18.エルの好きなもの
本日3話目の投稿です。
今日はカフェモカを飲みましたが、そんな気持ちが出たのか、ちょっぴり「あまぁ〜い!」感じになっています。
ホントダヨ。
居間の方から、カイルとリーナ、クルトの三人の声がして、ジークもエルも目を覚ました。
ふあっとあくびをしながらエルは軽く身支度をして部屋を出ると、ジークも無造作に髪を掻き上げながら部屋を出てきた。ジークと同室で、リーナの両親の部屋を使っているアルノーはまだ眠っているので、少し小さめの声で朝の挨拶を交わす。
ジークは無精ひげが生えているが、本人はこの状態でいることが多い。顎をしょりしょりと擦りながらジークも欠伸をしている。エルは神殿にいたので、周りの男性はみんなちゃんと髭を剃っていたので、最初はジークの姿に驚いたものだったが、今ではこの姿が落ち着くようになっていた。
エルを見てニコッと笑ってできる目尻の皺や、髭がポツポツしている男らしい顎の辺りの輪郭を見るのが、案外エルは好きだった。
あまりに見すぎたのか、ジークの灰色がかった青い目と目が合って、少し気恥ずかしくなって、エルは居間の床で掛け布に包って寝ているクルト起こしにかかった。
「ねえ、クルト、カイルとリーナ知らない?」
少し大きな声になってしまったからか、クルトが煩わし気に唸って、掛け布から指だけ出して外を指した。どうやら二人で外に出たようだ。
「こんな早くに。……まさか、仕事をしに行ったのかしら」
「そうだよ。カイルが馬鹿になってて、リーナが根負けして一緒に出てった」
それだけ言うと、またクルトは寝てしまった。
昨日からのカイルの様子を思い出し、ジークもエルも「なるほど」と頷いた。
どうしてかカイルは、リーナをやたら手元に置きたがっていた様子で、ましてや病み上がりだから、どうやら過保護も過ぎる行動に出たようだ。
あまり何かに執着しないカイルには珍しい行動だが、ここにいる一同は、その気持ちも分からなくはなかった。
何故だかは分からないが、リーナといると不思議と安定した気持ちになった。傍にいることが心地よい。
多分、五感が鋭敏なカイルは、その感覚を誰よりも強く感じているのかもしれない。
ただ、傍目から見ると、成人男性が少女を追い回しているように見えなくもないので、ここは一つ、健全な見た目になるように合流しようということになった。
他愛もないことを話しながら、ひんやりした朝の空気を心地よく取り込んで、二人は並んでゆっくりとした歩調で、カイルとリーナを探した。
ほのぼのとした雰囲気だったが、ふと思いついたようにエルが違う話題を提供する。
「そういえばさ、リーナの家に来るまで、村長の息子……ええと、リーブスくんだっけ? そう言えばあいつ、たまにリーナっぽい子の話してたわね」
「いや、マリウスじゃなかったか、確か」
まったく人の名前を覚えようとしないエルに、ジークが静かに突っ込む。
「なんか、私と誰かを比べてるような言い方してたのよ。『あなたは背が高いですから』とか『やっぱり女性は、もう少し優しく笑った方がいいですよ』とか」
少し聞くだけでは気付かないけど、自分の好みを押し付けてくるようだった。
「なんか、その子の印象がリーナっぽくって、でもおかしいのよ。マリなんとか君は、その子とは昔からの幼馴染で、年もほとんど変わらないっぽいわ。だとするとリーナとは年齢が合わないし……」
「まあ、俺たちもこの村の全部を見たわけじゃからな」
宥めるようにジークは言ったものの、エルは野生の勘に優れているので、その違和感は覚えておこうと思った。
だが、村長の息子のマリウスのことを思い出したせいか、だんだんとエルは嫌なことも思い出してきた。
「あいつさ、最初はあたしにちょっかい掛けてたのに、何かすぐにこっちを見下してきたのよね。言い付けでお前を構ってやってるんだ、お前なんて好みじゃないって感じでね。典型的な勘違い箱入り坊ちゃんってやつ。こっちだって優男なんて全然趣味じゃないっていうの。ああ、言ってて腹が立ってきた」
「ふーん、優男は興味ないのか」
「……何よ、引っ掛かる言い方ね」
「別に」
ジークが意味ありげに笑うと、エルが膨れる番だった。
「じゃあ、あいつの趣味はエルとは反対っていうことは、控えめで女性らしくてふんわりした雰囲気の女の子って感じか」
「何よ。更に引っ掛かる言い方ね。悪かったわね、リーナみたいな女じゃなくて」
「ああ、そうか。お前の反対っていうと、リーナになるのか」
しみじみと言うジークに、褒められていないと直感したエルが軽く脛を蹴る。
「そういえばあいつ、自分が女性にもてるって吹聴している割には、恋人の話とか婚約の話とか出てこないのよね。モテるって虚言じゃないかって疑うわ」
「いや、ああいう優男のこと、女性は好きだろう。実際村の娘に粉かけられているの見たし。さっきの好みの話じゃないが、案外一途にリーナの成長を待ってたりしてな」
「えぇ? だったら最悪ね。一般的な女の子だったら、守ってくれる男性の方がいいに決まってるもの。意地悪で気を引けるのは、お互い好き合ってる場合だけじゃない?」
「意地悪ねぇ。男は確かに、そうやって気を引きたい時があるな。まあ、やっぱり一方的なのは良くないがな」
「なに? ジークもあるの?」
「ん。たまにな」
そう言ってジークは、エルの鼻を軽く摘まんだ。ふがっと、変な声が出てしまって、思わず顔が赤くなった。それが悔しくて、今度はジークのつま先を踏む。それを笑って躱して、その大きな手のひらで、エルの頭を撫でた。
エルがそうされるのが好きだと分かってだ。ジークは本当に嫌がることをするような人間じゃないのを知っているから、はた、とエルは考えて、また顔が赤くなった。
エルが好きなものはたくさんあった。
ジークのマントに包るのが好き。ジークの無精ひげを触るのが好き。ジークにこうやって撫でてもらうのが好き。
頭をいろいろなことが過るエルを見て、ジークは柔らかく目を細めた。
そしてエルは、この笑顔が一番好きだった。
ずっと前から自分の気持ちは知られていると思っていたが、いざそのことを思い知らされると無性に恥ずかしい。
でも、とエルは思う。
この距離を離れることの方がずっと嫌だと。
エルは歩きながら、そっとジークのシャツの背中を掴む。するとそれをジークはちらりと見て、ハハと小さく笑った。
ジークは赤くなったエルを見て、『こんなおじさんじゃなくてもいいだろうに』と思いながらも、ちょっと手は(足も口も)早いが、誰よりも神官らしい慈愛と正義感に溢れた心根の彼女を可愛く思う。
少し気恥ずかしい空気の中、それでも相手にもっと近づくか互いに迷っているうちに、目の前に家畜小屋が見えてきた。
少し村の中を見回っておおよその当たりは付けていたが、朝から必要な仕事と言えば、水汲みと家畜の世話だと思い、その付近に近づくと、やはりカイルとリーナの二人はいた。
思わず二人で顔を見合わせて、カイルたちに声を掛けようとすれば、二人の前方に別の影が見えた。
静かな朝を壊す、確かな蹄の音が聞こえた。
作者の悪い癖で、いよいよ緊張感が途切れてきました。
次話は多分、変な金髪が出てくると思います。
また明日!




