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1.勇者の失踪

初めましての方も、お久しぶりの方もよろしくお願いします。

数年前に書き溜めていたものを直しながら投稿しますので、数話分まで本日投稿します。

 グラン=セルム大陸の東の端にある「狭間の谷」。

 そこは死霊の王が巣食い、不死系や悪魔と言われる魔物が徘徊する死の谷だ。

 強力な魔物が湧く「迷宮」と呼ばれる特定の場所の中でも、高位の魔物が多い場所であり、死霊の王は、かつて最精鋭である国家連合の騎士団の数十人の勇士で攻め入ったのを、壊滅せしめた恐ろしい魔物だった。

 そこを攻略したのは、たった五人の東の勇者の一行であった。

「狭間の谷」から帰還した勇者一行は、依頼が完了した旨を「自由組織」に報告後、不自然な沈黙を保った。


※※ ※※ ※※


 グラン=セルム大陸はひし形をした大陸で、同じひし形を重ねたような内海を有し、その中心に聖域と呼ばれる島がある。東西南北の四方地域に分かれており、その一つ一つを四姉妹の女神が一柱ずつ治めている。治めているといっても実際に国を統治しているのは人間の王であるが、各女神の権能により様々な恩恵を与えられていた。

 ここ東は、大地と豊穣の女神セレスティアが治める地だ。

 その四方の地域には一人ずつ、女神の恩恵を受けた「勇者」がいて、外海から大陸を侵食する瘴気を祓っていた。

 何故、瘴気が生まれるのかは分からない。

 しかし分かっていることは、瘴気は土地を腐らせ、生き物を殺し、魔物という人の世の理の外にあるものを生み出す。魔物は人を襲い、更に瘴気を広げていくということ。

 女神は人に魔力や祈りの力を授け、魔物に対抗する手段を与えた。それが組織化され、宗主国の下に集まったのが「国家連合騎士団」であり、被害を受ける街や村からの依頼を果たす私的組織が「自由組織」であった。

 いずれも、神々の奇跡を顕現させる者や、剣や弓を取って戦う者など、脅威への対抗手段を持った人間が所属するのだが、その最たるものが「勇者」であった。

 女神の加護を受け、常人には計り知れない力を持ち、死霊の王などのおおよそ人知の及ばない魔物に対し、対抗せしめる切り札として。



 東の勇者は、仲間を一人も欠けさせることなく死地から戻り、自由組織で称賛の言葉と報酬を受け取った後、仲間を置いて、忽然と姿を消したのだった。

 勇者の失踪は、世間に与える影響が大きすぎるため、自由組織と騎士団の上層にだけ報告がもたらされた。

 狭間の谷で何か深刻な損傷を受け、それを隠しているようだ、と。

 仲間たちはすぐに勇者を追おうとしたが、各組織の上層部が待ったを掛ける。

 何故なら、東の勇者は彼一人だが、決して替えの効かない存在ではなかった。

 今代の勇者が命を落とせば、次の勇者を女神が授けてくれるのだ。

 中央の聖域には各女神の神殿があり、そこには「告命鳥」という四方四色の神鳥が一羽ずついて、勇者の誕生を告げ、その命が終わる時も末声で知らせる。その鳥は末期の際には次代の告命鳥を産み落とし、その次代が新たな勇者を選定するのだ。

 その空白の期間は定まってはいないが、早ければひと月、長くても一年ほどだった。

 仲間の目からも逃れるような瑕疵を負った勇者ならば、いっそ単独での行動の末、命を落としてくれた方が、すぐに新しい勇者を戴くことができる。そう考えていることが明け透けに見える対応だった。

 勇者は、身分の貴賤や性別など関わりなく、告命鳥が選べば勇者となる。誰でも良いという訳ではあるまいが、勇者というのはある意味無限の資源だった。

 だが、勇者の仲間はそうはいかない。彼らは「人」の中でもそれぞれ最高の力を持つ者がなる、「賢者」「大神官」「狩人」「槍聖」だった。

 神が選べば出来上がる勇者とは違い、彼らが失われれば、後進が育つまでにどれだけの時間と労力が必要となるだろうか。

 その声は、勇者の仲間たちの逆鱗に触れた。死霊の王すら倒す只人にあらぬ人間の怒りに、誰もが血が流れることを予想した。

 だがそれは、一番「温厚」な「大神官」が、十数人は一同に掛けられるオーク材のテーブルを素手で叩き割って黙らせ、その場を収めたのだ。

 ようやく、勇者の仲間足り得る自分たちの価値を認識してくれたかと胸を撫で下ろした自由組織と騎士団の上層部だったが、それが間違いであったと気付いたのは、勇者一行がことごとく姿を消したと知れた後の話であった。

 これまで、東の人類の最後の砦であった勇者一行の消失は、それを許した上層部の人間にとって、心胆寒からしめる出来事であったのだ。


前作の前進になる話として書いていたので、多少世界観が似ている部分もありますが、別のお話として読んでいただけるよう加筆しています。

本日は、5話投稿しますので、この後も閲覧をお願いします。

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