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21.エアハルトの追及

 本当は、村長が中央の貴族出身であることをカイルも村長から聞いていたのだが、話を九割ほど記憶していないので、ジークには伝わっていなかった。

 だが、エアハルトの様子を見るに、あまり印象の良い間柄ではなかったようだ。明らかにエアハルトは一線を引きたがっていた。

「急な訪問については、こちらの自由組織との合同の任務に当たるためだ。そして、尋ねたいことがいくつかあってこちらを訪ねさせていただいた」

 サラッと嘘を吐くエアハルトに、ジークは軽く苦笑する。

 元々この地を訪れる前に下調べをしたのだろう。打ち合わせた訳でもないが、数日過ごした勇者一行と似た話をしている。「迷宮」に入るために支援の要請を、だ。

「それと一つ。この村に『リーナ』という娘は何人いるだろうか」

 本当に唐突な話に、村長は訝し気にしていたが、先行した自由組織の戦士たちが我儘を言って(こじつけだが正解)世話になった礼に、中央から後日何か贈らせたいが、複数人いれば、役人も戸惑うだろう、と。

 その話に、村長は僅かに反応した。カイルがジークに言っていたが、村長はリーナに対する干渉を快く思っていない、と。

 子供の生存率が低い地方の領地で、将来の働き手となる子供は貴重だ。本来、国の方針で孤児は保護の対象となるが、領主等の裁量に拠るところも大きい。だからカイルも手が出せなかったが、エアハルトは行政にも手を伸ばせる位置にいるため、虚偽を言えば後で自分を苦しめることになるから不快ながらも村長は正直に答えざるを得ないだろう。

 恐らく村長は、リーナを未成年として自分の裁量下に置きたいのだろうが、エアハルトによって却ってそのことが、騎士団から村への干渉材料になってしまう可能性があり、それはどうしても避けたいところに違いない。

「村に『リーナ』は一人だけです。あの娘は、外見こそ幼くはありますが、今年、成人いたしました。ですが、両親を失った時の傷なのか、心の病を持っており、頻繁に虚言を申します。それだけでなく、どうしても親の形見が見つからないと言うので、憐れんで一度「迷宮」に村人と赴いたことがあるのですが、その時に「迷宮」の禁忌に触れたのか、それ以降リーナの周りでは不幸が続き、「不幸を呼ぶ娘」と呼ばれています。カイル様にも村の扱いには理由があることをお伝えしましたが、今も私共はいつ皆様がリーナの不幸に巻き込まれるか心配でございます。どうぞ、礼などとお気遣いなく、一刻も早く私共の元へ戻られますよう」

 またしても拒絶を示す。それも来たばかりのエアハルトにではなく、ジークの方を見てだ。

 それもリーナの扱いは、心の病から虚言を吐き、「不幸を呼ぶ」から村人と疎遠でも仕方ないと、だから口出しするなという。そしてジークたちには、勝手に村長宅を出ていってリーナから不幸をもたらされても知らないぞ、と自然と勇者一行に非を押し付けている。

 ここまで言うからには、医者や村人全員との口裏合わせも出来ているのだろう。

 とんだ茶番だ、とジークは思う。

 リーナの年齢の確認という目的は達したが、リーナが目覚めるまで待てば解決することを、エアハルトはそれだけでわざわざ足を運ぶような無駄なことはしない。

 あっという間に冷えた空気に、それを払拭するように急に村長は明るい声を出した。そして、無理やり話題を変える。

「それにしても、ジーク様の御一行といい、ここ数年、『迷宮』は不活性の状態でございますが、何故今、皆様のような東方世界に冠絶する方々がお集まりになったのでしょう」

 確かに「迷宮」には活性期と不活性期があり、活性化しないと、「迷宮」を閉じるための「核」の破壊ができないことから、通常は活性化している「迷宮」の対処に当たるのが一般的だ。それを当たり障りの無いように村長は探りを入れてくる。

「我々は、危険度の高い『迷宮』を優先している。現在不活性でも、将来の危険性を鑑みての調査だ。特にこの地の『迷宮』は、前の勇者をして攻略できなかったのだからな」

「……それは、どういうことでしょう。私共は、勇者様をお迎えしたことはございませんが」

 エアハルトの説明に、一瞬の間を置きはしたものの、村長は飄々と答えた。

「知らぬ、か。八年前、先代勇者の告命鳥が鳴いた。つまりは命を落としたということだ。そして最後に訪れた長期の任務地は、ここイデルだ」

 チラリとエアハルトは村長にその青い目を向けるが、村長は大げさに驚いて見せる。

「なんと! それは存じ上げませんでした。しかし、この地に滞在されていた自由組織の戦士の方は、自らを『黄銅』級、魔女の方は「銀」級を名乗っておられました。戦士の方は、ほとんど駆け出しと変わらぬ等級で不安でしたが、討伐の実力は十分で、昇級試験を受けずにきただけとのことでしたので、この村のことをお任せしておりましたが、何かの間違いではないでしょうか」

 当時はまだ、自由組織の「黄銅」級は廃止されておらず、「黄銅」級の指輪を「金」級と偽る詐欺も横行していたことから、その後廃止されたが、よもやその逆で、「金」級を「黄銅」級と偽る者がいるなど思いもしなかった、と。

「では、私が断言しよう。貴殿らが迎えた自由組織の『黄銅」級の戦士は、東方世界の柱であった、先代勇者のウォルフ・シェーラー様だ」

 村長の後ろで控えていた夫人が、結構な音量で「ひっ」と悲鳴を上げた。エアハルトはそちらに目もくれなかったが、ジークはチラリと盗み見る。夫人は蒼褪めた顔をしており、子息は驚愕していたものの、二人はリーナの身分に気付いたようだった。

 夫人は、その勇者の血族であるリーナに対する仕打ちを思い出した。

 リーナに、あれだけの虐待を行っていたこの一家だ。その相手が、世間の尊崇を集める歴代でも名高い先代勇者であったことに、今更ながらに自分たちのしたことの重大さが分かったようだ。

 四方世界の平和のために身を捧げる勇者は、その犠牲と多大な貢献の対価として、家族に至るまで身分を保証されるものだ。

 リーナは本来、両親の死と共に中央に帰され、多額の一時金か戦没年金を受け取って、一生不自由なく暮らす権利があり、それは勇者が没時に在任していた地方の責任者が、保護や国への報告の義務を負うものだった。

 娘たちは相変わらず事の軽重どころか、リーナが先代勇者の遺児だということすら分かっていない様子だった。元々、彼女たちの中で、リーナは重要な位置に存在しないからだ。

 村長のジークへの苦言と今の婦人の反応で、勘の良いエアハルトは、リーナの村での立ち位置を察したようだった。エアハルトが向けた視線に、ジークは頷いて見せる。

「まあ、思わぬ収穫だった。偶然訪れた地で、先代勇者の御息女を発見できたのだからな」

「我々は知らなかったのです」

 エアハルトが薄く微笑みながら言う声は、まったく温かみはなかった。それは僥倖を喜ぶというよりも断罪の気配がしたからだ。それに村長は冷静だが、被せるように言う。

「先代勇者様は、組織の正式な赴任でいらっしゃいました。そして、その赴任の証明には、確かに『黄銅』級の戦士と「銀」級の魔女となっておりました。身分については先方と組織が虚偽を申されたもので、我々に非はないはずです」

 逆に被害者のように持っていく術は、肝が据わっているとしか言いようがない。おそらく、その「証拠」もあるのだろう。ふぅん、とジークは目を細めた。

「相分かった。シスリー殿に非はあまり見受けられぬようだが、いずれにしても御息女は我々も軽々しく扱えぬ。上の意向を確認するまで、滞在させてもらう」

 そう言ってエアハルトは、席を立った。もはやこれ以上、収穫はなさそうだ、と。

「どちらへ? キルヒナー様には、こちらに御滞在いただきたいのですが。もし他を望まれるのでしたら、次席の家にでも御案内いたします」

 エアハルトを自分のここに置くのは針の筵のようだろうから、配下の家に滞在させて心証を少しでも良くしたいのだろう。

 だが、そんな村長にエアハルトは極上の笑みを見せる。

「断る」

 そう明解に言って、颯爽と去るエアハルトをジークとアーベルは追いかけた。

 家を出ると、エアハルトが青い目を怒りでキラキラさせて言った。

「何とも面白いことになったな、ジークベルト」

 エアハルトも気付いている。

 先代勇者が見せたという身分偽造の証明。誰の思惑は分からないが、自由組織や国家連合騎士団の赴任の証明は魔術が掛けられており、一般人に偽造は不可能だ。シスリーは曲がりなりにも中央にいた貴族でもあるから、そのことを知らないはずがない。

 となれば、自分たち各組織の上位にも証拠として出しうるのであれば、それは組織の上部の人間が絡んでいることに他ならない。

 もしくは、それ以上の地位の人間か、はたまた勇者本人の意向か……。

こちらでストックがなくなりました。

次話からは不定期更新とさせていただきます。

次回は愉快な仲間達を書けるといいなと思います。


また次話を投稿しましたら閲覧よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ……このクソ村長、面の皮が厚いどころかアダマンタイトで出来てるんじゃなかろうか? なんか先代勇者が事情があって色々と隠匿したというよりは、クソ村のクソ村人達が村長筆頭…
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