表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/27

17.カイルが馬鹿になった

本日2話目の投稿です。

思い立って投稿したので、まだ前話を見てない方はそちらからご覧ください。

 リーナは、エルの看病とカイルの薬と、その他の人間の多少の努力で快方に向かった。

 夜には熱が引き、朝には倦怠感も残らずに、いつものように暗いうちから目が覚めたのだ。

 辺りを見回すと、リーナの寝台の隣の床に、どこから調達したのか分からないが、ふんわりとした敷布団が敷かれていて、その上ですぅすぅと心地よさそうに寝息を立てるエルがいた。部屋は暗かったが、シーツには村長の家の紋章が刺しゅうされていたのが見えて、リーナは急に動悸が激しくなった。

『借りて、きたんだよ、ね?』

 皆で話し合った後、リーナの記憶は途切れていて、その後どのような話の運びで村長宅から寝具を借り受けたのか謎だった。快く村長が貸してくれたということだと、自分を納得させた。

 ともかく、心に負担は生じたが、身体が本調子に戻ったのは間違いないので、いつもの仕事を始めようと寝台を降りた。

 汗をたっぷり掻いたので、熱を下げるために額に置いていてくれた布を使って、汗を拭った。

 おそらく、男性陣が居間にもいるだろうと思い、リーナはもう一枚の服に着替える。作業をしやすいようにと、雑貨屋で老女がくれた孫のズボンを履いた。いつも大きくてダブつくので裾を捲っていた。そのズボン自体は嫌いではなかったけれど、今は、ラウラたちが着るような可愛らしいスカートを履いてみたいと思った。

 そんな埒も空かない事を考えて自嘲すると、そっと部屋を出た。

 案の定、居間には二つ寝具があり、一つにはクルトが寝ていて、豪快に上掛けを蹴り飛ばし、身体が半分以上はみ出ていた。

 もう一つの寝具には誰も寝ておらず、不思議に思って辺りを見ると、扉のすぐ側にカイルが立っていた。驚きのあまり声を上げそうになるが、カイルの大きな手に口を塞がれて、なんとか皆を起こさずに済んだようだった。

「カイルさん、どうして……?」

「もしかして、仕事に出かけようとしていたのか?」

 リーナの疑問を最後まで言わせずに、被せるようにカイルが問いかけてきた。まさにその通りであったので、リーナは素直に頷いたのだが、カイルは暗がりでも分かるほどはっきりと顔を顰めたのだ。

「昨日、リーナが眠った後、村長の家にアルノーとエルが乗り込……訪ねて行って、二日は休ませるよう約束を取り付けてきた」

 途中、「乗り込んで」と聞こえたような気がしたが、リーナは聞こえなかったことにした。

 しかしすぐに、二日も村長が休みを許したことに驚き、そのことも吹き飛んでしまったが。

「だから、今日はゆっくり寝ていてもいいんだ」

「わたしのために、皆さんが奔走してくれたことは言葉だけでは足りないくらい感謝しています」

「それなら、寝ているべきだ」

 少しカイルの口調が強くなる、だがそれは、心底リーナを心配して言ってくれてのことと分かる。彼らの厚意がとても嬉しくて、また本調子ではない身体は確かに休養を欲しているが、リーナも困ったような顔をして頭を振った。

「病み上がりなのに、行かなくてはならないのか?」

 重ねて問いかけるカイルに、リーナは微笑んで説明する。

「共同で飼っている家畜は、当番がいることはいますが、わたしが行かないと餌を食べない子がいるんです」

 本当は、そんな当番など誰も守っていないのが現状だが、確かにリーナ以外からは餌を受け付けない家畜もいたから嘘ではない。

 それを、目をジッと見て本当か見極めようとしているカイルに落ち着かなくなり、目を離そうとすると頬に手を当てられて視線を戻された。

 昨日も思ったが、カイルのこの行動は、リーナの心臓に非常に悪かった。

「あ、あの……」

「熱は下がったようだな」

 耐えきれなくなったころに声を上げるが、カイルも同時に言って手を離した。なんだ、熱を測っていただけなのか、とリーナは安堵のため息をつく。

「どうしても抜けられない仕事なら、俺も一緒に行く」

 カイルからの提案に、思わず「え?」と聞き返してしまった。聞き取れなかった訳では無いのだが、一瞬理解が及ばずに問いなおしてしまったのだ。

「だから、どうしても抜けられない仕事なら、俺も……」

「いえ、そうじゃなくて、カイルさんに仕事をお手伝いしてもらうなんて、そんな申し訳ないことをお願いできません」

「何故だ? 俺は別に家畜が嫌いとかないから大丈夫だ」

「そうじゃなくてですね」

「だけど、その仕事が終わったら、リーナは休むんだ。それまで俺が監視する」

「……監視って」

 何とか説得しようと試みていると、突然咳払いが聞こえた。音の方を見ると、先ほどまで熟睡していたクルトが、肘を突いて横たわりながらこちらを見ていた。

「おはようございます」

「おはよう、リーナ。っていうか、カイルがなんか馬鹿になってる」

 眠そうにあくびをしながら言うと、カイルは不機嫌になった。

「俺は、リーナの体調を心配しているだけだ」

「あっそ。それ、しらふで言っているなら重症だよ」

 結構酷い言われようだったが、リーナもカイルの過保護ともいえる行動を何とか留めたかった。お客様を働かせるなんて、村長でなくても村人は怒るだろう。

「カイルさん、心配していただけるのは嬉しいのですが……」

「……」

 リーナが断ろうとすると、何故かカイルは何も言わずにジッとリーナを見た。お互いに不動のままにらみ合っていると、リーナはいたたまれなくなって、先に視線を外してしまった。完全にリーナの負けであった。

「では、少しだけ」

 リーナが諦めて項垂れると、クルトがもう一度仰向けに寝転がった。

「残念、リーナの負け。二人とも頑張ってきてね。俺はまだ眠いから寝るわ」

 あっさりとクルトは夢の中に戻ってしまった。カイルを止める援護射撃になると思ったのに、クルトはまったくカイルの行動に干渉しないようだ。

 ため息をついて、リーナはカイルの同行を許した。

 外に出ると、昼間の暑気は鳴りを潜めていて、深呼吸をすると少し湿った冷たい空気が体に染み渡った。熱の余韻もその呼吸で吹き飛んだようだった。

 カイルは「念のため」と言って、自分の剣を腰に下げているが、どこか上機嫌に見えた。

 道中は、朝の早いパン屋と牧場以外動いている気配が無かった。その静寂はリーナをどこか落ち着かなくさせる。寄り添うように横を歩くカイルが原因なのだが、リーナは何故こんなにカイル達が自分を気にかけてくれるのか不思議でならなかった。

「あの、カイルさん」

「なんだ?」

 カイルがリーナに視線を下げて応える。リーナはカイルの肩ほども背丈が無いのだが、カイルは話す時は必ず視線をリーナに向けてくる。目を見て話を聞いてくれる、それだけでリーナの気持ちは温かくなる。

「え、……あの、看病をしていただいて、本当にありがとうございました」

 改めて礼を言うリーナに、カイルは「そんなことか」と事も無げに返す。

「そんなこと、じゃないです。わたしにとっては」

 家族のいる生活というのが、あまりにも遠い昔の記憶で忘れそうになっていたが、カイル達がそれを思い出せてくれたのだ。家に置いてくれ、という頼み事はあったが、ほとんど見返りを求めない行動に、孤独がどれほど癒されたか。いや、薬の分リーナが多く貰っているから、リーナは自分ができる最大限のお礼がしたかった。

 それを言うと、カイルはまた顔を顰めた。何か失礼なことを言ったのでは、とリーナは少しドキドキした。

「リーナは、いつも体調を崩すとどうしているんだ」

 カイルの表情は、どうやらリーナを心配してのことのようだ。安堵と共に少しくすぐったい気持ちになる。ちょっとにやけそうになり、慌てて顔を引きしめた。

「あ、いえ、昨日ほど体調を崩すことはほとんど無くて、本当に昨日はたまたまだったんです。いつもはヤロウの煎じたものですぐ熱は下がりますし」

 ここ数日、リーナは異常なくらい仕事を振られていて、それこそカイル達と接触しようも無いくらい忙しかった。そのために暑気あたりもあって、あれ程の熱が出たのだと思う。

 リーナの説明を黙って聞いていたカイルが、突然リーナの頭を撫でた。一つに結っているリーナの髪が揺れた。なんで、と固まって足が止まるリーナにカイルは、自分がリーナの頭を撫でた手を見て自分で驚いていたようだった。

「すまない。勝手に撫でたりして」

 ようやくカイルは、リーナが固まる原因が自分にあることに気付いたようだった。頭や頬を撫でるのは、家族以外ではあまり一般的でないとリーナは思うのだが、どうやらカイルの常識でもそうなのだと分かった。それなら、何故カイルはリーナに触れるのだろうか。

「いえ、突然だと驚きますが、嫌、では全然ない、です」

 気落ちするカイルを見て、リーナも訳の分からないことを口走ってしまった。でも、本当にカイルに触れられるのは嫌ではないのだ。

 ただ、気恥ずかしくて、無性に居たたまれなくなってしまうだけで。

 もごもごとするのを恥ずかしく思いながらカイルを見上げる。すると、カイルは優し気に目を細めてリーナを見ていた。途端、リーナは自分の顔が茹ってしまったように感じる程、物凄い勢いで赤面した。

『心臓が、心臓が飛び出ちゃう!』

 只でさえ、リーナが会った中でも一、二を争うくらい綺麗な人なのだ。そんな男性が、自分に優しく微笑んできたら、女の子としてはこうなっても仕方ないことだ。リーナは村の人間ともろくに話をしたこともないのに、他人から向けられる笑顔にまったく免疫がなかった。

「あああああ、あの、い、つもより遅くなった、ので、急いで、行かないと!」

 音節がおかしなところで途切れてしまうが、これでもリーナは必死に取り繕っているのである。

 おかしな事を言っているし、おかしな行動をしているのも分かっている。

 だけど、それよりも、カイルの笑顔が頭から離れないことに泣きそうだった。

 それを別の事に意識を向けたくて、リーナは逃げるように家畜小屋へ走り出した。

出来たら、今日もう1話短いのを載せます。

多分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ