分は伏せていた方が仕事は潤滑にいくのだった。

 騎士団に所属する勇者は、そもそも騎士団の任務自体が在野で熟す類のものでないため、そのように身分を隠す必要もないのだが、その分騎士団の勇者は実戦数が自由組織の勇者よりも格段に少なくなるのが通例だった。だが、国家間の権謀術数に関わるためか、「堕落」により「絶刀」で落命する勇者は、自由組織の勇者よりもずっと数が多い。

 勇者は戦いで命を落とす確率の高い自由組織か、勇者の道を外れる率の高い騎士団か。この二つの組織以外に身を置く術はない。

 勇者にとって、どちらの組織が良いか悪いかは判じえないところだった。

「君の御父上は、昔騎士団に所属した男爵家の人間だ。私は家の関係で君の御父上とは幼い頃から面識があった。言葉では言い表せないほど、君の御父上には世話になった。それに、君は覚えていないだろうが、私たちは何度も会ったことがあるのだよ」

 突然湧いた話に、リーナは目を白黒させた。何しろリーナは、今先ほど、父が貴族であり騎士団に所属していたことを知ったばかりか、先代勇者であるという衝撃の事実にぶち当たって消化しきれずにいるのだから。

「ちなみに、あなたの御父上が「金」を「黄銅」と偽ったお陰で、自由組織の「黄銅」級がなくなったのは、自由組織では公然の秘密として囁かれる伝説です。いやあ、「金」を堂々と示して「黄銅級です」というあの発想は誰にもなかったですからね」

 アルノーが何故か得意げに知識を披露するが、リーナは更に委縮するしかなかった。エルは目の前に席を移したアルノーの足を、思い切り反対側から蹴りつける。エルは気遣ってくれたようだったが、リーナは驚きはあるものの、記憶が薄れそうな父の記憶が他人に息づいていて、どこか嬉しいような懐かしいような気もしていた。

「両親が亡くなった時、私は幼く、両親がどのような働きをしていたのか知りませんでした」

「ああ。君の母君は、当代でも随一という魔女だった。特に治癒と地属性の魔法で言えば、勇者と比較しても引けを取らないほどだった。だが、その分強い魔力にお体がついていかず、相性の良い魔素が湧く地を長年御父上は探されていて、恐らくこの地が最も母君の体調と合ったのだろうと思う。あの方は、権力も莫大な利権の発生する土地や邸宅もあっさり捨てて、君が幼い頃にここへ移ってしまったんだ」

「でも、先代勇者は、東方諸国でちゃんと魔物を討伐していた記録があるのだけれど」

 エアハルトにエルは尋ねる。ここを拠点としていたなら、隣国のカレドリー王国やレンバート王国に行くためには、王都にある転移門が必要で、歴代勇者はどちらの組織に属していても、効率のために必ず王都住まいだった。

 それにエアハルトは、面白くもなさそうに、シレッと自分の隣に座るアルノーを見た。

「そこの似非「賢者」も使えると思うが、大陸でも数人しか使えない「転移」を奥方が使えたからだ。それで国王からも許可が出たのだろうが、ウォルフ様はこの地に来ることを一切秘匿して、告命鳥が鳴いて初めてこの地にいらっしゃったことを我々は知った」

 告命鳥は、その時の「絶刀」の使い手に、勇者の最期を告げて散る。「絶刀」の使い手はその事実を偽ることは出来ないが、秘匿することはできた。当時の使い手は、エアハルトの三代前の使い手だったが、次の勇者カイルが選定されるまで、ウォルフ・シェーラーが落命したこと以外の一切を告げなかった。

 そして、カイルの選定と共に、勇者と妻の最期の地を告白し、病でこの世を去った。実直で、ウォルフとも懇意にしていた使い手であったが、告げぬことで何かを守ったのか、裏切りだったのかはもう誰も分からない。

 そして、エアハルトを始めとするウォルフを慕っていた者たちが、リーナを探すことを諦めていたのは、この地に赴任していた「一家」が死亡したという知らせを、ここの村長が送っていたためだ。その記録と照らし合わせ、誰もがリーナも命を落としたと思っていた。

 今ここでエアハルトが最大の不審を抱いているのが、誰がどのような意図でそのような悪意を持った情報を流したのかということだ。一村長の考えで、そのような村の利益にならないことをするとは、到底考えにくかったからだ。

 エアハルトたちは、リーナが意識を取り戻すまで、この村の状況と、それぞれが有している情報を共有していた。もちろん、この地がどのような因縁があったかも。

 その一つが、陰謀説であり、もう一つ、エルが気になっていたことを伝えた。

 リーナの体には、普通は人の肌に刻めないひし形を重ねた勇者の印に似た痣があると。それが、リーナが勇者の血縁であれば、あり得ないことではないかもしれない。

 ただの偶然で出来たとしか思えないが、リーナからは微弱だが本人以外の魔力を感じた。それは呪いではないが、リーナの何かを抑えている力のように思えた。それが何かまでは分からないし、試しに治癒を掛けてもその痣が消えることはなかったので、封印とも思えるが、それが悪いものとは限らない。辛い記憶や病の進行を封じ込める類のものかもしれないからだ。

 だが、それは、リーナには伝えなかった。無理に辛い思い出を掘り起こす必要もなく、リーナが望んだ時にそれを与えるべきだと、意見が一致したからだ。

 そのエアハルトの説明で、ある程度の疑問が解消したとジークは思った。

 通常迷宮は、自由組織の支部を作って交代で監視するくらいの規模なはずなのに、この地に組織や騎士団が派遣されない不思議を思っていたが、恐らくあまりに辺境過ぎて国が見捨てたのだろうと思っていた。常に戦力を置いておく支部を維持するよりも、村一つ犠牲にして町に近い所で防衛線を張る方が遥かに金も人材も安上がりだからだ。

 ここは女神の痕跡の恩恵を受けた地で、遺跡が迷宮化したとは言っても、この地の魔素は豊富で清浄だった。ここでなら、勇者の奥方は自由に魔力を使えたのだろう。そして、勇者とそれに匹敵する力を持つ奥方がいるなら、この地を拠点として「転移」で変わらぬ仕事量を熟すなら、勇者夫婦を一組置くだけで、迷宮の監視もでき、自由組織も騎士団も国も何も損失がない。

 それを実現するためには、かなりの権力を持つ者の協力が不可欠だろうが、勇者に許可を与えられる立場、自由組織の委嘱状を捏造できる身分から、自ずと誰かは特定できる。

 そうして、協力者と思われる国王と自由組織の一部以外、権力者も手の届かない地で、先代勇者は「黄銅級」と偽りながら静かな暮らしを手に入れたのだ。

 それを分かっていてこの地に拠点を移したのなら、先代勇者は相当なやり手だと思った。

 だが、それが今のリーナを、理不尽な状況に置いてしまったのだから、皮肉としか言いようがない。

 エアハルトもジークも同じことを思って、二人が同時にリーナを見る。そして、エアハルトが尋ねた。

「それで本題だが、リーナ嬢。君はこのままこの村でこの生活を続けていく気か?」

 今もリーナは、村人のお下がりなのか、ダブついた服を裾や袖を折り返して着ていた。ここ数日カイルたちと過ごして、ゆっくりと休養と栄養を取ったためか顔色は良くなっているが、依然としてその枯れ木のような細い手足は、リーナの過酷な状況を語っていた。

 これで、リーナが年相応な外見をしていたら、もっと過酷な状況になっていたかもしれないが、それを天の采配と言うのは業腹だと、その場の全員が思った。

「君が望めば、本来の勇者の遺族としての恩恵を取り戻して、この村の人間を処罰できるが、君はどうしたい?」

 エアハルトが静かに問う。

 リーナは、突然、人生の選択を迫られることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ