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6話

「あの、ヘッドホンってなんかあるんスか?」


 真っ先に口を開いたのは春乃だった。


「ん? そうだな、君にも教えておいても良いかもしれないな」


「所長」


 何かを言いかけた紫月を睦樹が止めた。だが、紫月は緩く首を振って否定した。


「大丈夫。と言うか、自衛のためにも教えておくべきだと思う」


 2人の話しに付いていけない春乃は首をかしげるばかりだった。


「すまないね、話しを続けよう。依頼者の息子、永井竜司が暴れる理由はヘッドホンにある」


 そこから紫月は静かに語り出した。


「何から話そうか。……そうだな、君は【魂を持つ人形】と聞いたら信じるかね?」


「なんスか。それ?」


「人形には魂が宿りやすいんだ。人の形をしているからなのか、肉体を無くした魂が、空っぽの人形に憑依する」


(随分と胡散臭い話しをし始めたな)


 それが春乃の感想だった。心霊現象など別に信じてはいなかった。詳しくはないが、何とか現象とか、何とか効果というものが作用しているだけだと、テレビに出ている科学者が言っていた気がする。


 テレビやネットで盛り上がっているのは良いが、自分に向けられて話されていると思うと、自然と半目を作っていた。


「まあ信用はできないよな」


 紫月は言いながら自分の服を捲り上げた。


「うおッ、な、なにしてんスか!?」


 突然の事に同様を隠せない春乃にたいし、晒している自身の腹をまさぐる紫月。


 すると、カチッという音が聞こえ、次の瞬間に目の前の女性の腹が開いた。


 時計の内部を思わせるほどに細かく几帳面に回転する歯車。大小さまざまなシリンダーも上下に動き続けている。


 実は手品で、何か仕掛けがあるのだろうという思いと、こんなに綺麗な物が手品などではないという思いが交錯している。


「これが私の身体だよ」


 彼女は開いた腹を閉じ、服も直す。


「私は小さいころに事故で死んだんだ。しかし、その時から父が魔術に傾倒し始めたんだよ。その結果で行きついたのがこの身体さ」


 そこで一呼吸。


「魔術にどっぷりとハマったからなのか、この身体以外にも様々な品を作ったんだ。それには魔術的な意味を持ち、人間に影響を与える物となった。父は魔を蓄える器、【魔器まき】と名付けていたよ」


 そこまで話すと、紫月は春乃のリアクションを待った。


 春乃としてもこの話をどう処理するか迷っていた。適当な法螺話ほらばなしだとしたら、先ほどの紫月の身体の説明がつかない。


 と、そこまで考えた結果、考えるのを止めた。


「考えてもわかんないんで信じる事にします」


 サッパリとした決断に、紫月は呆れ気味に笑う。


「そうか、では信じてもらえたという事で話しを進めよう。魔器は父が残した呪いのようなものだ。私はそれを回収する責務があると思っている」


 その紫月の言葉に春乃が気付く。


「ってことは、ヘッドホンが魔器って事っスか」


「だと踏んでいる。本人を見た時に首にかけたヘッドホンに違和感があった。このまますんなりと回収できれば良いんだが、荒れることもある」


「もしですけど、アタシがそれを回収できればボーナスが出たりは?」


「もちろん出る。だが、回収には危険も付きまとうがね」


「いつもケンカしてるんで、多少の危険は慣れてます」


 2人はニヤリと笑っていたが、睦樹は心配を隠せないでいた。


「水を指すようだけど、魔器の回収は危険だよ。少なくとも、人間の力では魔器の力には太刀打ちできない」


 春乃に言い聞かせるように語る睦樹だが、反応したのは紫月だった。


「もちろんわかってる。だから彼女には武器を渡すんだよ」


「武器って、まさか――」


「魔器も対抗できるのは魔器だけさ」


 そう言って紫月は机の引き出しから何かを取り出して、春乃に渡した。


「これが魔器なんスか?」


 春乃の掌で転がる物。全体はシルバーで、側面には緻密な模様が彫られていて、オシャレと言われればオシャレなものだった。


「それは倶利伽羅くりからという指環型の魔器だ。無くすなよ?」


 紫月が聞いたことのない言葉を口にする。


「クリカラ?」


 名前だけ言われて意味を理解できるはずもなく、春乃は不思議そうに指環を眺めている。


「俱利伽羅と言うのは破魔を意味するんだ。ようは悪いものを打ち払う効果がある」


「なるほど」


 悪いものを打ち払う。その言葉のままに受け取れば話しは簡単だった。


「使い方は簡単。俱利伽羅を指にはめたまま相手に触れれば良い。そうすればスタンガンの要領で相手を行動不可にすることができる」


「へぇ、それだけで良いんすね」


「と言っても触れるのも難しい場合はある。相手が攻撃的であれば猶更な」


 あくまで身を守るようにするアイテムだと紫月は説明する。だが、話しを聞いているのかいないのか、春乃は俱利伽羅を指にはめて眺めていた。


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