闇に潜む鳥たち 4
記紀で似たような名の方々が出てまいりますが、古代史をモチーフに妄想したファンタジーです。
新月の夜。
星の光も濃密な木々の葉に遮られて森は巨大な闇を懐に抱いて、そこに鎮座している。
昏い。
闇もこれほど深ければ、重みを産むのか。
このまま進めば異界に迷い込んで二度と出てこれないような、獣も直感的に禍々しさを感じるのか、気配もしない。
その闇のなかにさらに黒い塊があった。
近寄ると塊りは幾人かのひとの形のようだ。
「おそろしく勘のいい子です」
「ほう」
「人の視線を感じとります。幾度か遠くから覗き見ましたがそのたびに気づかれました」
「百舌の気配に気づいたというのか」
「しかし、武芸は得意ではないようです。ほとんど稽古もせぬようです。ただ」
「ただ?」
「いや、どこか得体のしれないところがあるのです」
「どのように」
「それが、よくわからぬのです」
「もう片割れは?」
「双子だけあって、兄も美しい男子です。この子は陽の性です。武芸に秀で、学問をよくし人望もあります。まさしく大将の器かと」
「兄のほうはわかりやすいのだな」
「はい」
「武芸に秀で、というが得意な得物はなんだ」
「弓、太刀、長槍と、あらゆる武器を使います」
「角力はどうだ」
「体が大男というわけではないので」
「体術は」
「太刀さばきほど目をみはるものでは」
「大将の器だと先ほど言ったな。武芸学問に秀でているが、一番得意なのは武器を扱うこと。そういうことだな」
「はい、際立って」
「兄の方は石上に遣るのがいいかもしねぬな」
「石上ですか、それは」
「案じることがあるのか」
「弟の方がまだ見定められませんので」
「うむ」
「いましばらく、探らせていただきたく」
「いいだろう。相手に悟られぬようにな、いや」
「黒烏様?」
「気づかれているだろう、そのような者なら」
「ならば?」
「こちらに悪意がないということを伝えてみよ」
「はい、しかしどうやって」
「本心から味方になって見守るのだ。それしかなかろう」
「しょうち」
「あと、、、五十鈴姫様が立太子を望まれ、双子を仕えさせたいとねだられたようです」
「立太子はまだ早い。そちらは抑えておく」
闇の塊は音もたてず鳥のように四方に飛び去った。
黒い鳥が飛び去ってしばらく、蛍がかすかな光を灯して一筋流れた。
「蛍?今の時期に?」
百舌はそのかすかな光が秘密の綻びを照らすような気がして身震いした。
気にしすぎだ。いくら勘のいい人間でも数里離れた闇のなかの出来事を知ることなど不可能。
もし、知られたとしたら、それは勘以外の何かだ。