プロローグ
暗い話です。
――何故?
――どうして?
息を切らしながら走り続けるけど、心の中の疑問は常に頭から消えない。
背後は夜なのに家々に点けられた火のせいで昼間のように明るかった。その明るさから逃れるように、闇に向かって急ぎ歩を進める。
何故?――わたくしは何度その疑問を思ったことかしら?
けれど、その問いに答えてくれるものは存在しなかった。
――今度こそ逃げきれねば――!
疑問は消えないけれど、目の前のことのほうが最優先。
煌々とした火が逆巻く方から、男たちの怒声が響き渡り、体を強張らせた。
――もうこんな近くに!?
いくら逃げても女性の足と、男たち――しかも馬を乗りこなしている――では、進む度合いが違う。
懸命に走っても、後から追ってくる男たちに追いつかれ――
「へへ、やっぱり女だったぜ」
「一人だけとはちと寂しいが、愉しんでから殺っちまおうぜ!」
男たちの言葉に、わたくしは、ああまたか……と表情に諦念を滲ませた。
すでに逃げることは不可能で、このままいけば男たちの餌食になる未来しかなかった。
――それなら――
わたくしは近づいた男が帯剣している剣を奪い去り、相手に向ける。
男たちはその行動に一瞬虚を突かれ、動きが止まる。
が、すぐに気を取り直した。
「おいおい、あんたが俺たちをどうにかできるなんて思っているのか?」
「……わたくしに近づかないで。それ以上近づいたら……」
もとより生き残ることを考えてはいない。
それなら、辱められ殺されるよりは、自決を選ぶ。剣を首筋にあてた。
――死など、何度目か……それでも、ここでいいようにされるのなら……辱めを受けるより、自死を選ぶ。
首筋から血が噴き出し、わたくしは後ろによろめいた後倒れた。
――ああ……今回も、わたくしは何もできなかった……
ぼやける視界で空を見上げながら、最後にそんなことを思った。